第1話『僕はデブじゃないっす、太ってるんっす』
No.1『社会不適合者と腹黒』
「よーし、今日はそのアンケート書けたやつから帰っていいぞー」
担任のなんたら先生(名前覚える気はない)がそう言うと、教室がザワザワしだし、もはや適当に書いたとしか思えないスピードでアンケートを提出する
まぁ俺も配られた瞬間に怒涛の勢いで記入しまくったから終わってるんだけど、まだクラスの連中が半数以上いるなかでひとり立ち上がりひとり帰路を辿るなんて事したくない。ちょっと……いやかなり情けなさ過ぎる。だからまだ座っとく。
頃合いになるまで暇な俺は、自分の書いたアンケートを見返してみた。
うん、我ながら非常にゴミカスな回答だ。学校側にこいつケンカ売ってんのかと思われても仕方ないぐらいだろう。ちょっとふざけ過ぎたかな。
でも俺の本心であることに変わりないし、別にいいか。
ん、待てよ。これって名前書かなきゃだっけか?
アンケート用紙に氏名を書く場所があるか探してみると……あった。アンケートの回答を書くことに集中し過ぎて完全に目に入ってなかったわ。
俺は自分の名前、『
何度見てもひどい名前だ。
「なぁなぁ〜、さっさと書いて帰ろうぜ! ちょい俺スタバ行きたいんだわ。今日新作出るんだぜ、新作!」
「はいはい、ちょっと待ってろ。て言うか、お前アンケ書くの早過ぎない? さては適当に書いたな?」
「あったりまえやーん! こんなん一々本気で書く意味なくね?」
クラスメイトのなんとか(名前を覚える気はない)がワーワー騒ぎだした。あー、すっげぇ耳障り、くそウゼェ。あとそのワーワーうるさいヤツが話しかけてるイケメン野郎も目障りなので消えてほしい。
全国のイケメンは今すぐ学校辞めてメンズモデルにでもなってろ。それかジ◯ニーズに履歴書出せ。
「お前もそう思うだろ?
うるさいなんとか君が、イケメン野郎の後ろの席で黙々とアンケートを書いていた少女に問いかけると、その少女がゆっくり顔を上げる。
するとゆるふわパーマのかかった綺麗な黒髪ロングがさらっと揺れ、その整った顔立ちが垣間見えた。美しさと可愛らしさの中に微かに存在する妖艶さ。加えてスタイルもまさに男の理想。大き過ぎず小さ過ぎない、いわゆる出るとこは出ている素晴らしい肉付き具合である。
全世界老若男女誰に聞いても、美少女と答えるであろう彼女の名前は、
学校一の美少女で学校一の人気者だ。そういう人種はつまり俺の大っ嫌いなタイプでもあるわけで。
「もぉ、
あの女が人気者な理由は、真面目にする時は真面目にし、ハメを外す時はしっかりハメを外す。ようはノリが良いわけだ。真面目ではあるけど可愛くてノリが良い。そんなヤツ、人気出ない方がおかしい。
対する諏訪はそんな返答をされるとは予想していなかったのか、少し狼狽えたようだ。
「え、あぁ、すまん!
「さっきは意味無いって言ってたのにぃ〜?」
「うぐっ、それは言わないでくれよ〜」
教室中に聞こえる声量だったので、そのくだりを聞いたクラスメイトたちの間にクスクスっと笑いが起きた。
……うーん、今のくだりのどこが面白かったんだ? お前ら箸が転んでも笑うお年頃真っ盛りなの?
