第51話 8日目②
お城の前から人形が来た。人が来た。どっちだろう。でもとりあえず、三谷さんの、あっ、の意味は分かった。あいつらが動いてる。こっちに向かって。ただならぬ気配で。あいつらが腕を伸ばせば届くぐらいのところまで来た。あいつらの正体は分かった。甲冑だ。動く甲冑。生きてる甲冑。
「ちょっと、これ甲冑。」椎名さんが言う。
「うん。なにこれ。」御紋さん。
「多分、魔力かなんかじゃない。」後ずさりしながら、三谷さん。
「でも、前にしか来ないので、横に避けましょう。」僕がそう言って、二組に分かれ、甲冑へ道をあける。彼らは迷路の方へ闊歩していった。どちらかといえば早歩きだが。
「良かった~。」椎名さんから安堵の声が漏れる。
「うん。まだあっちに行ってる。」三谷さん。
「面白いね。なんか不思議。」御紋さん。
「そうですけど、こっちに折り返して来たら困るんですよね。」僕が言う。前に、何かが動いている。紐のようだ。
「これ、紐ですよね。」僕が言うと、
「うん。二本あっちから伸びてる。」椎名さんが言う。
「そうですね。」僕が返す。
「多分さ、これって。」御紋さんが言う。
「さっきまでの人形の紐だよね。」たしかに。
「なるほど。じゃあ、魔法じゃないんだ。」三谷さんが言う。
「ということは。」こう言って、ナイフで紐を切る。二本目も。
ダンッ。ダンッ。
二回渇いた鈍い音がした。おそらく二体が倒れた音だろう。まあ、動力源とつながらなくなったんだから、当然だろう。
「ホントに倒れたね。」椎名さんが驚いている。
「どう。正解だよ!ねぇ。」御紋さんが言う。
「すごいですよ。」そう言うと、
「だよね。」と嬉しそうだ。
「じゃあ、行こう。」三谷さんが言う。あともうちょっと前に、城の入り口が、大きな観音扉が見える。装飾は豪華だが、品があり、大自然と調和している。
結局、思ったより時間がかかったが城の前まで来た。
「じゃあ、開っけま~す。」御紋さんが楽しそうに言う。
「ちょっと待ってよ。」手を扉にかけかけた、御紋さんに、椎名さんが止めに入る。
「まあ、行こう。行くしかないし。」三谷さん。
「そうですね。では、御紋さん、どうぞ。」御紋さんが開ける。僕は背後と前方に同時に注意を向ける。だがあっけなかった。中には少し一本道の廊下があって、すぐ部屋があった。三人もガッカリというか安心というか、拍子抜けだ。
「なんだ、また扉だよ。」これは御紋さん。
「でも、次からなんかいるだろうね。」と三谷さん。
「もしくは、危ない仕組みとか。甲冑みたいに。黒魔術使うことになるかも。」椎名さんすっかり、黒魔術師が板についている。
「じゃあ、サクサク行きましょう。」僕が言う。
「うんっ。」御紋さんがさっそく走って、扉に手をかける。
「待ってよ。」三谷さんがそう言いながら追いかける。僕たちも走る。結局すぐ扉の前だ。また、御紋さんが開ける。次は構える時間なんてなかった。
「おぉ。」僕がつぶやいていた。目の前は普通の部屋だった。さっきの廊下やお城の外見にふさわしい、部屋だ。中の雰囲気はなんというか、暑い雰囲気だ。実際気温は高くないだろうが。
「なんか、すごい雰囲気だね。」椎名さんが言っている。
「うん、よくわかんないけど。」そう言って御紋さんが扉から一歩前に出てついに部屋に足を踏み入れた。
「なんだ、最初は嬢ちゃんか。男がいたろ、一人。ていうかみんな出て来いよ、早く。」そんな声が聞こえる。たしかに先に御紋さんを行かせたのは心配だし、どうかと思う。だが、なぜ男が一人いると、ばれたのだろう。どこがで見られたのだろうか。
「まあ、良い。別にここは暑いサウナでも何でもない。俺は魔王様が待っているお部屋に侵略者がたどり着くまでに、追い払う『三人の番人』の一人、バンガだ。」そういう、バンガは魔物だろうが身長は一メートルちょいぐらいだろうか。
「わかった。で、私たちは何すればいいの。」こういう時にすぐ状況を理解して、前に進もうとするのは、御紋さんだ。魔界に来て魔王に遭った時もそうだった。たしか。そんな僕の考えも知らずにバンガの声が聞こえる。
「おまえらには、あるゲームをしてもらう。」
図太い声の後ろには、暑い空気が目に見えるようだった。
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