第二章 第2のロボット
第7話 第2のロボット
町が火の海となって燃えている。立ち込める煙、崩れゆくビル群。その破壊の中心にいるのは
「グギャアアオオオオオウ!!」
巨大な災獣だった。ビルよりも大きな身長。体表は厚い皮膚で覆われていて頑丈だ。力も強い。そんな物騒な災獣が高らかに吠え、腕と尻尾を振り回し、口から炎を吐いている。また建物が破壊されていく。
どうしてこんなことになってしまったのか。人々はただ恐怖に逃げ惑うしか無かった。
「こちらへ避難してください!」
「災獣め!」
「国防軍の意地を見せてやる!」
ずんぐりとした国防軍の地味なロボット達が攻撃を仕掛けていくが、敵には全くダメージを与えられてはいなかった。
「無傷か!」
「この世にもう希望は無いのか……」
災獣にとって国防軍のロボットなどまるで相手にならなかった。
まるで彼らなど脇役のエキストラだとばかりに容易く蹴散らされていく。
誰もが絶望に沈もうとした、その時。天から勇敢な青年の声が鳴り響いた。
「待たせたな、みんな! ここからは俺に任せてくれ!」
空から舞い降りたのはヒーローのようにかっこいい正義のロボットだ。量産型の地味な国防軍のロボットとは違い、それは主人公のような風格と力強さとかっこよさを持っている。
まさしく救世主のように現れたそのロボットに乗っているのは勇敢な青年、空崎隼人だ。
誰もが安心に顔を和ませ、ヒーローを迎えた。
「来てくれたのか!」
「隼人!」
「救い主よ!」
「フッ」
みんなからの希望を一心に浴びながら、隼人は笑う。そして、熱く力強い戦士の瞳をして破壊を続ける災獣を睨み付けた。
「行くぜ。ここからは俺の見せ場。俺がロボットに乗って活躍するぜ!」
隼人の乗るロボットは果敢に敵に向かって突っ込んでいく。正面から堂々と。敵を倒してみんなを助けるヒーローになるために。
そんな夢を見ていて目が覚めた。
朝の太陽は平凡な日差しを部屋に投げかけていた。
「朝か……」
ベッドから起き上がって、隼人はパジャマから服に着替えた。
「俺もたいがい未練がましいな。あんな夢を見るなんてよ。ロボットには桃乃が乗ることになったってのに……」
パイロットが決まった今、トレーニングをする必要ももう無いのかもしれない。
体はまだ戦いたがっていて、腕がうずうずしているが。
隼人は袖を通した自分の手を握りしめ、見つめた。
「俺もこれからの身の振り方を考えなきゃいけねえな」
国防軍の手毬と相談するのもいいかもしれない。でも、もう少し自分一人で考えたかった。
「俺がやりたいのは国防軍に入ることじゃねえんだよな。ロボットを見に行ってくるか……」
すぐに決められる物でもない。
桃乃のロボットを見ながらゆっくりと考えよう。
そう決めて、隼人は工場の地下へ向かった。
殺風景な階段を降りて飾り気のない廊下を歩き、広い地下室へ辿りつく。
桃乃の物となったロボットは変わらずそこにあった。
「昨日はこれが動いて戦ったんだよな。そう思うとやっぱ凄えわ。爺さんがスカウトされるのも当然……ん?」
そこで隼人は歩いていた足を止めて、目を丸くしてしまった。桃乃のロボットの隣に、見覚えのないロボットが立っていたのだ。
「あれ、ロボットだよな……? 何で増えてるんだ……?」
隼人は自分の目を擦ってみるが、確かに見間違いではなく、もう一体のロボットが確かにそこに存在していた。
言葉を失って見ていると、やってきた博士が呑気に朝の挨拶のように声を掛けてきた。
「隼人、やっと起きてきたのか。わしは久しぶりに徹夜をしてしまったわい」
「おい、爺さん。何なんだこれは」
「あ? 二号機じゃけど?」
「二号機?」
何でもないことのように言ってのける博士。隼人は呆然とするしか無かった。
