第36話 5日目~6日目

「織屋、起きて。」顔の近くで声がする。誰の声だろう。

「ほら、織屋。」織屋って呼び捨てするってことは、三谷さんではない。この声は、御紋さんだ。御紋さんに起こされるなんてことが起こるとは。失礼だが、そう思ってしまった。そして目を開けると、目の前に僕の顔をのぞき込む、御紋さん。ベッドの横からこっちを見ている。ていうか、まだ空、全然明るくないんだけど。

「なんですか、御紋さん。」と言うと、

「あ、えっと、寝れなかったから、、、。」

「寝れなかったから?」

「誰かと話そうと思って、、、。」

「思って?」

「京華ちゃんをちらっと見たんだけど、寝てて、双葉ちゃんも寝てて、起こすのも申し訳ない感じがしたから、、、。」

「したから?」

「織屋と話そうと思って。」開き直った感じで御紋さんが言ってきた。

「私なら起こしてもよかったんだ。」そう言うと、

「まあ、良いかなって感じ。」そう言いながら、まだ起き上がれずにいる僕に、近づいて、

「ほら、起きてよ。」と言ってきた。やっと、御紋さんも自分が僕に近いことに気づいたのか、

「近い。」と言って、ベッドからちょっと離れた。近くに来たのはそっちでしょと思いつつ、やっと起き上がれた。

「で、寝れないの。」僕が言う。

「うん。なんか、色々考えるとね。」御紋さん。

「色々って?」

「あの看板の意味とか。」

「とか?」

「今の人間界とか。」

「今の人間界は、どうなってるんですかね。」そのまま返すと、

「たしか、最初魔王は、『人間界の時は止めている。』とか言ってたよね。」物まねを交えつつ、言う御紋さん。

「そうでしたね。それって、僕たちが帰ったら、時間がまた動き出すってことですかね。」そう言うと、

「だろうね。でも、帰れるのかな。」珍しく弱気だ。

「大丈夫でしょう。修道女に、黒魔女に全知全能の持ち主がいれば。」

「そうだよね。みんな頼りになるしね。あの看板は、なんだったんだろう。」

「分かんないですけど、さっき言ってた通りのメッセージですかね。」そう言うと、

「あれ、私が行って読もうとしたときに崩れた気がしたんだよね。」と返ってきた。

「そうなんですか。」

「そうだよ。なんか眠くなってきた。」また唐突だ。

「じゃあ、上、上がりますか。」そう言うと、

「もうちょっとはなしたい。」と言われた。かわいいか。

「じゃあ、どうします。」

「羊数えよう。いくよ。1。」

「始まったんですか。2。」

「うん。3。」

 これは英語でsheepと言うときの、スィの音が眠気を誘うからなんだけどな。なんて思いながら、4と言う。

 5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、18と数字が響く。あれ、17飛んだんじゃないかな。19。

 20、21、22、23、23。23が続いている。ベッドのへりで僕の隣で腰かけている御紋さんを見る。眠そうだ。試しに。

「3978。」と言う。

「39779?」

「39780」

「さんまんななひゃくはちじゅう、、、。」

 がたっ。

 危なかった。御紋さんがそのまま倒れるとこだった。でも、これも困ったものだ。背中を右手で支えてしまったが、このあとどうしよう。結局、そのまま、このベッドで寝てもらうことにした。今は結構遅いだろうし。気持ちよさそうに寝る、御紋さんを横目に、食卓に向かう。ここで寝よう。空は普通に暗い。漆黒ではないが。

 光を感じる。頭の上に。今度こそ朝だろう。

 さて、どうしよう。先に二人を起こすか、御紋さんを起こすか。どうしようかな、なんて思ってると、

「織屋、おはよう。昨日はごめんね。起こして。」と御紋さんの声がする。自分で起きたのだろう。幸いにも僕のベッドで寝てたことには気づかなかったようだ。でも、まだ着替えてない。明るいとこで見るパジャマ姿もかわいい。

「あっ、まだ着替えてない。」そう言って、梯子を上っている。やはり気づいてなさそうだ。

「おはよう。」

「おはよう。」

「あっ、おはよう。」三人の声が聞こえる。みんな起きたようだ。

 三人がこっちに向かってくる。雲一つない空の下で、朝ごはんとなりそうだ。気持ちがよい。

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