第5話半分の…

僕の入院は柳には教えていない。

こっそり持ってきた私服に着替えてこっそり抜け出す。

そして会いにゆく。

305号室に。

「あ!燐君!」

健気に僕の名前を呼ぶ柳。

燐と柳。

石と花の名前。

偶然のような名前だとふと考えた。

「燐君、あのさ。」

「どうしたの?」

静かに笑った君の顔。

「…ううん、なんでもないよ。」

そう呟く君の顔を見ておけばよかった。





翌日、柳に会いに行ったけれども昨日のあの柳ではなかった。

「君は、誰かな?もしかして、私の知り合いかな?」

「…え?」

初対面のような対応に驚きが隠せなかった。

にこりと微笑まれたけれど、昨日のような優しさの笑顔ではなかった。

「まーかけなよ、丁度退屈してたの。」

「…あ、うん。」

涙が出ないくらい悲しかった。

柳は窓辺の花瓶に目を落とした。

「この花、ずっと枯れてないんだって。えっとこの花、なんて言うんだっけ?」

「…雪、雪柳。僕が、この世で1番愛している花。」

健気。恋。君にとても似ている。ゲッカビジンよりも。

それなのに、

「雪柳。あ、もしかして、燐君?」

「う、うん!」

へー君がかと呟くと、

「これ、昨日の私から君にって。」

手渡された子包み。

「それから、今気がついたんだけどね、頭の記憶が消えても、体の記憶は消えないみたい。」

たんたんと話す。柳さん。

「君がこの病室に入ってから私の心臓の動きが早くなった。」

そしてニコリと顔を上げた。

「昨日までの私は、どうやら君の事が好きだったようだよ。」







まっすぐ病室に帰った。

昨日の柳からもらった子包みをあけた。

綺麗な緑色の石が入っていた。

それと手紙が。

『燐君。私明日には頭も宝石になるらしいから記憶のあるうちに渡します。燐葉石です。今までありがとね■■■■』

涙なのか、消したのかわからないが読めない字があった。

ただ、その内容はなんとなくわかった。

静かにベットに倒れ込む。

ドキン、ドキンと背中がなる。

タイミングが良かった。

僕はベットに、根を生やした。











「ごめんね、燐君。本当にごめんね」

誰もいなくなった病室に語りかける。

気がついていた。彼も病気だったということに。

彼には生きていてほしいから、嘘をついた。

治療にただ専念して欲しかったから。

馬鹿だな。昨日の自分とか言って告って。

今日も明日も明後日も、あなたの事が大好きです。

そう思っていたら母親が真っ青な顔で走ってきた。

「おかあ…」

「燐君、ついさっき、亡くなったそうよ…」

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