第25話 4日目④
結局、砂浜を埋め尽くさんとする金属の塊を前に僕たち二人は何もできなかった。別にピンチの主人公のセリフなどではない。僕、織屋と御紋さんが黒魔女である椎名さんの潜水艦づくりをなにも手伝えないというだけである。三谷さんは辞書の図面を見ながらあれこれ指示を出しているが。何もできないという旨を伝えると、二人に二人は魚をとって来て、食料もないんでしょ。と言われた。道具が十分でないというと、パッと黒魔女の手からもりと網が出て来た。
こうして僕たち二人は再び海へ潜った。
目の前に広がる青い海。なんど見てもきれいだ。さっきは、鍵のありそうな場所を探ったり、海の広さを考えたりしていたから気づかなかったが、この海には多様な生物がいる。小魚っぽいのもいればタコもいる。変わったクマノミがこちらを見て来る。とてもじっと見られた。こちらも見とれていると、御紋さんがなにやら合図をしている。こっちへ来いということらしい。いそいで泳いでいき、二人で水面に上がる。
「この下に、なんか長い魚がいるの。」
「どんなんですかね。見てきますね。」そう言って、ほぼ真下に潜ると見えた。ウツボだ。
「あれは、ウツボですね。」
「ああ、なんか聞いたことある。」それは良かった。
「食用にできる種類もいますけど、毒をもつ種もいるんですよね。」そういうと、
「そうかもしれないけど、とりあえずとって、後で双葉ちゃんの辞書で確認すればいいんじゃない。危ないって言ってたらなんもとれないし。」たしかにその通りだ。
「じゃあ、行きましょう。」僕のこの一言で二人は海へ再び潜った。正確に言えば、僕が御紋さんに置いていかれそうになったところを何とか追いついた。下には岩に潜むウツボ。二人で合図しながら、はさんで上から刺した。水面に上がり喜びを分かち合う。
「よし、この調子でいこう、織屋。」御紋さんはコツをつかんだのか、この調子どおりに魚をとっていった。あくまで僕はサポートだった。あと、とった魚の網を持つ係。そんな感じでもう十分、これぐらいあれば貯蔵もできるというぐらいとったので、砂浜へと向かった。
砂浜の上にはすでに金属の塊の姿はなく、乗り物らしきものが見えた。御紋さんが純粋にそれに反応する。
「え、これが潜水艦?すごい。」
「まだ、胴体だけだけどね。ここから細かい部分を作りこむ。」椎名さんが三谷さんに指示を出しながら答える。三谷さんも作業をしつつ会話に加わる。
「二人はなんかとれた?」御紋さんが自慢げにいう。
「ウツボとかいっぱいとれたよ。織屋。」そう言われたので網を掲げる。
「すごい。」椎名さんに褒められたので、
「御紋さんが大活躍です。そっちはあとどれくらいですか。」と謙遜しつつ、状況を訊く。
「十分ちょっとで完成間近かな。」との返事だ。
「楽しみですね。」悠長に感想を言うと横から
「おなかすいた。ひるごはん。」と言葉が飛んできた。たしかに、結構泳いだし、時間もたったのだろう。
「じゃあ、それでいいですか。二人は作ってていいので。」そういうと、OKの返事が来た。
料理を作る。魚を置いておいた方がいいか、いま食べたほうがいいかを判断しつつ、調理する。御紋さんにも手伝ってもらう。はじめは料理できないなんて言ってた御紋さんだが、とてもてきぱき動く。成長したのだろう。まず、魚の味噌汁風に、ごはん、魚の塩焼き。魚だらけになるのは致し方ない。御紋さんが火が起こせないと言っている。
「まず、こうやって、木の棒と木の板を探して、、、。」そんなことを言いながら、松の下を歩き回る。すかさず御紋さんが、
「ねぇ、京華ちゃん、虫眼鏡ある?」と訊く。
「今から使うところだし貸すよ。」その言葉と共に、虫眼鏡が飛んできた。なるほどと思っている間に火はついた。機転が利くのも御紋さんの特長かもしれない。
火が燃えている。火をじっと見つめている御紋さん。絵になるな、なんて思いながら、水をくむ。
太陽が真上に来たころだ。
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