No.2『最初の放送』

 穢谷けがれや 葬哉そうや。社会不適合者日本代表。十六歳。顔は……そんなに悪くはない。けど別にキャーキャー言われるほどカッコよくはない。

 特技なし、好きなものなし、趣味もなし。強いて好き嫌いを言うなら、他人が嫌い。


 あと『青春』と呼ばれる目に見えない存在が嫌いだ。

 嫌いな理由に深い意味はない。ただただ嫌いなだけ。生理的に無理ってヤツだな。

 いやまぁ俺個人としてはそう思いたいだけで、実際は自分が青春をまったく楽しめていないから、ひがんでいるだけなんだろうけど。

 あとは昔とあるヤツが俺に言った言葉も理由のひとつなんだが、それは今はいいや。


 意味もなく人を嫌い、社会に文句ばっかり言う。そういう社会不適合者さが、唯一の俺の特徴とも言える。つまり俺から社会不適合者って個性キャラ取ったら何も残らないわけで。

 

 これは別に誇れることでも何でもないのだが、学校一の美少女で人気者の春夏秋冬ひととせ 朱々しゅしゅの裏の顔を知っているってのも特徴かもしれない。

 ホントに誇れるようなことじゃない。それを知っているからといって、俺、穢谷けがれや 葬哉そうや春夏秋冬ひととせ 朱々しゅしゅの不思議なラブコメディが始まるわけでもない。そもそもの話、俺アイツマジで嫌いだし。

 

 確かにその秘密を上手く使えば、俺はアイツに一泡吹かせられるかもしれない。青春楽しんじゃってるヤツをぶっ殺す(社会的に)という願望がひとつ叶うかもしれない。

 もちろん中学生で春夏秋冬ひととせの裏の顔を知った時、俺はその秘密をバラしてやると脅したことがある。


 だがアイツはまったくそれに動じなかった。

 春夏秋冬ひととせ曰く。


「あんたみたいな友達いないゴミカスぼっちが言ったこと、信じる人いないでしょ」

「…………………」


 いやマジで。ホントそれ言われた時、正論過ぎてなんも言い返せなかった。泣きそうだった、てか家帰って泣いた。

 その通りなんだよ。俺ごときが人気者、春夏秋冬ひととせの裏の顔について暴露しても、信じるヤツは誰ひとりとしていない。ぼっちの僻みから生まれた悪口としか思われないだろう。


 それから俺は春夏秋冬を追いかける形で高校にあがり、何も無いままこうして高校二年生にまでなってしまった。

 

「おーし、全員いるな。ショート始めるぞ」


 なんたら先生が帰りのSHR(ショートホームルーム)の開始を告げた。ショートと言ってるだけあって、ものの十分もかからない。

 俺はチラリと春夏秋冬ひととせを見やる。周りのスクールカースト上位者たちと楽しげにコソコソ会話していた。時おり弾けるような眩しい笑顔を浮かべている。

 昨日人の金をパクるという普通にブタ箱行きの罪を犯したというのに、なんであんなにキラキラ輝かしいんだ? どんだけ図太い精神してんの?


 その時、俺の視線に気付いた春夏秋冬ひととせとぱっちり目が合ってしまった。

 春夏秋冬はニコっと俺に笑いかけてくる。

 ……右手の中指さえ立ててなければ恋に落ちてしまってもおかしくないほどだったな。


 結局はこの程度の関係なのだ。互いに嫌いだから深く関わることなんてない。アイツと俺のスクールカースト差は天と地ほど違う。

 腹黒だろうが性格ブスだろうが、人気者には変わりないわけで。


 何が言いたいかって言うと、俺に青春なんてものは微塵も関係しないってこと。俺は青春を満喫してるヤツらをぶっ殺してやると心に決めているからな!


 昨日の春夏秋冬との会話で改めて自分の目標を再確認することが出来た。なんか知らんが今日は気分がいいな……。


 しかし、ショートが終わりに近づいてきた時、耳を疑う校内放送が流れた。

 


『二年六組の穢谷けがれや 葬哉そうや春夏秋冬ひととせ 朱々しゅしゅは至急で校長室へ来なさい』


「「は?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る