第56話 8日目⑦
僕たちは、廊下の端にいる。なぜか、廊下はここで切れている。あの部屋からは扉を通って出て来た。しかし、トモナの見送りの声はなかった。そのかわり、
「ありがとう、モルナ。ボクを生まれ変わらせてくれるんだね。」と言う声が聞こえて来た。体の半分はさいころのモルナに沈んでいたが。
「まあ、これで、『心』の部屋もクリアしましたね。」僕が言う。
「うん。ありがとう。織屋。」この微妙なテンション、椎名さんだ。
「よかった、織屋がいなかったらどうすればいいのか分かんなかったよ。二人ともおかしかったし。」と御紋さん。
「ごめんね。なんか、明るくしろ、さもなくばって書いてあったんだよね。混乱させるのは分かってたけど、従った。」と三谷さん。
「私もハイテンションでって書いてあったんだよ。さもなくばとも。」と椎名さん。
「そうだったんですか。僕には冷静さが鍵とありました。そのおかげもありましたね。」僕が言う。
「でも、織屋あの結末よくわかったね。」と御紋さんに言われる。
あの結末。それは端的に言ってしまえば、トモナが嘘つきだった。ということだった。トモナが投影させた説明がおかしかたということだ。僕がこれに気づけたのは、椎名さんの発言の違和感があったが、最後にもう一つの違和感があった。それは、壁の説明だった。「この部屋の中にうそつきがいる。」確かこんな内容であっただろう。よく考えたら、あなたたち四人の中にとかでもいいはずだった。この部屋の中にというのは、モルナを範囲に入れるためだったのだ。これに気づけば、あとは早かった。
「でさあ。これからどうするの、廊下が終わってるよ、ここで。というか、切れてるよ。」御紋さんの言う通り、ここで廊下がスパッと切られているのだ。前には空が広がっている。
「たしかに。魔王がどこにいるのかもわからないし。」椎名さんが言う。
「うん。なんか、聞こえない?」三谷さんが言う。
トトトト。
確かに聞こえる。機械音っぽい。
「ごめん、待たしたね。」そこにはモルナと呼ばれたさいころがいた。
「ちょっと手間取って。まあいいや。ここから、瞬間移動すれば、魔王がいる『或る部屋』に行けるよ。瞬間移動はできる?」そう問われて、黒魔女が、
「できないです。」と言うと、
「じゃあ、してあげる。するのは、僕じゃないけど。はい。くっついて、もっと寄って。」そう言われた僕たちは輪状に固まった。
次の瞬間、景色が変わった。
そこは外だった。
とても部屋とは言えない。大自然だった。でも部屋の前に来ただけかもしれない。でもこの感覚前にも味わったことがある気がする。それも、ちょっと前に。そう思っていると、
「この瞬間移動って二回目だよね。」と御紋さん。
「でも、床は抜けなかったね。」と椎名さん。
「だって、魔王の城だもん。」と三谷さん。そうか、今のは魔界に来た時の魔王の瞬間移動と同じものか。たしかに、モルナも移動させるのは僕じゃないなんて言ってた気がする。
「お城にいたから気づかなかったけどさぁ、太陽真上にあるね。」と御紋さん。たしかにその通りだ。そしてこの流れは
「お昼ご飯。」めずらしく椎名さんが叫んだ。でもこれは指令でのハイテンションではなさそうだ。本心からだろう。
「じゃあ、キッチンとか出してください。食材はありそうですし。」そう言って、森のほうに歩く。
「私も行く。」そう言って、御紋さんがついてきてくれた。
「魔王の部屋、どこだろうね。」会話はそんな一言から始まった。
「どこでしょうね。」良い返しが思いつかず、こんなものになってしまった。
「わかんないけど、この辺にあるんだろうね。」
「そういえば『或る部屋』っていう名前みたいですね。」
「うん。あの、心の時はありがとう。わたし、何もできなかった。」
「そんなことないですよ。いつもどおりの御紋さんの存在は心強かったですよ。」そう言うと照れ隠しか
「これでいいよね。」と木の実を手に持って言ってきた。
「OKです。」こんな何でもない会話が暖かい。
日差しはいつも通りだ。
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