第55話 8日目⑥
「まあまあ、そんなに重く考えずに、ほら顔を上げて。」そんなことをいきなり言ったのは三谷さんだった。
「双葉ちゃん、おかしくなったの。なに、嘘つきなの。」椎名さん。
「そんな、カチカチしないでよ。」御紋さんが言う。
「ちょっと、みなさん、落ち着いて。」いつもなら、僕のこの一言で、みんなは耳を傾けてくれるはずだ。だが今はいつもではなかったようだ。なんだろう。おかしい。でもどうすることもできない。おかしい。でも何もできない。どうしよう。さあ。でもこのままでは、会話が進んでしまう。待て。それでもいいか。三人の出方を窺おう。
「どうする、織屋。」三谷さんが明るい声で言う。どちらかというと、乾いている声だ。
「まあ、早く決めよう。だれが嘘つきなのか。」椎名さんが言う。やけに急ぐな。
「いそがないでよ。京華ちゃん。」御紋さんが言う。
「そうですよ、いったん落ち着いて話し合いましょう。」僕が言う。
「分かった。」御紋さん。
「うん。」椎名さん。
「OK!」三谷さんが言う。
「じゃあ、まず皆さん何を見ましたか、壁に。」僕が言う。
「別に。嘘つき決めよう。って書いてあっただけだよ。」いち早い返答は三谷さん。
「私も、基本的には。」御紋さん。
「うん。そんな感じだった。あと。」椎名さんも落ち着きを取り戻してきたようだ。あと、が気になるが、深追いはやめよう。また、テンションが変わったら大変だ。
「どうする。だれが、嘘つきなの。早く名乗ってよ。」椎名さんが急かす。
「そんなこと言われても、どうしようにもならないよ。」御紋さん。
「結局、決まんないね。どうしよう。ほら、トモナ、どうすればいいの。」三谷さんが言う。
「べつにボクは何も言えないよ。嘘つきの処分まではここから出れないよ。」トモナがモルナを抱えながら楽しげに言う。
「なんなの、処分って。」椎名さんがかみつく。
「ああ、嘘つきへの処罰ですね。」僕が言う。
「ああ。うん。」椎名さんが言う。
「話が進まないよ。」御紋さんが言う。
「そうだよ、もういいや。」三谷さんが部屋の端へ行こうとする。どうしよう、話し合いができなくなりそうだ。どうすればいいのだろうか。まあいいか。静観しといたら良いのかな。静観にする。でも、なし崩し的に解散は嫌だ。
「じゃあ、いったん頭を冷やしましょうか。解散。」僕が言った。
「OK。」三谷さん。
「別に冷やさなくていいよ。」椎名さん、そう言いながらも壁に近づいていく。
「わかったよ、織屋。任せるね。」御紋さん。
こうして、話し合いは打ち切りになった。そういえばなんで話し合いしてるんだっけ。そういえば、ゲームが行われたんだった。なんで。魔王討伐中じゃなかったっけ。四人で楽しく。そうだ。ここは『心』を試す場所だった。心を試すとはなんだろう。絆を確かめる。信頼しあう。そんなところだろうか。それが今はどうだろうか。まともに会話すらできない。それでも、僕はまともでない会話を思い出そうとした。
椎名さんの声が思い出される。「うん。そんな感じだった。あと。」「なんなの、処分って。」なぜかこのセリフが頭の中で強調される。なんでだ。
このことに三分ぐらい費やしただろうか。そして思い出した。このセリフには違和感を覚えたんだった。あと、のあとに何を続けようとしたのか。なぜ、処分を知らなかったのか。ここまで考えた後、僕はさらに一歩進んだ結論にたどり着いた。
みんなが見た内容は違う。もしかしたら、僕への最後の言葉は、「冷静さが鍵」みたいなものだったが、それも違ったのかもしれない。たとえばいつもより明るい三谷さんには、「明るくふるまえ」椎名さんには「テンション高めで」御紋さんには「いつも通りに」みたいな。ということは、このゲームの目的はなんだ。お互いの中を悪くさせる。いや目的はもとからあった。嘘つきの処分。分かった。この中にうそつきはいる。
「みんな集まってください。」気づかぬうちにみんなを呼んでいた。この後はどうすればいいのだろうか。
「嘘つきがわかりました。僕はトモナを処分してもらおうと思うんですけど、いいですか。」そう言うと、
「もういいよ、どうでも。」と椎名さん。
「OKよろ。」と三谷さん。
「織屋なら、間違いないよね。」と御紋さん。
大きく息を吸った。緊張する。でもこれが最適解だろう。
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