第28話 4日目⑦

 このクマノミ何なんだろう。一回目後ろから御紋さんが来た時にも目があった気がする。なんだろう。変わったとしか形容できないこの雰囲気。

 と思ってたら、右側の塊がヌーと動き始めた。音もなく。ヌーっと。魔力が動力だからだろうか。段々スピードも速くなっている。頑張ってついていこうとバタ足を強くする。潜水艦の窓まで何とか追いついた。結構な運動だ。御紋さんがこっちに手を振っている。無邪気でかわいい。手を振り返したい気持ちはやまやまだが、そんな余裕はない。とりあえずうなずく。あれ、御紋さんが離れていく。そう思ったら、ゆっくりと潜水艦は旋回し始めていた。つかず離れずの距離を保ちつつ泳ぐ。

 ぬん。そんな音はもちろんしないが、潜水艦が停止した。僕も停止した。ふー。上がろうとすると、足に何かが当たる。海藻か何かだろうかと思い、後ろを向くとあいつだった。そう。あのクマノミ。何の用だろう。よく見たら、カクレクマノミと呼ばれる一番ポピュラーであろう種に似ている。けど、その種ではない。ずっとかがんでいると、椎名さんに声をかけられた。

「織屋、ありがとうね。なにしてるの。」

「クマノミがいるんですよ。」僕が言うと、

「えっ。クマノミってあのクマノミ?」と言うハイテンションな声とともに、こちらもハイテンションな椎名さんがやってきた。

「かわいい。」浅瀬で泳ぐクマノミを見て感想をもらす椎名さん。いきなり走り出した椎名さんにつられて二人もやってきた。

「ほんとだ。クマノミだ。」と御紋さん。

「生で初めて見た。」と三谷さん。

「なんでこんなところにいるの。」と椎名さん。たしかにそうだ。

「私についてきたみたいですね。どうしましょうか。動く気配がないですね。」そう言うと、

「じゃあ、飼おう。水槽は作れるし、はいっ。」椎名さんの手にはちょうどいい大きさの水槽が乗っている。もうこうなったら、だれも反対はできない。満場一致で飼うことが決まった。とりあえず、海水を入れてっと。クマノミの入った水槽を持って先頭を行く椎名さんについていって、食卓の前で休憩だ。

「かわいい~。」クマノミの一挙一動に感心していた椎名さんがいきなり、

「そういえばさぁ、宝箱探しにはなんか、機械がいるよね。海底を探るような。」と言い出した。クマノミも後ろに避けている。水中で。

「そうだね。人力では限界がありそうだし。」と三谷さん。

「なんか、ピーピピみたいなやつね。」と御紋さん。

「ああ、ソナーっていうかレーダーっていうか。」と僕。

「そう、そういうの。」まだハイテンションなのは変わりない椎名さん。

「でも、簡単につくれますかね。」僕が言うと、

「弱気だな、ちょっと時間があればつくれるよ。じゃっ。」椎名さんが勢いよく端材を置いておいた林の近くへ消えていった。

「深夜テンションだね。」と御紋さん。

「うん。」と三谷さん。

「そうかもですね。」と僕。

「確実だな。」と、、、誰?三人が顔を見合わせる。というか、互いの顔を確認し始める。お前の声か、と。でもそんなわけない。そのことは全員が知っていた。また、三人の頭の上にクエスチョンマークが浮かびそうになった時、声が聞こえた。

「俺だ。俺。水の中にいるだろ、ほら。そこのあんちゃん、俺と何回も目、合ったろう。」

 水の中にいるといえば、僕と何回も目が合ったといえば、こいつしかない。他の二人も同じことを思ったであろう。ク・マ・ノ・ミ。

「えっっーー。」文字で表せないほどの声が出た。深夜テンションの椎名さんは気づかなかったが。

「そう驚くな。あんちゃん。ここは魔界だろ。」たしかに。二人も何となく納得しかけている。

「はい。」なんとか返事をする。

「じゃあ、しゃべる魚がいても不思議じゃないだろ。」クマノミが言う。

「ええ。」声が出ていた。

「まあ、俺もしゃべりたいことがある。誰に聞いてもらおうかな。」

「私たちは暇ですけど。」三谷さんが同意を求めつつ、言う。

「でも、あんちゃんはご飯づくりかもな。ほら、もう暗いぞ。」

 そう言われて三人で上を見る。紺色が空を覆い始めている。

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