No.18『それが本当かどうかは、結局本人に聞かないことには永遠に謎のまま』
「あぁ~、あっちぃ……」
猛烈な紫外線を肌で感じ、フラフラと自宅への帰路辿り真っ最中の俺は、現日本全国民が思っているであろう言わなくてもわかることをボソっと呟いた。
いやマジでこれ以上年々気温上がるとか言われたら俺もう死ねる自信あるわ。全く……地球温暖化もっとどうにかならんかね。人間が努力せずに地球温暖化防止する方法をさっさと考えてくれ偉い学者さんたちよ。
まぁでも正直どうでもいいよなぁ。自分の後の世代のために尽くすとかなんかアホ臭いし。今自分が努力して地球温暖化を防止して、後々の世代がその恩恵を預かり努力無しでのんびり暮らすって考えたら、なんか
「おーい!
突然、俺の背後から俺の名前をくん付けで呼ぶ声が聞こえた。チラっと後ろを見ると、大きく背伸びをして手を振る少女が見えた。俺はそのまま直進。
「ねぇ~! 葬哉くんでしょ~!?」
「……」
「お~い! ねぇってばぁ!」
うるせぇな。ここ街中だぞ。恥ずかしくないんか。てか俺が恥ずかしいからやめてくれ。
振り返って立ち止まると、小柄ながらもたわわに実ったパイオツを揺らし、こちらに駆けてくる濃茶のミディアムヘア少女――
一二ははぁはぁ息を切らして俺の腕に寄りかかって来た。
「もぉ~! なんで止まってくれないんですかぁ~」
「いやすまん。名前呼ばれたから」
「じゃあなおさら止まってよぉ!!」
ムスっと頬を膨らませる
「何してたんですか~? お買い物?」
「おいおい一二。俺がこんなシャレオツな上に嫌いなイキリ中坊ばっかりたむろしてる大型商業施設で買い物なんてするわけないだろ?」
「葬哉くん、相変わらず口が悪いねぇ……。じゃあなんでこんなとこにいるんですか~?」
「墓参りの帰りだよ」
「あぁ、そうだったんですかぁ~」
時期が時期なだけあって、一二はすぐに納得したという顔をした。
「そういうお前は何してたんだ? えらくめかし込んでるみたいだけど」
「あたしはアレですっ! 高校に入る前までお世話になってた園に帰省です!」
「園……あぁ、孤児院か」
「はい~」
この辺りの孤児院で園って呼ばれてるってことは、多分あのキリスト系の養護施設のことだろう。コイツ、そこ出身だったのか。キリスト系の施設にいてよくもまぁセックス中毒になったな。
「これでもあたし、みんなから『乱子お姉ちゃん』って慕われてるんですよ~」
「全員援交経験者だからベテランのお前を慕ってるってこと?」
「違いますよぉ。単純にあたしが園を出るまでは最年長だったからですっ!」
若干ボケたつもりだったんだけど、普通に否定された。しかもめっちゃ普通の理由だった。俺の心
「こんなとこで話すのも何ですし~、ちょっと落ち着いて話せるとこまで行きましょうよ」
「先輩だけど、俺はおごらねぇぞ……」
「いいですよぉ。むしろあたしがおごりますって~。ちょうど今日あたし給料日ですし」
さすがは風俗店でアルバイトする後輩なだけはあった。お金に対する余裕が高校生にしてはちょっと出来上がり過ぎている。
△▼△▼△
一二の後を付いて行くようにしていると、やがて一二の足が止まった。そこはセイレーンのロゴを見ただけで誰でもわかるコーヒー店の中のコーヒー店、ス〇バだった。
「おい一二。まさかここに入る気か?」
「え、はい。そうですけど~」
「マジかよ、俺〇タバ童貞だから注文とかよくわかんないんだけど」
「大丈夫ですよぉ。スタ〇の店員さんってすっごいフレンドリーですから!」
「いや無駄に馴れ馴れしい店員嫌いなんだよ……」
みたいな感じで少しの間ごねていたが、結局一二に背中を押される形でス〇バへと入店。ほうじ茶を注文することに成功した。ここコーヒーだけなのかと思ってたんだけど、お茶もあんのかい。
