第41話 6日目⑤
誰が言い出したか、多分御紋さんだろうが、僕たちはスケートで鬼ごっこをしていた。スケート靴は椎名さんの黒魔術で作った。参考にしたのは三谷さんの辞書で調べた金属刃でない安全な物だ。二人とも自分のジョブを使いこなしている。
「ちょっと待って。」三谷さん。
「行くよ~。」楽しそうな椎名さん。
「ほら、織屋っ。」僕の周りをくるくる回る、御紋さん。三人とも楽しそうだ。はじめはスケートで鬼ごっこには違和感があったが、もしかしたら、僕が知らないだけで、これはポピュラーなのかもしれない。
「ほら、織屋、逃げるよ。」またまた、御紋さんに手を引かれる。またバランスを崩すところだった。
「まず、二人から捕まえるよ。」椎名さんが、こっちに向かってくる。早く逃げなければ。
最終的に、三谷さんの隠れやすさと、椎名さんの黒魔術と、御紋さんの体力の三つ巴となって鬼ごっこは終わった。そういえば、僕も居るから四つ巴のはずなのに。そんなことに気づきつつ、みんなで次の方針を立てる。
「ここまでは普通の氷の広場だったけど、あっちからは違いそうだね。」三谷さんの観察。
「そうだね。早く行こう。」御紋さんが言う。
「たしかにのんびりしすぎるのも、なんですね。」僕が言う。
「じゃあ、行こっ。」そう言って、四人で立ち上がる。みんなでスケート靴から、運動靴に履き替えつつの話し合いだった。
そうして四人で歩き始めた。氷山と言うのかは分かんないが、氷の山のような感じの場所だ。思ったよりも険しく、登山に近い。みんな、両手の空く格好にして、気合を入れて登り始める。
「織屋、早い。」珍しく椎名さんからの文句。後ろをパッと振り返ると、確かに、三人との差が開いていた。よく考えれば、僕はよく山の中を散歩したりするから、山に慣れているので、サクサク歩けるが、三人はそうはいかないのかもしれない。
「僕が一番後ろに回った方がいいですかね。御紋さん、なんとなく山の歩き方わかってそうですし、前に行ってもらいましょう。僕は後ろから見守っておきます。」そう言って、三人に抜いてもらうのを待つ。
「OK。」そう言って御紋さんが通り過ぎる。その後ろに二人も続く。この山は普通の山と言うか、そんなに難しい箇所はない気がする。御紋さんが前になってから、恒例となりつつある、歩くだけで暇な時のしりとりが始まった。まずは前の御紋さん。
「シロクマ。」次は椎名さん。
「マングース。」そして三谷さん。
「スカンク。」そのあとが僕だ。
「クマノミ。」それを聞いてあの変わったクマノミが思い出したのか御紋さんが
「そういえば、あのクマノミというかあの子に限らずあの海どうなったかな。」と言った。
「海自体はそんなに変わらないんじゃない。」椎名さんが言う。
「あの子も普通にのんびり過ごしてるんじゃない。別に言葉も話さずに。」と三谷さんが言う。
「どうですかね。まあ、いきなり変わったりするなんてことは何事にも起こりにくいですしね。」
「ミトコンドリア。」いきなり御紋さんが言う。
「あっ。とりあえず思いついたからしりとりの続き言っただけで。クマノミ、どうなっただろうね。ここは生き物の気配がないね。」確かにと思いつつ、よく考えたらこのしりとりが動物続きなのに気づく。いつの間にか暗黙のルールとなっているのかもしれない。
「アリクイ。」
「イボイノシシ。」
「イノシシでよかったのに。まあいいです。シロナガスクジラ。」
「ラクダ。」
「ダックスフント。」
「トイプードル。」
「る、るってなんかあります?もちろん動物でですよ。」
「なんだろうね。」椎名さん。
「あんまりないかもね。初ちゃんは。」三谷さん。
「分かんない。でもほら、ここ頂上だと思う。」そう御紋さんに言われて全員顔を上げる。
「すごーい。」御紋さん。
「綺麗。」椎名さん。
「広大だね。」三谷さん。
「魔界って広いんですね。あれってマリット教会ですかね。新しい。」そう言って、大きな塔を指さす。
「確かに。そうかも。」椎名さん。
「だとしたら、はやいね。三日ぐらいしかまだ経ってないんじゃない。」御紋さん。
「あの子たちやる気だったもんね。」三谷さん。
僕たちは、広がる魔界を眺めた。頂上には来た道でない別の道があった。
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