第15話 3日目①

「織屋、起きて。」椎名さんの声がする。耳元で。パジャマ姿だ。ああ、そうか昨晩は小人のグリムさんの平屋で寝たんだった。だから、ベッドでもない。まだ二人は起きてない。

「あのさぁ、初ちゃんも双葉ちゃんも起きないんだよね。結構起こしたんだけど。」

「まだ、寝かしといてもいいんじゃないですか。どうして、椎名さんは起きたんですか。」

「ああ、なんか物音がしてね。気づいたらグリムさんもレンゴさんもいなかったんだけどね。二人はどこか行ったみたい。」

「そうですか。何はともあれ、起こしてくれてありがとうございます。私、すぐ起きましたかね。」あんまりすぐ起きれる方ではないので心配する。

「割と早く起きたよ。二人と比べれば。」苦笑しながら言ってくれる。おそらく、すぐは起きなかったんだろう。

「でも、起こした方がいいですかね。やっぱり。」

「かな。でも私疲れた。織屋起こしといて。私、黒魔女姿に着替える。」

「あ、はい。」とりあえず答える。結局二人は僕が起こすのか。まずは、三谷さんから。

「三谷さん。起きますよ。朝ですよ。」つぎは、横の御紋さんの方を向いて、リピートする。反応したのは、三谷さんだけだ。

「あっ、織屋くん。ありがとう。おはよう。」

「おはようございます。もう、椎名さんは、起きてますよ。じゃ、私は朝ごはんの準備をしたいんで、御紋さん起こしといてください。」

「うん。いいよ。よろしく。」目をこすりながら、送られる。じゃあ。朝ごはんをつくろう。ササっと、残った食材で、軽い感じでいいだろう。

「あっ、織屋おはよう。なんで私は起こしてくれなかったの。」御紋さんが訊いてくる。

「すみません。朝ごはんも作りたかったんで。」慌てて答える。

「ほら、初ちゃんも起きたんだったら、朝ごはん食べるよ。」食器を運びながら椎名さんが言う。

「はぁーい。」少し不満げに声を上げながら、食卓に向かう御紋さん。いつのまにか三谷さんも座っている。椎名さんが、二人の分を運び、僕が椎名さんと自分の分を運び終わった。さあ、食べよう。

「いただきます。」四人の声が響く。いつも通り楽しい食事が始まり、終わっていった。場所が家のそれも小人の家の中ってだけだ。みんなで食器を運んで談笑している。幸せだ。

 ガラガラ。昨日もだけど、ここの扉はよく音が鳴る。誰かと思ったが、グリムさんとレンゴさんだった。

「おお、起きたか。朝ごはんは食べたか。」グリムさんが訊いてくる。

「思ったよりも早起きだったな。はっは。」レンゴさんが茶化す。

「はい、食べました。今から出ますね。ありがとうございました。貴重なお話も聞けました。」椎名さんが言う。きっちりしてる。御紋さんはもう出るの、なんて顔をしてるけどそんなに荷物もない。すぐ出れる。三谷さんは荷物をまとめだしている。数分後、僕らは家を出た。ここがスラム街のような村の一軒の家だということを嫌でも思い出させた景色だった。三人も同じことを思ったんだろう、小人の二人に手を振りながらも先行きを思案する顔をしている。

「結局これから、どうするの。」椎名さんが話を切り出す。

「そうですね。やっぱりあのマリット教会を目指すしかないんじゃないでしょうか。」僕が言う。

「うん。分かった。じゃあ、行こう。」御紋さんが元気よく言う。

「教会を目指すで異論はないけど、レナさんとレミさんの話は何だったんだろうね。」いつもこういう確信を突く鋭い発言をするのは三谷さんだ。

「なんなんですかね。そういえば、あの小人たちが私たちと話せたのも魔女のレミさんのおかげって言ってたよね。」僕が言う。

「そうだったね。私もできる、そんなこと。レミさんみたいな。だといいな。ねぇ、織屋。なつき。」話し方が乱れてる。なつきって僕のこと呼んだことないし。そう思いながら、椎名さんを見ると眠っていた。二人とも目が合った。

「眠かったのかな。」御紋さん。

「昨日、寝れなかったのかもね。」三谷さん。

「だから、朝起きてたのかも。」そう言いながら、椎名さんをおんぶする。

 なんやかんやでマリット教会は目と鼻の先だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る