第46話 7日目④

 門が開いた。といっても、目の前の門は元から開いていた。凱旋門のようなので、開くも何もなかったという方が正しいのだろうか。では、冒頭の文は何か。門に張られていた結界が解けた。という意味だ。実は、鍵を入れる前に、

「行くよ。」と言った御紋さんが

「鍵穴があるよ。」と止める椎名さんを振り切って門を通ろうとした。そして、

「空気に押される。」とか言ってしぶしぶ、鍵を差し出した。なんてことがあったのだ。

「これでもう行けるよね。」先ほどのことに懲りたのか、御紋さんは僕たちに訊いて、そのあと

「おそらく。」なんて答えが帰って来てから、一歩ずつ距離を詰めるようにして、門を通って行った。

「本当に行ける。」三谷さんも感心している。

「やっぱり、鍵、ちゃんと探してよかったね。」と椎名さんが言っている。

「ええ。次は何ですかね。」僕が言うと、

「なんかここに書いてあるよ。」御紋さんの大きな声が、小さな声となりつつ聞こえて来た。なぜ、いつも大きな声の御紋さんの声が小さくなっていくのか。それは、御紋さんが僕たちの数十メートル先にいたからだった。僕たちが駆け寄ると、そこでは一メートルぐらいの大きさの金属の立方体が壁を作っていた。

「これなんですかね。」僕。

「結構固いよ。」三谷さん。

「いっぱい。」椎名さん。

「だからここに書いてあるの。」再び御紋さんが大きな声で言う。

「なんて?」僕が尋ねると、

「ほら、Labyrinthラビリンスってあるでしょ。」と返って来た。相変わらず発音が良い。

「ラビリンスってなんだっけ。」椎名さんが言う。

「何だっけ。聞いたことあるんだけど。」三谷さん。

「あっ、迷宮だよ。火サスに『呪いの島のラビリンス』ってあったね。」と椎名さん。

「ん?」御紋さんと三谷さんからは頭の上にクエスチョンマークだ。それにしても、椎名さん見てるのかな。

「で、結局迷宮って意味だっけ。」三谷さん。

「うん。だからこれは大きな迷路なんだと思う。」御紋さん。続けてLert's go!と言う。

「待って、初ちゃん。また迷ったら嫌だよ。」三谷さん。

「迷路は迷うものだよ。双葉ちゃん。」御紋さんが返す。

「そういうことじゃなくって。」三谷さん。

「はぐれたくないってことでしょ。」椎名さん。

「うん。」三谷さん。確かにその通りだ。はぐれたら収拾がつかない。

「じゃあ、どうする。黒魔術かなんかないの。」御紋さん。

「よくわかんない。」黒魔女。

「ちょっと待って。はぐれないってことは意思の疎通ができればいいから、テレパシーとか?」辞書を開く全知全能の持ち主。

「そういう感じ。」椎名さん。

「あることはあるけど、相当魔力使うみたいよ。」

「どれくらい。」

「魔力二年分だって。」

「それは無理だよ。あきらめよっか。」

「それも怖いよ。」

「じゃあ、他の方法ないの。」御紋さん。

「例えば?」

「悪魔の召喚とかさ。」

「悪魔、、、。あった。割と簡単に呼べるみたい。」三谷さん。

「でも、わたしはやったことないよ。」椎名さん。

「そっか、簡単にできるものじゃないしね。」三谷さん。

「意外と簡単ですよ。魔方陣描くだけですし。」僕が言う。

「そうなんだ。」三谷さん。

「っていうか、織屋がやればいいんじゃん。悪魔、召喚できるんでしょ

 。」ついに御紋さんに言われた。

「なんていう名前ですか、その悪魔。」僕が訊くと

「読めない。はい、これ。」そう言って、辞書を渡された。

 辞書の名前を写し、迷路の前で、みんなが入れるぐらいの大きさの円を描き、魔法陣にしていく。

「この魔方陣は、私たちを悪魔から守ってくれています。絶対に出ないでくださいね。」僕が言うと、

「は~い。」と元気のある声が返って来た。短い言葉を唱えると、

「はい、ご主人様、何なりとお願いを。ってここ魔界じゃないか。なぜ魔界から魔界にいる俺は招かれないといけないのだ。」どうやら少し虫の居所が悪そうだ。

「僕たち四人でテレパシーができるようにしたいんですけど。」と僕。

「ちょっと、めんどくさいな。お前たちは何がしたい。」との質問。

「この迷路に迷いたくないので。」僕がそう言うと、悪魔は正確にはジンだが、は指を鳴らした。

 パチン。その音が空を切り裂いた。

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