そんな孫の様子も気にせず、博士は自分本位に話を続ける。どこまでもマイペースな人だった。
「ああ、昨日桃乃ちゃんの戦いぶりを見ていたら、こう造りたくなってしまってのう。前々からいろいろ造りかけてはいたのじゃが、つい時間を忘れて張り切って一気に仕上げてしまったわい」
「それでこれには誰が乗るんだ?」
隼人は訊ねる。自分にとっては重要なことを。
博士にとっては誰が乗るかなどどうでもいいことのようだった。彼の答えは前と同じだった。
「それはロボットのコンピューターの決めることじゃ。ほれポチっとな」
彼は実に気楽にリモコンのスイッチを押した。
前と同じように候補者の写真やデータがモニター画面に表示されながら次々と映し代えられていく。計算が行われているのだ。
その画面を見つめながら、隼人のテンションは朝から上がりっぱなしだった。
今度は誰が選ばれるのだろう。また小学生だろうか。だが、桃乃がそうだからと言ってまたそうなるとは限らない。事例はまだ一件しか無いのだから。
隼人は緊張に息を呑む。隣で博士が呑気に言った。
「今度はパイロットの条件に桃乃ちゃんのサポートが出来る者を追加したからのう。桃乃ちゃんに近い者が選ばれる可能性が大だろうのう」
「え? それって……」
俺じゃないか? 昨日一緒にいたし、サポートしたし、一緒に戦って仲も良かった。
隼人は期待する。期待してもいいはずだ。桃乃もここへ来ることを喜んで大層気に入ってくれていた。
可能性はある。
隼人がそう確信を強めた時だった。コンピューターの計算が終わった。
表示されたパイロットの写真とデータを見て、博士は満足そうに頷き、隼人は視線を困惑に歪めた。
「やはりあの者を選んだか」
「やはりあの者を選んだか……じゃねえよ、爺! 昨日は大目に見たけどよ。本当にあいつをロボットに乗せる気かよ!」
隼人は画面を指さして叫ぶ。
そこに表示されていたのはロボットに乗って桃乃のサポートをするのに最もふさわしいとコンピューターが判断した人物だった。
その人物とは桃乃の友達、律香だった。
隼人も可能性を考えなかったわけじゃない。
昨日、彼女が呼んでもいないのに桃乃を迎えに工場まで来たのは記憶に新しいところだった。
「確かに桃乃とは仲が良いのかもしれないけどよ。ロボットに乗る適性ってもんがあるだろうがよ! あいつはここへ来るのをあんまり喜んではなかったぞ!」
「だが、適正をコンピューターは見抜いたのじゃ。うむ、この者ほど二号機にふさわしいパイロットはおるまい。さっそく連れてきてくれ」
「今は学校の時間だろう」
隼人は渋々呟く。博士は何も気にしていなかった。
「そんな常識的なことを気にしていては大成は出来んぞ」
「普通は常識ってやつを気にするんだよ!」
隼人は叫ぶ。今まで自分勝手な博士に困らせる人々を大勢見てきたが、今その立場に自分が立っていた。博士は困ったように首を振る。
「困ったのう」
「勝手に困ってろ」
「二号機が動かせないんじゃ、三号機を造る必要も無くなってしまうのう。この調子でバッタバッタと造りたいと思っていたんじゃがのう」
「うぐ……」
隼人は考えた。三号機……造ってくれないと困る。迎えに行くぐらいお安い御用だろう。そう、しっかりと考えて結論を出した。
「分かった。放課後だ。学校が終わったら、こいつを連れてきてやるからな。だから、爺さんは落ち着いて自分の仕事のことだけを考えて頑張ってろ」
「うむ、便利な孫を持ててわしは幸せだわい。では、任せたぞ」
そう言って博士は自分の部屋へと帰っていった。
これから寝るのか何か別の事をするのか隼人は知らない。
ただ自分は自分のことをするために、外へと向かうのだった。
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