第42話 6日目⑥
高いところの景色にも飽きかけて、さっと椅子を出してもらってみんなで座った。四人だから円形に向かい合って座った。そしてあることに気づいた。気づいたのは椎名さん。
「あっ。いま私たちが来たのってこれじゃん。」目線が今来た道に向かっている。
「で、あっちにもう一本、道がある。同じところから下りるしかないと思ってたけど、そんなことはなさそう。」そう一息に言った椎名さんと同じ方向に僕たちは顔を向ける。目の前には道が確かに続いている。それも、今までのごつごつした場所に氷のシロップをかけたような道ではなく、ってシロップは氷にかけるものだから変な喩えだななんて思いつつ、何かをするはずだったが、さらに驚くべきことが判明した。それはいつも行動力溢れる御紋さんによる。
「見て、この道、宙に浮いてる。」
「えっ?」申し訳ないが、何言ってるのと言うような声を出してしまった。
「だから、道が浮いてるの。」御紋さんが言う。
「確かにここは頂上だから理論的にできなくはないけど。」三谷さんが言う。
「そんなことって常識的にあり得るかな。」と椎名さん。
「ここは魔界だよ。ほら。」御紋さんが、道に足をかける。自身も恐る恐るだったようだが、感触があって安心したようで、笑顔でこっちに
「ほら、やっぱり道が浮いてるんだよ。」と言ってくる。三人の半信半疑が集まって、もう一人分の疑いができているが、それは次第に消えて行った。というか、消さざるを得なかった。御紋さんがすいすいと道を歩いていくからだ。心配しつつ、僕たちは立ち上がり、椅子をしまってもらう。
「またはぐれても嫌だから、とりあえず私ついていくね。」そう言って、三谷さんが後を追っていった。
「じゃ、僕たちも行きましょう。」
「うん。」こんな言葉を交わして僕たち二人も道に足を踏み入れる。御紋さんは随分前まで進んでいる。大丈夫だろうか、仮にもここは頂上と同じ高さだ。それに道は浮いている。あのつり橋と同じようなもんだと思うから、御紋さんが不思議がらないのが不思議なんだが、まあ物は考えようということだろう。そんなことが頭を占めていると、一気にそれらを蹴散らす声が聞こえた。
「着いたよ。こっちは寒くないよ。清々しい感じ。」御紋さんだ。
「そうだよ。早く。」これは三谷さんだろう。
「焦らなくてもいいですよ。」前を行く椎名さんにそう声をかけたりしながら、僕たち二人も道を渡り終えた。というか道だから歩いただけだが。
「ここはなんなの。」椎名さんが地面に安心した様子で言う。
「分かんないけど、さっきのところとは違う場所っぽいね。」三谷さん。
「確かに。さっきは氷だよね。ここは何だろう。」御紋さん。
「何でしょうかね。道が浮いてたのも関係あるかもしれませんね。」僕が言う。すると、ついさっきも聞いたような椎名さんの「あっ。」が聞こえる。えっと思って、僕たちが振り向くと、また指で遠くを指している。そこにはもはや定番となった、看板がある。もしかしたら、魔界にセクションの説明の看板があるのは当たり前なのかもしれない。浮いてる道よりも驚きはしないが、看板があるなら見に行くべきだ。その思いも三人も同じだったようだ。あやうく、置いてかれるとこだった。
いきなり止まった御紋さんが、
「まだ、看板だよね、これ。」と言う。ああ、いつ、崩れるのかを見極めようとしてるのか。
「まだ。」
「まだ。」そう言いながら歩を進める御紋さん。
「まだ。あっ。」そのあっともに、看板は粒子となって、やがて矢印を形作った。
「はぁ~。やっぱりか。」椎名さんが半ば呆れた声で言う。
「まあ、そんなものなんじゃない。」三谷さんがなだめる。
「そういえば、もう、割といい時間じゃない。」空を見上げる御紋さんが言う。たしかにもう空はオレンジ色に染まっている。
「じゃあ、晩ご飯ですかね。ここは、セクションの間で休みやすそうですし。椎名さんにはキッチンとか出してもらって、御紋さん、お昼とった食材どれぐらい残ってますかね。三谷さん、この辺食材ありそうですか。」そう一気に言うと、三人はてきぱきと動き始めた。やっぱりいい人たちだ。
そのおかげもあって、十分もしないうちに僕たちは晩ご飯にありついた。
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