No.4『オタッキーって言葉、もう死語じゃね?』
「ここね、問題の引きこもり野郎がいるのは」
「あぁ、間違いない。住所通りだ」
高級住宅街の中にあるそれなりに大きい家。車庫にエステ◯マとベ◯ツの最新モデルが駐車されているのを見るに、そうとうな金持ちの予感。
まぁ金の力で校長になった(勝手な予想)あの女よりかはもってはいないだろうけど。
そんな金の亡者である我らがゲス校長、
教師が本気でめんどいと思っているであろう生徒問題第一位『不登校生への対処』を俺たちに丸投げしてきたのだ。
「玄関前でうじうじしてても仕方ないわ。さっさと行くわよ。んでさっさと登校させるわよ」
「お前、えらく自信あるみたいだな。いやナルシストなのはいつものことか」
「誰がナルシストよ! 中途半端なイケメンは黙っといて」
「俺にとっちゃそれ、褒め言葉なんだけど?」
「中途半端なイケメンが褒め言葉って、あんた人生でどんだけ褒められてないのよ……」
若干引き気味の
特技もなければ好きなものもない、何かに熱く打ち込んだ経験もない俺は、そもそも褒めてもらえるようなことをしてないから当然っちゃ当然なのだが。
「はぁ。不憫なあんたのことはほっといて……
「ん、それは一向に構わんけど、何か策でもあるのか? 最近の不登校生は一筋縄じゃいかないと思うぞー」
「はっ、アホくさ」
俺が珍しく親切心で忠告してあげたというのに、鼻で笑われてしまった。通り魔の
「いい? 不登校生ってのは、友達がいないから不登校になるのよ」
「いやそれ絶対ではなくね?」
「それが悲しくて孤独で学校に行きたくなくなって引きこもっちゃうのよねー」
俺の発言フル無視ですか、そうですか。もういいです黙って聞きます。
「そこに美少女のこの私が『学校に来ない?』って救いの手を差し伸べてあげるのよ! 私情を挟まずに想像してみて。絶対嬉しいに決まってるわ!」
「すごいなー、春夏秋冬さんホントすごいわー」
何がすごいってその自分への絶大な信頼と自信ですよねー。ナルシーもここまでくるともはや尊敬というか呆れるというか。
だが春夏秋冬の言うことも一理あるっちゃある。私情を挟まず、つまりコイツの本性をまったく知らない人間になった気分で考えてみれば、その策は成功する可能性大かもしれない。
ま、なんにせよ俺の出る幕はないみたいなので後ろにくっついていくだけでいいや。
「よし、行きましょ!」
「あいよー」
美人だなー、個人的にはガッキーのほうが好きなんだけどなー。
『はい、どなたでしょう?』
「こんにちは! 私、
『は、はぁ……』
「
『あぁ、諦のお知り合いですか。ちょっと待ってくださいね』
プツっとインターホンが切れ、家の中からパタパタと足音が聞こえてきた。そしてゆっくりと玄関扉が開かれ、インターホンの声の主であろう女性が笑顔で俺たちを出迎えた。
「どうぞ中へ」
「失礼します!」
「しゃーっす……」
産まれてこの方、他人の家に入るのは初めてな俺氏。謎に緊張してきたー。
俺が差し出された来客用スリッパに足を入れていると、
「あ、こっちの目に生気がない男は私の奴隷……付き人ですので気にしないでください」
「そう、ですか……」
「はい!」
聞き漏らさなかったぞ俺は。今最初、奴隷っつったろてめコラ。あと言い直した結果付き人ってなんだよ。
「諦の部屋は二階なんですよ」
俺が弁明する暇もなく夫婦島母は階段を登って行く。
それにしても広い家だ。何人で住んでんのかは知らんけど、こんなに部屋いるか? 掃除がバカ大変になるだけだとしか思えん。
「ここです」
「ありがとうございまーす」
そうして母親は心配そうな顔をしながら階段を降りていった。やっぱし不登校だろうが息子は息子と言うわけか……。
「ふぅ。それじゃ、あんたは後ろで突っ立ってるだけでいいから」
「わぁかってるって。何も喋らず黙って無言で棒立ちしてますよ」
「うん、それでよろしい」
満足そうに首を縦に振る
すると。
「はーい?」
不登校生、とは思い難いやけに明るい声で返事が返ってきた。
「諦くん? 私、同じ学校の
「お前その自己紹介、初対面の人に絶対やってんの?」
俺が茶化すように言うと、無言でキッと睨まれた。はいはい俺は黙ってますよ。
「あぁ、学校の人っすか!」
「そう! 私、少し諦くんとお話がしたいんだけど、中に入れてくれないかな?」
「分かりましたー、今開けますね」
奇妙なほどに明るい声音にガチャガチャと扉の解錠音が続く。不登校生って、もっとこう……暗いイメージだったんだけど、偏見なのかな。
ギィと扉が開放し、部屋の中が見えた。自ずと扉を開けた本人、
「こんちは!
