第33話 5日目⑤
なんで、こんなきれいな海を一人で泳いでるんだろう。きれいな海もいいけど、潜水艦の中だったら、美少女が三人もいるのになんて思ってると、クマノミがあんちゃん、落ち着けの目で見て来た。そうだ、潜水艦は三人乗りだった。ということは、僕だけが泳ぐのが妥当だろう。気合を入れなおして、バタ足を強める。
『一人でさびしい (ノ・ω・`)?』と来た。この一見優しそうでおちょくってくる文章。この顔文字。送り主は御紋さんだろう。
『ごめん、初ちゃんが勝手に。』予想は的中だ。
『地図はこれ。このペースであと五分ほど泳げば、たどり着くかな。』と来た。五分か、すぐだなと思ったがここまでで八分ぐらいは泳いでいるだろう。体力が著しく消耗されていく。
もう五分経ったんじゃないか。地図のポイントとも被って来たし。そう思ったころ、
『ここら辺。その、ちっちゃな海底洞窟っぽいところかな。』と届いた。
『了解。』と返して、潜っていく。とてもきれいだ。なんというか、独特の雰囲気。神聖な気さえもする。ちっちゃなと言われただけあって、洞窟はすぐ終わりを迎えた。もうちょっとあっても楽しめたのに、なんて思ってたら、視界の隅に明らかに自然物ではないものが映った。無機質な灰色の箱らしきもの。これが宝箱か、まさか、と思いつつも潜水艦のみんなに見せようと思い、手に持って泳ぐ。
『それらしきもの、発見。今から向かいます。』そう、打ちながら進んでゆく。潜水艦の前まで来ると、三人が狭い丸窓から顔を覗かせていた。仲良しだな、なんてほのぼのしていると、御紋さんから早くしろ、のジェスチャーが飛んできた。じゃあ、開けますね、心の中でつぶやくと同時に、蓋に手をかける。うんっ。と。開かない。開かないな。情けないけど開かない。潜水艦の中の三人は僕の握力が強い方でも20行かないのを知っているので、仕方ないという表情をした。すこしして、
『開かないけど、それが本物であることを示してる気がします。織屋くんもあまり長く海に入りすぎていても疲れるでしょうから、いったん戻りましょう。』と来た。何一つ間違っていない。そうしようと思い、右手に箱を握りしめつつ、腕で水をかく。
ぬーっと加速を始める金属の塊に取り残されないようにすること十数分、浅瀬までたどり着いた。
『織屋ー、お疲れ。ちょっと貸して。』椎名さんがそう言って僕から箱を取る。見かねた三谷さんが
「おそらく私が女子の中では一番力ないから、先にっ。」と言って蓋を開けようとする。開かない。
「じゃあ、次わたし。」三谷さんから椎名さんにわたった箱を御紋さんが半ば強引に取り、開けようとする。開かない。
「初ちゃん無理なら私も厳しいでしょ。」そう言いながら、椎名さんも試みるが、開かない。三人の目線が僕に集まるがすぐに、こいつが一番に無理だったんだと気づき、離れていく。少しの沈黙の後、椎名さんがひらめく。
「わたし、黒魔術使えるじゃん。」そうだった、椎名さんは黒魔女だった。そんな事実に気づかないなんて。逆にこの環境に慣れたということか。
「じゃあ、行っきまーす。」椎名さんがご機嫌に言う。箱の前で右手を振り、図形を描いているようだ。あれは逆五芒星か。多分そうだろう。そんなことを思ううちに箱が開いた。
「わぁ。やった。」純粋に喜ぶ声。かわいい。しかし、そんなほのぼのムードもつかの間、
「魔王は良い人だった。だがそれも昔の話。彼を選んだ私の目に狂いがあったとは思えない。仕方ない。昔の魔王は忘れよう。彼との思い出も。」という、太い、どこか力のない声が聞こえた。四人はお互いに顔を見回し、そんな声の人も、そんなことを言うような人もいないことを再確認した。そして、四人の頭の上にはクエスチョンマークが浮かぶ。今のは誰の声でなぜ聞こえたのか。またその意味するところは何なのか。その疑問の一つはすぐに解決された。一匹が口を開くことによって。
太陽が光を弱め始めた。正確に言えば光を与える場所を変え始めた。
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