「ね~? 簡単だったでしょ~?」
「いやまぁ……うん」
フレンドリーって言うほどでもなくて、極々普通だった。品物を受け取った俺と一二はテーブル席を探したが既に埋め尽くされており、カウンター席に並んで座った。
俺はほうじ茶で喉を潤し、先ほど道端で中断していた会話を切り出す。
「それにしても……『乱子お姉ちゃん』か。全然想像出来ないな」
「え~、そうですかぁ?」
「お前なんか後輩感がすごいんだもん」
「なるほど、あたしは葬哉くんの愛娘ならぬ愛後輩ってわけですかっ!」
「……うん?」
相も変わらず何言ってるかさっぱりわからん。
「園内じゃみーんなあたしに付いてきてくれて、ホント可愛いんですよねぇ~♡」
「手ぇ出してないよな」
「……えぇ、まぁ」
「何そのちょっとはありますみたいなニュアンス含んでる返答」
「あはっ、冗談ですよぉ~。さっすが葬哉くん、あたしと相性最高ですねっ! ス〇バでお喋りなんかじゃなく、ラブホで身体を合わせてお喋りの方が良かったかなぁ」
「少し自重しような一二」
若干本気で後悔してる感じの一二にやさ~しく諭すように言う。すると一二はちょっと不服そうに唇を尖らせ、なんかよくわからんクリーム入った飲み物を口にした。
「一二って、いつからそんな感じなん?」
「そんな感じ~?」
「ヤりたいって考えるようになったのはいつからなのかって意味だよ」
「あぁ~。えっとぉ処女を捨てたのが小四の頃で~、それと同時ですからもう五年くらい前ですねっ!」
「小四で初体験……すげぇな。施設に入ったのは……?」
「三歳の時らしいです~」
「七年でこんなんになっちまうとは施設の人たちも思わなかっただろうなぁー」
「こんなんって何ですかこんなんってぇ~!!」
横から肩をぽかぽか叩いてくる一二。でも全然痛くない、なんてことはなく普通に痛い。おいコラ、そろそろやめろ、肩パンめっちゃ入ってるから。
「……一二は、親の顔は全く覚えてないんだよな」
「えぇそうですねぇ。ぜーんぜん覚えてないですね~」
一二が施設の大人たちから聞かされた話曰く、物心付く前から一二の親は一二の虹彩異色症を気持ち悪がり、虐待していたとのこと。それを見かねた大人たちが一二を保護したみたいな感じらしいのだ。
「虐待されてたとかまったくと言っていいほど記憶ないんで~、正直パパとママのこと悪い人だったとは思ってないって言うか、思えないって言うか……」
「まぁ自分の知らない人の悪口を聞いてもふーんとしかならないしな。……実際、ホントに虐待受けてたかどうかもわかんないし」
「えぇ? どうしてですかぁ?」
「虐待受けてたって話はあくまで大人たちが大人の理由で吐いた嘘かもしれないだろ? お前のことを育てられる金が無いから引き取ってくれって施設に預けたのかもしれないし、蒸発して単純にお前を捨てたのかもしれない。もしかしたらお前が勝手に家を飛び出して今も行方不明状態なのかもしれないぞ」
「でもそれ……すっごい可能性低くないですかぁ~?」
いや低いどころの話じゃない、無いに等しい。でも完全にないわけじゃない。可能性があるってだけだ。
「それが本当かどうかは、結局本人に聞かないことには永遠に謎のままだからな」
「その本人にも嘘吐かれたら~?」
「お手上げだなぁ」
俺が両手を挙げるとクスクスっと小悪魔的な笑い声を漏らす一二。ホント可愛い後輩だ。
一二の両親が虐待をするような人たちだったかどうかはわからない。さっきのはあくまで例え話。だけど、その例え話が後々一二乱子と言うひとりの女の子を変えることになるということに、もちろんのことながら俺も一二も気付いているわけがなかった。
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