プロローグ
『夏休み前日のウキウキ感は一瞬で盛り下がった』
本日、我が
今年の今日はそうともいかない。とある理由のせいで――。
「あぁぁぁ〜。何となく予想してたけど、まさかあのゲス校長私たちのこと夏休みまでコキ使う気じゃないでしょうね」
ため息混じりに隣でそう発言するのは、我が天敵
「いやまぁ、十中八九そうだろ。このクソあちぃ時期に何させられんだろうなぁ……いつかあのゲス女ぶっ◯す」
「ホントに? だったらさっさとやってよ。そういやあんた前言ってたもんね、罪犯せば三食飯付きの寝床が手に入るって。それも税金で運営されてるブタ箱で暮らすの、全国民からタダ飯頂戴してるみたいで気持ちぃよなとか言ってたし、ちょうどいいじゃん」
「いやいや冗談だし。んな本気にすんなよ……」
「それぐらいわかってるわよ。あんたみたいにバカじゃないんだから」
相変わらず口の悪ぅございますねこの女は。頭の中きっと罵詈雑言しか詰まってないのだろう。ちょっと憐れみ。
「あ、朱々ちゃーん! 葬哉くーん!」
「うわ。現れたわね、クソビッチ」
「もぉ〜そんな言い方しないでよぉ〜!」
ぷくっと可愛らしく頬を膨らませて地団駄を踏むセックス中毒の後輩、
今日も灰色の目が窓から差す太陽光を鈍く反射している。
「そう言えば、今日も校長先生に呼ばれてたねぇ〜。夏休みもお手伝いかなぁ?」
「多分ね。その時は、あんたにも来てもらうから」
「もちろんですよぉ〜。あたしの心は朱々ちゃんのモノです! あ、身体の方は葬哉くんのモノですけど///」
「あー、はいはい。ありがとさん」
こいつの下ネタはテキトーに流しておくが吉。何せ
「それじゃ、私らもう行くから」
「はいっ! また夏休みに会いましょ〜」
ひらひら手を振り、一二はとたたっと走り去って行った。多分今日も風俗店のバイトがあるのだと思われる。
女子高生が風俗店で働くなんて、バレれば全国ニュースになってもおかしくないが、援交じゃないだけまだマシだ。それにバレたところで、校長が金の力でどうにかするだろうし。
そんな金の亡者であり、性格超ゲスな我が校の女校長、
向かっていると言うか、召集がかかったと言うか。俺は成績を、春夏秋冬は腹黒であるという秘密を弱みとして握られており、校長の面倒ごとを代わりに解決しなくてはいけないのだ。
とても教師がやるようなこととは思えない。だがあのゲス校長はニタニタ掴み所のない笑顔で強制労働を課してくる。
「せんせー、入るよー」
春夏秋冬がノックすらせず、校長室の扉に向かって声をかけて横開きの戸を音を立てて開く。
中には社長椅子にどっしりと腰掛けて、足を机上に乗せるという、およそ教師とは思えないポーズで今週の週刊少年マ◯ジンをペラペラめくるスーツ姿の東西南北校長がいた。
「春夏秋冬く〜ん、ノックくらいしたらどうだい? 今日はこれ読んでたから良いものを、もしわたしがここで
「どうするって言うか、学校でしないでよそんなこと……。一応は美人校長で通ってんだから」
「うむむ……確かにそうだね。今後は自重するよ」
その言い方だと普段してることになるんですけど、そこについては触れちゃダメなのかな? ダメか、少なくとも男の俺が聞いたらダメか。
「ところで、今日あのキモデブはいないの?」
「夫婦島くんなら、終業式が終わってすぐメイド喫茶に帰って行ったよ」
「いつも通りってことか……」
「そうしたのは君だろう、穢谷くん?」
校長がニヤっと笑みを向けた来た。うん、確かにその通りなんだけどさ。あの時はそれくらいしか解決策が思いつかなかったし……。
「まぁ夫婦島くんのことは今は、というかいつだろうとどうでもいい。今日君たちを呼んだ理由を発表しよぅ!」
やけにテンションの高い東西南北校長。デスクの引き出しから、ホチキスで留められた冊子を取り出し、俺と春夏秋冬へ手渡す。
その冊子の表紙には。
「『
「イエス! わかっていたと思うが、夏休みも君たちにはたくさん働いてもらう! そのしおりに予定を書いてあるから、確認しといてくれたまえ」
パラパラっとページを捲ってみると、中には夏休み四十日間のカレンダーに点々といくつかの予定が記載されていた。パッと見た感じ、思ったよりかは数が少ない。平均して二週間に一度くらいのペースだ。
だが春夏秋冬はそれでも不満らしく、校長にこの日は別の予定があるだとか、もう少し減らせだの抗議しだした。
「うるさいなぁ。いいじゃないか、仲良し二人で楽しいだろう?」
「「仲良くねぇわ!!!」」
「そんなに息合ってて仲悪いとは思えないけどなぁ。それに先日の穢谷くんからのプレゼント、気に入ってるようだしさぁw」
「うっ……///!」
校長の視線の先にあるのは、春夏秋冬の左手首に巻かれた淡い虹色のシュシュ。俺がクラスのでしゃばり王子(ムードメーカーとも言う)の
プレゼントした日以降、それで髪を結っているのを見たことはないが、ずっと手首に装着してリストバンド化していた。
「君、超可愛い顔で『ありがとっ』って言ってたじゃないか〜。その姿はまさに恋する乙m――」
「それ以上言ったら殴る……!」
「じょ、冗談冗談!! だからその灰皿を置きなさい!」
恋する乙女かー。実際あの時は俺も可愛いって思っちゃったし、なんとも言えないんだけど。春夏秋冬は冗談だろうと俺とそういう関係にあると言われるのが嫌なのか、充分人を殺す武器になる灰皿を片手に校長へ詰め寄っている。
「ふぅ〜……まったく、君たち若い世代には冗談が通じなくて困る」
スーツの襟を正しながらぼやく校長。若い世代って、あんたもどっちかっつーと若い方だろ。
「あ、言っておくがその予定表はあくまで予定だ。それ以上になることもそれ以上の以上になることもあるからね」
「減ることはねぇのか……」
「当たり前さっ。さて、それじゃあまた数日後に会おう。今年の夏は楽しくなるぞー!」
おー、とひとり拳を掲げるゲス校長。もちろん俺と春夏秋冬にとっては楽しくなるわけがないわけで。しかしながら、弱みを握られている以上断ることは出来ないわけで。
とにかく、今年の夏は忙しくなりそうです。
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