「よし、書けた! あ、
「いやいいよ、おれが持って行く。こういうのは、男が動くもんだぜ?」
「ふーん。それじゃお言葉に甘えて、お願いしまーす」
「はいよー」
へー、あのイケメン、
それにしても、アイツ中身までイケメンかよ。俺だったら絶対持ってってやらない。
「ねぇねぇ
「あたしカラオケにも行きたいんだよねー」
「はぁ~? あんたこの前も行ってたじゃん。そのうち喉つぶれんじゃねー?」
と今度は女子二人が春夏秋冬に遊びのお誘いをしてきた。だが当の誘われた春夏秋冬はと言うと。
「んー、ごめん二人とも。私、今日はちょっと他のクラスの子との約束があって……。ホントごめん! 今度こそ絶対行くから!」
「そっかー、残念」
「分かった。また誘うね!」
「うん!」
へぇー、ラウ〇ンってカラオケもあるんだ。行ったことねぇから知らんかった。
ああいう場所は友達と行くからこそ面白いわけで。友達いない俺が行ったところで面白くないわけで。
今のを見てもらって分かると思うが、
モテる女はツラそうだなぁ〜。超どうでもいいわー。
そんなことを考えつつ、チラッと教室前の時計に目を向ける。時刻は四時を少し過ぎたところ。
よし、そろそろ帰るか……。
俺はショルダーバッグを肩に掛け、アンケートを担任に提出して、結局ひとりで(元より一緒に帰る人はいないが)帰路を辿るのだった。
△▼△▼△
キコキコという少しだけ錆び付いた音の聞こえる自転車を漕ぎながら、自宅へと向かっていた。夏も近くなってきたこの季節、顔に当たる風が気持ちいい。
その時、ふと自販機が目に入った。喉は大して乾いてないけど、炭酸って飲みたくなるんだよなぁ。
俺は自転車を停めて自販機へ。しかしそこで重要なことに気付いた。
サイフがない……。どこかで落としたか、教室に忘れて来てしまったのか。どちらにせよ来た道を戻るしかない。
はぁとひとつため息を吐いて、自転車の方向を学校へと向けた。
△▼△▼△
学校に着くと、二年六組の教室がある三階に小走りする。我が校は六つの
盗られていなければいいが……そもそもクラスのヤツらは俺の存在に気付くことができないような目、節穴野郎どもばっかりだから大丈夫だろうな。
しかし教室の扉に手をかけ、開こうと力を入れたその時。
女の声が中から聞こえてきた。
「あぁぁ!! ホント腹立つ! なにがこういうのは男が動くもんだぜ、よ! いい気になるんじゃないっての!」
ガッシャーン。ガタガタガタ……。
机とか椅子が思いっきり倒れる音が外まで聞こえる。
「それにあいつら、勝手に私を暇扱いするんじゃないわよ! マジぶっ殺!」
ドガッ、ガダダダダダ。
今の音の大きさ的に教卓を蹴ったくった音だろうか。
「死ね、ホント死ね! 気持ち悪いんだよ、目が! お前ごときが私に告白して成功するとでも思ったのかよ!」
おーおー、超ブチ切れてんじゃん。……ま、俺はそんなの気にせず入るけどね。こちとら自他共に認める社会不適合者日本代表だぜ。
空気は絶対読まねぇ。
俺は横開きの扉を開き、教室内に足を踏み入れる。すると先ほどまでの声の主が、バっとこちらを振り向き、目を丸くした。
が、しかし。
「なーんだ、
「あぁ、久しぶりだな
そう。悪口のオンパレードに加え、机や椅子を蹴る殴るしていた張本人は、あの
今、俺に向けている顔は、学校一の美少女で学校一の人気者である
「変わらねぇなお前も。まだこうやってストレス発散してんのか」
「あんたこそ変わらないわね。中学からずぅっとぼっちのまんま、特技もなければ好きなものもない。まさに社会不適合者の
「うっせぇほっとけ腹黒が。鼻へし折るぞ」
「うわ口悪っ! そんなんだから誰も話しかけないのね。可哀想に……私でよければ苺で一日友達になってあげようか?」
そんなことを言いながら人差し指と親指をスリスリする
てかイマドキの女子高生って苺の意味知ってんの? ……確実にコイツだけだろうな。
とまぁ、これが
俺は偶然にもそれを中学校の時に目撃しているのだが、どうやらコイツは高校二年生の今日までずっとやって来ていたらしい。
