第35話 5日目⑦
「じゃあ、かまどはここね。織屋、いい?。」椎名さんの声。
「いいですよ。よろしく。」
「魚残ってるの?」御紋さん。
「うん。そうみたいね。」三谷さん。こんな感じで会話は進む。
「いただきます。」御紋さんの声は元気いっぱいなわけではない。やはり疲れたのだろうか。これからはどうしよう。
「食べ終わった後どうしましょうか。」とりあえず、話す。
「そうね。このまま寝るか、ちょっと様子見に行くか、だね。」三谷さん。
「どうする。行ってみる?」椎名さんが話を振る。
「じゃあ、行こうか。あれでしょ。」御紋さんが目をやった先には看板がある。あの先が『怨恨の炎』なのだろうか。
「では、そうしましょう。」お皿を持って立ち上がる。片付けを始めていると、みんなも食べ終えたようだ。流しに置いておいてもらう。ざっと水洗いし終わると、もう空も暗くなってきた。
「行くよ~。」御紋さんが右手を上げつつ出発する。非常に上機嫌だ。
「なんかのガイドみたい。初ちゃん。」三谷さん。
「バスガイドとか。なんとかツアーみたいな。」椎名さん。笑っている。楽しそうだ。
「ほら、行くよっ。」そう言いつつも、前にはもう看板がある。もう手慣れたともいえるこの流れだ。まず御紋さんが文章を読む。えっと。ほら、声が聞こえる。
「えーと、鍵は、、、。」あれ続きがない。なんで。顔を上げると、椎名さんと三谷さんも動きが止まっている。というか、止まってはないけど驚いている。立ち止まってしまっている。なんだろう。前に出て横に並ぶと、看板が消えている。なんていうのだろう。物理には詳しくないが、すべてが原子に戻ってばらけてるって感じだ。
バラバラバラバラ。パラパラパラパラパラ。こんな音が聞こえてきそうだ。ていうかわけが分からない。でも、あと看板は五センチぐらいだ。もう僕たちは慣れて、しゃべりだそうとする。
「今のなんだったの。」御紋さんが言う。
「よく分かんないけどって。これは。」三谷さんが言葉を失う。原子になってばらけると言ったが、その原子が地面に落ちている。規則正しく。矢印を作っている。指す方向は、進むべき方だ。
「これは、何を示してるの。ちょっと怖い。」椎名さんが言う。後ずさりしながら。
「たしかに、怖い。帰ろう。織屋。」御紋さんもこっちを向く。
「じゃ、はやく。」三谷さんの一言でみんなで走り出す。
はぁはぁはぁ。
「やっぱ、今のなんだったの。」椎名さんが訊く。
「分かんない。」と御紋さん。
「ばらけた粒が矢印になったんですよね。」僕が言う。
「あっ、分かったかも。」三谷さんが言う。
「矢印の前は、看板だったんだよね。ということは、看板を壊して、矢印を作ったってことだよね。」続いた言葉にうなずかざるを得ない。
「そうだね。」そう言うと、
「だから、誰かがあの看板を壊したりばらしたりしたんだったら、なんか意図があるっていうことだよね。」と三谷さんがまとめた。なるほど。
「でも、その意図って何。」御紋さんがまた問題を投げかける。
「分かんない。」椎名さんがあっさりとあきらめる。
「こういう時は相手側に立てばいいんですよ。」僕が言うと、
「何をするためだったら、看板を壊すか。何をするためだったら、矢印を表すかってことだよね。」椎名さんが言う。
「看板壊せば読めなくなるよね。さっきの私みたいに。それに、矢印あれば前に行きたくなるよね。」御紋さんが思いついたように言う。たしかにその通りだ。
「じゃあ、看板を読まれないで前に私たちを進めさせたいってこと。」三谷さんが結論付ける。
「かもね。でもなんか眠い。」唐突に言う、御紋さん。
「たしかに。段々前も見えなくなってきたしね。」椎名さんが言う。
「じゃあ、寝よう。」この会話で上を見ると、たしかに空は暗い。
結局、みんなで寝ることになった。今日はみんな、疲れて黒魔女の黒魔術で着替えた。非常にありがたい。
「ありがと。」そう言うと、
「別に。こちらこそ晩ご飯ありがとう。」と言われた。
「いえいえ。ではおやすみなさい。」椎名さんは上に上る。
空はもう暗い。さあ、寝よう。
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