第32話 5日目④

 キラっと目に光が飛び込んできた。御紋さんには見えていないらしく、まだ探している。御紋さんに手を振ってこっちを見てもらう。

『ここになにか日光を反射したものがありました。』の文面とともにこの辺りをぐるっと手で示す。

『分かった探す。』と返事が返ってきた。『よろしく』とだけ打って見せて、サンゴに注目する。だんだん、サンゴが人の腕やら手やらに見えてきて気持ち悪い。そんなこと思いつつ、奥まで探す。ないかなぁ、、、。と、首筋にクマノミが乗って来た。何事と思って首をすくめて、振り返ると、視線が御紋さんにまっすぐ向いている。その先には、またしても元気よく上げられた御紋さんの腕。近づくと、

『ほら、宝箱っぽいよ、これ。』と打たれた画面を見せられた。

『じゃっ潜水艦の方行くよ。』に切り替わるなり、御紋さんが泳ぎだす。ついていく。

「多分この辺だと思うんだけど、音沙汰ないね。ちゃんと地図送った?」と三谷 双葉にあらぬ疑いがかけられている。

「送ったよ。あっ、ほら来たよ。初ちゃん。」その声で椎名 京華も窓に目をやる。初ちゃんと呼ばれた少女がうやうやしく、誇らしげに蓋を取る。

 僕は注目した。クマノミもだろう。潜水艦の二人も、もちろん御紋さんも。だが、結果は期待外れ。またしても、中に入ってた海水が、じんわりと出ていくだけだった。

『二回連続で外れは、悔しい。ガチャみたいにレア度があれば励みになるのに、、、。』と魔界にいるのに俗世の極み、みたいなことを表示されられている画面がこちらに向けられた。文字が勝手に消えていった、かと思えば、潜水艦からメッセージが送られてきたらしい。御紋さんが一通り読んだ後、画面が僕に向けられる。

『今、結構、拠点から離れた場所にいます。このまま戻ったら、ちょうどお昼時だと思います。二人は、と一匹は食材調達もお願いできる?』と書いてある。クマノミも文字が読めているのかうなずいている。続いて、

『じゃあ、OKしたから、魚とか捕まえよう!』と表示された画面を見せられた。なんだもうOKしてから、僕たちに見せたのね。そう思いながら、御紋さんについていく。割とここまでも泳いでるし、いまから泳いで帰るのも割ときついと思うんだけど、御紋さんは余裕だ。すいすいと泳いでいく。ぼーっと見てないでついていかなくては。

「私たちは、先導する意味もあるし、ゆっくり行こうか。」操縦をオートに切り替えた少女が言う。

「あと候補地はどれくらいあるの。」『OK。魚とってきます。』の文面を受け取った少女が言う。

「範囲を広げればいくらでもあるみたいなんだけど、あと近いところで一つある。」

「じゃあ、お昼食べたら、とりあえずそこって感じだね。」

「うん。」潜水艦内では比較的のんびりとした会話がなされている。

『織屋そっち。』可愛げも何もない文面と荒々しいジェスチャーが御紋さんから放たれる。方向転換しながら、魚を目で追う。ああ、深いところ行った。追いかけねば。

 こんな調子で、また新鮮な魚がお昼に食べれることとなった。

「いただきます。」今回は珍しく、御紋さんが一番ではない。代わりに椎名さんがその役を担っている。どうやら、御紋さんは、海で疲れたようだ。

「わたし、次は潜水艦乗る。」御紋さんが主張し始めた。

「まあ、潜水艦の人数的には三人までなら大丈夫だよ。」椎名さんが言う。

「じゃあ、後は織屋くん次第だ。お願いしてみたら。初ちゃん。」三谷さん。

「織屋、わたし疲れた。一生のお願い。一人でもいいでしょ。泳げるでしょ。」御紋さんが言われた通りお願いしてきた。一生のお願いだ。

「まあ、大丈夫ですよ。」そう言うと、

「まあって何。」と来たので、

「すいません。全然大丈夫です。」と言うと、

「ありがとう、織屋。」と言われた。素直なとこもあるのにな、なんて思いながらお皿を片付け始める。

「わたしも手伝うよ。」と御紋さんが言ってきた。

「ありがとうございます。」余計なことは何も言わないでおいた。

 太陽が手加減もなく照っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る