第19話 3日目⑤

「鐘ってどんな感じだった?」御紋さんの質問に

「下からしか見てないけど鳴らすのは小部屋からみたい。」と答える三谷さん。

「修道女とかしかならせないって不思議だよね。修道女が役に立つ時が来たね。」椎名さんが言う。

「私のためのミッションかな。今回は。」こんな感じで話してたらすぐ着いた。結局四人いるのがいい感じだ。

 ほら、あれが小部屋だよ。今や魔物の気配はなくなり静まりかえった中で、三谷さんが指さす。椎名さんは観音開きの窓から、魔物たちを見つけて手を振っている。声も聞こえるようだ。

「じゃあ、開けるよ。」御紋さんがドアノブに手をかける。思ったよりすっと空いたドアの奥には、縄が張ってある。どんな仕組みだろう。御紋さんが縄を持つ。どんな音だろう。みんなが耳を澄ましていると、御紋さんが

「鐘の音色が鍵を持ってるんだよね。上から落ちて来るのかな。」と言い出した。

「分かんないけど鳴らすしかないね。」椎名さんが言う。

「そうですね。」僕。

「早く鳴らそうよ。」三谷さん。そう言いながら、縄を引こうとするけど、動かない。不思議な仕組みだ。

「それでは。」そう言って御紋さんが再び縄を持つ。後ろに引いた。縄はちゃんと動いた。

 リーン、リーン、リーン。古さを感じさせる深みのある音だった。みんなが鐘の音に耳を澄ますころ、御紋さんは鐘を小部屋の窓から見上げていた。

 キラッ。何かが見えたのであろう。御紋さんが小部屋から出て来た。椎名さんが外の魔物に手を振っている。あちらも鐘の音が聞こえたようだ。

 ガラッ。みしみし。どっどっどっ。鐘の音とも思えない、地響きのような音がする。鐘の余韻など消えてしまった。何事か、そう思っていると椎名さんが焦った声で、

「多分、この教会崩れてるよ、景色が傾いて見える。ほら。」と言う。そう言われて外を見ると魔物たちがトランポリンの様なものを作っている。こちらに手招きをしている。それに気づいたのか椎名さんが、

「多分あれ、こっちに飛んで来いってことだよ。」と言う。

「でも、ここ三階だよ。」と三谷さん。

「そんなこと言ってる暇ないよ。ほら。」そういう椎名さんの声が外に消えていった。

「え、京華ちゃん待って。」そう言いながら、御紋さんも外に飛んだ。その間にも、床や柱は崩れていく。二人とも思い切りが良い。

「織屋くん、この辞書持ってて。じゃあ。」僕に辞書を渡す手が教会の破片で切れている。これで、中は僕一人。でも、三人が出て行った窓は窓枠ごと崩壊している。こっちの窓から飛ぶしかない。多分トランポリンはないだろうな。そう思いながら飛んだ。

「すごいよ、織屋、トランポリンなくても傷一つなく着地って。」御紋さんの声が聞こえる。パルクールをかじってたかいがあった。魔物たちも心配してくれている。どうやら、トランポリンはあの子たちの素材からできているみたいだ。そうを思いながら、教会の残骸に近寄る。魔物たちは悲しんでいる。

「何が起きたの。」魔物の声も聞こえる。御紋さんの声も聞こえる。

「これ、鐘の縄だよね。この辺に鍵があるはず。」

「たしかに。鍵は見つかりやすそうだけど。」椎名さんもそう言う。そんな感じで数分探すと、

「あった。」やっとがれきの中から鍵を見つけた御紋さんが言う。

「あと封筒もある。けど読めない。」そう御紋さんが言うと魔物が近寄る。魔物が封筒を受け取る。その時、御紋さんを光が包んだ。この光は、前、三谷さんがジョブのグレードアップをした時と一緒だ。

「あっ、双葉ちゃん、手を切ってる。結構ざっくり。」椎名さんが言う。そうだった。僕に辞書を渡した時だっただろう。

「え、大丈夫?ちょっと手、貸して。」光に包まれ終わった御紋さんがナースっぽさを発揮して傷を見ている。

 サァー。白い光が三谷さんの手を包んだ。光が消えた時には傷は治っていた。二人とも驚いていたが、椎名さんが言う。

「これが、初ちゃんのグレードアップだよ。多分。」

「えっ、私、治癒の能力を身につけたの。」と御紋さん。

「すごーい。ありがとう。」三谷さん。

 僕たちが楽しそうにしてる時、魔物たちの顔は、雲がかかっていた。

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