しかしだ。一番気になる点は、何故かは知らないが変に元気がいいという部分だ。
「よ、よろしくね」
春夏秋冬も笑顔で自己紹介してくる夫婦島に少し面食らっている。おそらく俺同様、不登校生と言えば、暗くて陰湿なイメージだったのだろう。それこそ漫画とかでよくあるシリアスな悩みを抱えていて、それが理由で学校に通えていないみたいな。
この男は、そのイメージを全部覆してきた。
「あれ、そちらの方は?」
「あ、俺は……」
「私の家来……付き人よ! 気にしないでいいわ」
おいこら、今家来っつったろうが。そんなに俺を下の存在にしたいんか?
「そうっすか。あ、どうぞその辺に座ってください」
「失礼しまーす」
春夏秋冬は夫婦島の言葉通り、床に腰を下ろす。俺はその後ろで立っておくことにした。
ゆっくりとそこそこ広い室内を見渡してみると、まず最初に目に付くのがたくさんのポスター。某死に戻る系や某ソードでアートをオンライン系のライトノベルなどの可愛い女キャラが描かれたものが多い。次に目に付くのが大量の本。ポスターの元であるライトノベル、マンガ本がぎっしり詰まった本棚が部屋を囲むように設置されている。
あと何やら大きな白い布で覆ってある部分があるのだが、何か隠しているのか?
そんな俺の視線に気付いた夫婦島が、頭をかきながら恥ずかしそうに言う。
「えへへ、すんません。僕、だいぶオタッキーなもんで……。やっぱ気持ち悪いっすよね」
「そんなことないわ。人それぞれの個性だもん、気持ち悪くないよ」
うっひょー、耳障りいいこと言うじゃないですか。本心はどうせキモいの一点張りのくせしやがって。
まぁやはりと言うか、部屋を見て思っていた通り、夫婦島は
「それでね、今日私たちが来たのは夫婦島くんがどうして学校に来ないのかなってことなんだけど」
「やっぱそうっすよねー。入学式から一度も学校行ってないっすからねー」
大して気にしていないようなのん気な口調で夫婦島が頷く。
一年生の夫婦島にとって、引きこもっている理由はいくつかあるのかもしれない。クラスに馴染めなさそうとか、容姿に自信がないとか、気持ち悪がられないかとか。
果たして夫婦島はどんな悩みを持っているのか……。
「何か、悩みとかあるんでしょ? 私たちが聞くよ?」
優しい声音でそっと夫婦島に触れる春夏秋冬。コイツ、この短時間で自分に惚れさせようとしてるって考えたら恐ろしいな。
だがしかし、春夏秋冬の優しい言葉に、夫婦島は驚きの言葉を返してきた。
「いやいや何言ってんすか! 僕、悩みなんてまったくないっすよ!」
「「は?」」
「ただ学校行くのめんどくさくなっちゃったから引きこもってるだけっす! 深い理由はないっすよ!」
「「はぁぁぁぁぁ!?」」
不登校の理由にシリアスな悩みごとは一切ない。ただただ休みたいから、めんどくさいから引きこもっているだけ。
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