「私、別に悪いことしてるとは思ってないから。誰だってストレスって溜まるじゃん? 発散しないと身体に悪いと思うのよね」
「一般人はそのストレス発散を学校でやらねぇし、物には当たらねぇんだよ。それに、ストレスは勝手に溜まってるもんだ。お前、自分からストレス作ってんじゃねぇか」
コイツは自分から好きでもない複数の人間と親交を深め、それでストレスが溜まっているのだ。ストレス溜まるくらいだったら無理に人と接触しなければいいのに。
ただまぁ、春夏秋冬にはそれでも無理する理由があるわけで。
「仕方ないじゃん。私は『人気』が欲しいの。知ってるでしょ?」
もちろん知ってる、というか覚えてる。中学ん時にも同じような会話をした記憶がある。
「家でやればいいじゃんって思ってるかもしれないけど、ストレスの原因でもあるクラスの連中がいたこの教室で愚痴って、暴れた方が発散になるのよ」
「お前普通に最低だよな。そのまっすぐに腹黒なとこ、尊敬するわ」
「社会不適合者にまで尊敬されるなんて、私、ホント可愛いわよね」
「全然関係ないと思うけどな。うん、再確認した」
「何を?」
「俺、やっぱりお前のこと超嫌いだ」
俺がニヤっと笑みを作ってそう言うと、
「ふふっ。私もよ、
チッ、めっちゃ腹立つ……。これが嫌いなんだよ、裏表はっきり分けて振舞う姿が、中学校の時からずっとぉ!
俺が心中でそう叫びつつ腹黒女に睨みを利かせていると、ふと何かを思い出したように小首を傾げた。
「そう言えば、あんた何で戻ってきたの? 私に会いに来たの? だとしたら気持ち悪いからさっさと消えて」
「誰がてめぇみたいな性格ブスに会いに来るかよ、自惚れんな、死ね。サイフ忘れてるはずだから、探しに来たんだよ」
俺はぶっきらぼうにそう答えて、自分の席の引き出しを覗く。だがそこにあるはずのサイフは……ない。
ここにないとなると、もう心当たりが一切ないんだが……。
「ん、サイフってこれのこと~?」
「あ。てめ返せ!」
「は? それが誰にも盗られないように持っておいてあげた人への言い方なの? もっと言い方あるんじゃなぁい?」
「チッ、こんの
「え、いらないの?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………助かった」
「どういたしましてぇ~」
俺が歯噛みして渋々礼を言うと、勝ち誇った顔でサイフをポイっと投げてくる
キィーーーー! 超悔しいぃぃぃぃ!! コイツマジでいつか泡吹かせるやる……!
「それじゃ、私は帰るわ。今後は忘れないようにね。あ、そうだ。あんたこの机とか元に戻しといて。それで貸し借り無しにしてあげるから」
「はいはい、わかりましたよ」
「『はい』は一回ね」
「うっせバカ死ね」
まぁそんなもんだ。俺とアイツはお互いに本気で嫌い合っていて、歩み寄ろうとするなんてことは絶対にない。確かに美少女だということは認めるが、俺は裏の顔を知っているわけで。
表とのギャップに萌える! なんてこと俺にはないわけで。
でも、何だかんだでこうしてサイフを持っといて返してくれるところは、アイツの素でいいところなのかもしれないな……。
「――ッ!? あんの
前言撤回。やっぱあの腹黒女、俺に引けを取らない性根からのゴミカスだ。
何故ならば……。
「金
サイフの金、全部パクられてました。よく漁ると、なにやらプリクラと可愛い丸文字で書かれたメモが入っていた。
メモの内容に目を通してみる。
『男子たちの間でこっそり売買されてる私のプリクラを代わりに入れときました。好きに使ってください。具体的には今晩のオカズ、つまりオナ――』
グシャッ。俺はプリクラもろともメモを手の中で握り締めて、ゴミ箱に投げ捨てた。
ったく、男子たちの間でこっそりって言ってるけど、お前が知ってる時点でこっそりじゃねぇじゃねぇか。ホント、末恐ろしい女だ。
久しぶりに
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