第15話 朝から来た二人
隼人が部屋にやって来ると博士がテーブルの席についていつものように新聞を読んでいた。
桃乃と律香も一緒にいて、彼女達はテレビを見ていた。桃乃が来ているなら律香も来ているか。二人は仲の良い友達だ。そのことに不思議は無かった。
二人が見ているのは朝の子供向けの番組だ。
そわそわとした様子の桃乃の隣で、律香が振り返って声を掛けてきた。
「お兄さん、おはよう」
「ああ、おはよう。お前も来てたんだな」
「うん、朝からもーちゃんに起こされてね。もう参っちゃうよ」
「まあ、桃乃がはしゃぐ気持ちは分かるよ。そりゃ来たいだろうってな」
「分かるの!?」
律香はなぜか驚いたように目を丸くしていた。その隣で桃乃が律香の上げた声に驚いたように肩をびくっとさせていた。
ロボットに乗れるんだからそりゃ乗りたいと来るのは普通だろと隼人は思うのだが。桃乃はテレビを見たままだ。
今いいところなのか、その頬は少し紅潮しているように感じられた。
隼人は考えて、やっぱり一つしか思いつかない答えを口にした。
「そりゃ分かるだろ。お前らはロボットに乗れるんだもんな。そりゃ乗りたいだろうなってことぐらいはな」
「そうですね。ロボットに乗るの楽しいですもんね。お兄さんにとっては」
「ん?」
律香は何故か想定通りの当然のことを答えながら、呆れているような表情を見せていた。
何か違っていたのだろうか。隼人は不思議に首を傾げた。
そこでアニメがCMに入って、桃乃がやっと振り返って声を掛けてきた。
彼女は感情を抑えるように口を引き結びながら、とても真摯で真面目な顔をしていた。
子供が子供向けのアニメを見て興奮するのが恥ずかしいと思っているのだろうか。別にそんなことはないんだから無理をしなくていいと隼人は思う。
桃乃は息を吸って、すぐに言葉を発してきた。
「いえ、今日はロボットに乗りに来たわけじゃないんです。隼人さんとその……遊びに来たんですよ!」
「遊び?」
そう言われて隼人は思い出す。前に博士から遊んでいると言われた時のことを。ロボットに乗るトレーニングをしていたことをそう言われたことは心外だったことを。
あれからすぐに桃乃を迎えに行ったんだっけ。律香もロボットに乗るようになったり、あれからいろいろあったものだ。
考えていると途中で桃乃が言葉を続けてきた。今度は少し声をごにょごにょと濁すようにしながら。
「だからその……出来たら大人の遊びを隼人さんと……うきゃ、言っちゃった」
「もーちゃん……」
律香は少し呆れ顔。まあ、気持ちは分かる。
桃乃は大人のパイロットがやるようなトレーニングをしたいと言っているのだから。
積極的な彼女に、隼人も前向きに答えることにした。
「お前の気持ちはよく分かるぜ。早く一人前になりたいんだよな」
「はい!」
元気に答える桃乃。その姿が小学生ながらとても素敵で凛々しく思えた。
博士の発明を無邪気に見ていた子供の頃の自分を思い出すようだった。
だが、やる気があるからこそ、隼人は彼女が無茶をしないように釘を刺しておかないといけないと思った。
「でもよ、お前にはやっぱりまだ大人のやることは早いと思うんだ」
「そうですか……」
桃乃はしょんぼりしてしまった。律香が何かフォローしようと動きかけるが、その前に隼人は続きの言葉を口にした。
「何もするなと言っているわけじゃない。急ぐことはないと言っているんだ。まずは今出来ることをだな。俺と一緒にやって行こうぜ!」
「はい!」
隼人は手を差し伸べる。桃乃はその手を取って笑顔で答えてくれた。
さて、小学生のトレーニングといっても何をすればいいのだろうか。
隼人は考えて、小学生のやることは小学生に訊くことにした。
「お前ら、いつもは何をやって遊んでいるんだ?」
「縄跳びとか」
「オセロとか」
「ふむ」
何とも小学生らしいシンプルな答えだ。
やはり何か特別な訓練をしているわけじゃないらしい。当然か。彼女達は正規の軍人でも何でも無い、ただパイロットに選ばれただけの少女なのだから。
ならばまずは普通に遊ぶことから始めようか。
隼人はそう決めて、遊ぶ道具のある場所を考えた。
「倉庫に行こうか。あそこならいろんな物があるからな」
「隼人さんと倉庫に……」
桃乃が何故か照れている。その隣で律香が訝し気に訊いてきた。
「閉じ込めたりしませんよね」
「しねえよ」
小学生だとまだああいう薄暗い場所を怖がる年代なのだろうか。
隼人も昔はちょっと不気味で怖いと思ったことを思い出して苦笑してしまうのだった。
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