第26話 4日目⑤

 火に見とれている御紋さんに見とれていた僕だが、御紋さんが急にこっちを向いたので目が合った。ずっと見てたことばれたかな、どう思われたかな、なんてことが高速で頭の中を駆け巡ったけど、そんなことは不必要だった。

「織屋、だいぶ、火、大きくなってきたよ。どうする?」

「とりあえず、みそ汁用のお湯を沸かしましょう。でも、焼き魚も同時にしたいので。」そう言いながら、火を二つに分けようとする。もとが草に少し火がついているだけなので、それを慎重に御紋さん見てもらう間に、かまどを作る場所を選ぶ。たしか、平らで乾いた場所がよかったはずだ。この、林と、海岸の間ぐらいがいいだろう。波も打ち寄せてこない。あと、条件は、、、

「ここって、直火禁止でしたっけ。」そう御紋さんに訊いてから、自分の過ちに気づく。が、御紋さんは知ってか知らずか、

「まあ、魔界だし何も言われなかったから、元通りに戻しとけばOKじゃない。」と言ってくれた。

「そうですね。」と間抜けなことを訊いたことを忘れようとしつつ、石を積む。今回は一番標準のコの字型にする。石を林で探していると、三谷さんの声が聞こえた。

「何してるの?」

「かまどつくるために、石を探してるんです。」

「ああ、石ならさっき端に避けたから、その辺にあると思うよ。」その辺を探すとたしかにあった。三谷さんの方を向いて感謝の意をなんとなく伝えながら石を運び出す。そういえば、なんで今まではこんなことしないでも料理できたのだろう。最後の石を運んだ時に思い出した。今まではコンロといい、流しといい黒魔女製のキッチンを使っていたんだった。椎名さんがあまりにも熱心に潜水艦をつくっているから、そのことすら忘れていた。まあ、このやり方もキャンプっぽくてよいだろう。かまどに移された火を見る。まきは林のものだから湿ってないか心配だったが大丈夫そうだ。

「じゃあ、こっちにもつくる?」火を見守り終わった御紋さんが言う。

「うん。そうしましょう。」そう言うや否や、すぐ御紋さんが石を取りに行った。僕も行こうかと思ったけれど、そんなに体力がまだ回復していない。情けないと思いながらも、御紋さんの帰りを、そこまで大げさなものでもないけど、火を眺めながら待つ。やはり、落ち着くものだ。

「じゃあ、火、移すよ。」御紋さんの声がする。ぼーっとしていたからだろうか、あまり記憶がない。

「お願いします。かまどづくりありがとうございます。」そういうと、

「うん。織屋の見てたから、そんなに難しくなかったよ。」と返ってきた。火が2メートル横の先輩に追いつこうと、勢い良く燃え上がる。こちらを、みそ汁用にしよう。あらかじめ、食材を入れておいた鍋を持ってくる。御紋さんに、沸騰してきたら、火を弱めてから、みそを入れるということを確認しつつ、二人で串に刺した魚を持ってくる。火にかける。

「ありがとうね、織屋。」御紋さんが唐突に話し出した。珍しくはないけど、こんなにしっかりとした内容のことを言うのは珍しい。

「結局、ご飯は全部、織屋に仕切ってもらって。三人だけだったら、大変だったよ。」純粋に褒められてうれしい。

「いやいや。そんなことは。」そう返した時には、となりに人の影はなかったが。

 遠くに三人の影が見える。潜水艦の中に入ったり、扉を開けてみたりと楽しそうだ。僕も行ってみようかな。そう思って、腰を上げたら、ぼこぼこぼこと音が聞こえて来た。火を弱めつつ、みそを取りに行く。みそがちゃんととけるように注意しつつ入れる。段々といい香りがしてくるはずだ。水が沸騰してきたということは、火にかけてからある程度、時間がたったということだろう。そう思い、魚の方を見ると、回転させた方が良いころ合いだった。最後の魚の向きを変えていると、

「織屋ー。あとは、水に入れてみるだけだって。」御紋さんの楽しそうな声が聞こえてくる。

「まだ、片付けはあるけどね。」椎名さんの冷静な声と共に二人も来た。

「すごーい。キャンプみたい。」三谷さんの無邪気な声も聞こえる。

 焼き魚のいいにおいがする。

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