第53話 8日目④

「すっごい疲れたけど、楽しかったね。」御紋さんが言う。

「うん。でもホント疲れた。」椎名さんが言う。

「あの子たち、ロントだったっけ。かわいかったね。」三谷さん。

「すごいカラフルでしたよね。」僕。

「じゃあ、次行く?」唐突な御紋さん。

「ええ。『体力』ではないでしょうし。」

「じゃあ何かな。」椎名さん。

「『頭脳』とかじゃない。」三谷さん。

「まあ、それなら、織屋居るし大丈夫でしょ。」御紋さん、そう言ってもらえるのはうれしい。

「開けました。」御紋さんがすでに扉を開けている。

 出迎えたのは、ベルボーイの様ないでたちの魔物だ。

「どうもこんにちは、コトルです。『三人の番人』の『知力』の担当です。」コトルと名乗った彼が言う。やはり、知力だったようだ。

「で、何が課題なんですか。」三谷さんが言う。

「ああ、言いますね。課題自体は大したことではないんですが、魔王様は、民の悩みを解決するお仕事もされてるんですね。それで九割方はご本人で解決されるんですが、最近宿屋の主人から問題が起きたと相談されたようで、それを解決できなくてお手上げになってしまったんですよね。」

「ああ、なるほど。」椎名さんが相槌を打っている。

「どんな話かというと。宿屋に三人のお客さんが来たらしいです。一泊三万ペルのお部屋が空いていたので、一人1万ペルずつ出して泊まってもらったらしいんです。でも後でその部屋は、2万5千ペルのものだったと分かったらしいんですよ。だから、主人はレジから5千ペルを出してボーイに渡したらしい。だがボーイはそのうちの2千ペルを自分のお小遣いにして残りの3千ペルを一人あたり千ペル返したらしい。」

 そこまで話したコトルに

「駄目じゃないですか。」と御紋さんが怒っている。

「まあまあ初ちゃん。」二人がなだめている。

「で、お客は初めに、1万ペル払って、千ペル返って来たから、一人9千ペル払ったことになるな。で、ボーイが2千ペルもらったんだな。ということは、お金が、合計2万9千ペルになってしまうんですよ。ほら困った。」

「確かに。」御紋さんが言っている。

「うん。よくわかんない。」椎名さんもあっさりあきらめている。

「どこも矛盾は感じられないですね。」僕が言う。

「私もそう思う。」三谷さん。

 このまま、沈黙が続いた。四人で答えを考え続ける。おそらくコトルも考えているだろう。何回も考えたのであろう。だが答えは分からないということだろう。

「どうしたらいいかな。」ついに御紋さんが口を開いた。

「なんか頭の中で考えただけだと大変そうですね。」僕が言うと

「じゃあ、実際にやろっか。」そう言った黒魔女が千ペル札を出した。10枚。

「私が、主人役やるね。初ちゃんは?」椎名さんが言う。

「私、ボーイ役する。」

「じゃあ、僕と双葉さんとコトルさんが客の役をしましょうか。」

「分かった。」と三谷さん。

「私もやればいいのだな。分かりました。」

 そんな感じでよくわからないキャストでの劇が始まった。

「待てよ、これ、わたしが盗んでもばれないんじゃないか。この2千ペルで靴が買える。」御紋さんがうれしそうだ。劇中の出来事なのだが。

 こうして、劇は全部終わった。

「あれ、普通だったね。」椎名さんがあっけなかったというように言う。

「ええ。何もなく。」と僕。

「どこにもお金は消えてないね。」椎名さん。

「そうだな。だが別に解決にはなってない。」コトルが言う。

 なにかがおかしいはずなのだが。えーと。あっ。

「分かりました。何がおかしいか。」僕が言う。

「たぶん、客が払ったお金、2万7千ペルと、ボーイの2千ペルを足すのが違うんですよ。」

「じゃあ、正解は何です。」コトルが言う。

「客が宿に払った2万5千ペルと、ボーイの2千ペルと返金された3千ペルを足せば、3万ペルになりますよ。」僕が言う。我ながらよく気付いたものだ。

「すごい。」三谷さんが言う。

「良く気付いたね。」椎名さん。劇のおかげです、と返すと照れている。

「やっぱり織屋がいればOKだったね。」と御紋さん。

「ありがとうございました。魔王様に伝えておきます。ではあちらからどうぞ。」そう言われて、扉から出る。一時間がたったぐらいだろうか。

 まだ部屋が続いている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る