第30話 5日目②
かまどの火が燃える。別にこの炎に意思などないだろう。あっても、こんな感じで普通に燃えといてあげれば人間は満足だろう、なんて感じだろう。僕はこんなことを思っているけど、隣に座る椎名さんはそんなわけないだろう。目が遠いところを見ている。椎名さんと横に座っていても別段何を話すわけでもない。会話がないと重苦しい、耐えられないという考え方もあるけれど、僕たち二人の場合、それでもOKという間柄ってことではないだろうか。特に気を遣う必要はない、みたいな。まあ、これも僕の思い上がりかもなんて思っていると、ベッドで何かが動いている。下から二段目ということは三谷さんだろう。こっちを向いている。僕たち二人を確認したようだ。さっと着替えてこちらに来る。
「京華ちゃん、織屋くん、おはよう。」
「おはよう。」と僕。
「うん、おはよう。」と椎名さん。
「火、結構燃えてるよ。なんかのためなら、なんかした方がいいんじゃない。」二人ともその一言で気が付いた。これはスープのための火だ。スープの鍋を持ってくる。
「早く起きちゃったから、ご飯の準備してから起こそうって言ってたの。」どうやら三谷さんに事情を説明しているようだ。三人で朝ごはんの準備をした。全員でベッドへ向かう。わざわざ、全員梯子を上り、一番上へあがり、僕は梯子の上だけど、御紋さんを起こす。
「初ちゃん。」と椎名さん。
「朝だよ。」と三谷さん。
「御紋さん、起きてください。」と僕。
「ん。起きるよ。海、きれい。魚と泳ぐの。私。」まだ寝ぼけているようだ。三人で温かく、生温かく見守っていると、
「うわ、どうしたの。三人も。私、またビリか。」と言った。
「じゃ、着替えるから、織屋下りてて。」
「はいはい。」食器を分けようと思い、食卓へ向かう。
「いっただきまーす。」御紋さんの元気な声がまた響く。これが毎朝の恒例だ。二人に言われたのか、さっきは下りててなんてむげに言ってごめん。ご飯いつもありがとう、と言われた。いえいえと返しつつ、話題は今日の予定だ。
「レーダーはできたんだよね。」御紋さんに椎名さんが答える。
「うん、後は水中で動くか見るだけ。」
「じゃ、やっぱり入ってみないとね、海。」と三谷さん。
「僕とクマノミは、泳ぎますね。」とクマノミにご飯をあげながら言う。
「今日は私も泳ぎたい。」御紋さんが言う。
「じゃ、私と京華ちゃんが潜水艦、初ちゃんと織屋くんとクマノミが泳ぎね。」三谷さんがまとめる。
「ごちそうさまでした。」三谷さんと椎名さんの落ち着いた声が聞こえる。次に聞こえるは、、、
「ごちそうさまでした!」あれ、御紋さんのごちそうさまだ。早い。そう思って見ると、口にご飯粒がついていた、ついてますよと言いつつ、クマノミを海岸に持っていく。結局、潜水艦のレーダーで宝箱っぽいものを探し、それを僕たちがとるという感じになりそうだ。
僕は水着に着替え、クマノミと一緒に海に入る。
「あんちゃん、今日はついに宝箱探しか。楽しみだな。お嬢ちゃんたちはどうするんだい。」と話しかけてきた。
「あの背の高い御紋さんは泳ぎます。他の二人は潜水艦。」
「ああ、そうか、まあ自信がないやつはこの海では泳がない方がいい。普通の海より体力を奪われやすいかもしれないしな。」遠くからは三人の声が聞こえる。
「私は水着なんだから、二人も水着にすればいいじゃん。しようよ。」おそらくこれは御紋さん。
「でもその必要ないでしょ。潜水艦の中だし。」これが椎名さんだろう。
「なんで私たちも水着がいいの。」これが三谷さんであろう。
「だって、みんなで水着がいいし。私だけってのも。」
「織屋がいるじゃん。」
「女子でだよ。」
「分かったよ。」そう言って黒魔女が手をさっと振ると二人の服が水着になった。御紋さんは満足気に
「さあ、行こう。」と言っている。
「織屋~、お待たせ~。」とも。
「なんであいつらも水着なんだ。」クマノミを今の聞いてなかったのかよとあしらいつつ、潜り始める。となりではヌーっと潜水艦が動いている。とりあえず右にということらしい。どんどん深くなる。
見上げれば光がたゆたっている。
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