第52話 8日目③

 僕たちの不審で心配そうな顔を見て悟ったのか、バンガが言う。

「別にたいしたゲームじゃないさ。今から俺が小さな柔らかい魔物、ロントというんだが、をいっぱいだす。そいつらにはいろんな色があって、、、。」

「って見た方がわかりやすいな。ほら。」そう言って、バンガがいかつい手からリンゴぐらいの大きさの魔物を出した。色はパンクな黄色だが。

「かわいい。」御紋さんが言う。

「確かにパフパフしてる。」椎名さんも言う。

「本当だ。で、色があって、なんですか、バンガさん?」三谷さんが言う。

「まあ、そうカチカチするなってお嬢さん。で、こいつらには6種類の色がある。このわくわく黄色、底抜けピンク、大空水色、ポイズン紫、朝の若葉、深海ブルーの6つだな。」バンガが言う。

「なんか楽しげな名前ですね。」椎名さんが言う。楽しげ、か。たしかに。

「だれのセンスですか。」御紋さんが訊いている。

「ああ、俺だ。ありがとう。で、こいつらは同じ色同士がくっつくと消えちまう。試しにやってやろう。ほら。」そう言ったバンガの手から出て来たわくわく黄色の二匹目が一匹目とくっついて消えた。

「ええっ。」三谷さんも声を上げている。

「そう、かなしいだろ。だから、俺がいっぱい出すこいつらロントをお前らはくっつかないようにしながら、色ごとにかごに分ける。ただこれだけだ。俺がこの魔界のすべてのロントを召喚し終わったら、ゲームクリアだ。」

「消えたのは、どうなるんですか。」まだ三谷さんはそこが気になるようだ。無理もないか。

「別に死んだわけじゃねえ。また魔界のどこかで生まれるだけさ。」

「じゃあ、魔界中のロントを召喚し終えるって言うのは。」椎名さんが何かに気づいたように言う。

「そうだ。永遠ループがあり得るってことだな。」そう、あっさり言ってのける、バンガ。

 もしかしたらこれは思ったより重労働なのかもしれない。そう思っていると、バンガが、

「なんか、その男が重労働とか思ってるみたいだが、その通りだ。骨が折れるぞ。魔王討伐と意気込んだやつらは大体ここであきらめて帰っていく。そういえばこれは、『三人の番人』の一人目が受け持つ俺の『体力』の試練だぞ。頑張れよ。はい、じゃあ、スタート。」なにも話し合えてない、ぼくらの周りにかごが6つ落ちて来た。そしてバンガの手をたたいた音が響いた。同時に一匹のロントが出て来た。色は大空水色。よく考えたら、大空なのか水なのかよくわからない。それにこいつらは、小さい体ながら、手と足がきちんと生えている。後ろからそっと抱きかかえて、かごに向かう。大空水色のかごが部屋のあっちの隅にある。どうやら部屋の長い壁の方に三個置いてあるようだ。

「織屋、こっちも来た。入れとくよ。」これは椎名さん。

「あっ、わくわく黄色ちゃんが来た。」と御紋さん。

「名前はロントじゃないの。」二匹を抱えて走る三谷さんが言う。

「お嬢ちゃん、ロントは種の名前だ。インド象みたいなな。今の底抜けピンクのやつはメリー、ポイズン紫のやつはドルクだ。覚えときな。」バンガが言う。

「えっ、一匹一匹なまえがあるんですか。」僕が言う。

「そうだが。」

 こんな感じで、20分ぐらい、ひたすら、ロントたちを分けた。何回もかごに入りきらない、なんて場面を迎えたが、そのたびにかごが大きくなっていった。

 始めてから30分後、バンガの勢いが衰えた。

「なんか、もういないっぽいな。」そんなことまで言っている。

「そうですか。はぁはぁ。」椎名さんが言う。

「全部でどれくらいなんですか。」三谷さん。ぱっと朝の若葉が落ちて来た。それを拾いつつ言う。

「それが分からないからっていうか、それを知りたいっていう魔王の命令だったんだよ。あと十分間召喚し続けて、来なかったらいいって、さっき連絡あったし。」そんなことを言っている。

「そうなんですか。」御紋さんが純粋に驚いている。息切れせずに話せるのは御紋さんぐらいだ。

 この後、50匹ぐらいまとめて落ちて来て、焦ったが何とか大丈夫だった。

「おまえら、よくやったな。まさか、クリアするとはな。特にその背がでかいのが頑張ったな。」バンガがそう言う。御紋さんがうれしそうだ。

「じゃあ、行くぞ。」このバンガの声と共に、部屋の奥に、扉が現れた。

 僕たちは次はあっちに行くのだろう。それにしても疲れた。

 頭の中で蛍光色がちかちかする。

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