第14話 2日目⑧

「おお、レンゴさん。どうしたんだ。」そう言いながら、グリムさんと呼ばれた小人がまた立ち上がろうとする。それをまた御紋さんが止める。その間に椎名さんと三谷さんが、レンゴさんと呼ばれた小人をこちらに連れて来る。グリムさんより、少し背が小さく太っちょな感じだ。

「いま、どんな気分ですか。痛むところはありますか?」やはり、御紋さんはナースのようだ。

「なんか、気分がすっきりせん。というか心に靄がかかっている感じだ。痛いところは具体的にはないな。胸らへんという感じだな。」そう答えている。

「そうですか。とりあえず、お清めをしてみましょうか。」御紋さんもそう言っている。

 スァー。

 またこの雰囲気だ。何かが浄化されている。椎名さんがそのさまをぼーっと見ている。

「おお、いつも通りになったわい。ありがとう。レナさんのようだ。」レンゴさんも言う。ほんとにレナさんを思い出させるのだろう。いきなりレンゴさんが立つ。椎名さんが驚きつつ、ともに立ち上がる。気を遣っているのだろう。今気づいたが、レンゴさんの身長は1メートルちょっとぐらいだろうか。レンゴさんが立ったのを見て、

「わしも。」

 とグリムさんが立った。三谷さんも驚いて立っている。御紋さんは、二度のお清めで疲れたのだろうか。パッとは立ってない。しかし、みんな食事中と言うことを思い出し、再び席に着いた。僕もレンゴさんに何かを取り分けようと、器を取りに立った。

「それで、グリムさん、この方のお清めには助かったのだが、この方たちは誰なんだ。」レンゴさんが話し始める。声は低くておちゃめな感じだ。

「ああ、この方たちだな。まあ、このご飯もあの少年に作ってもらったのだがな。暗くなってきたときに、今晩泊まりたいと言ってきたから良いと言ったんだよ。そう言えばわしもあんたたちのことを詳しく聞いてなかったな。説明してくれんか。人間がここに来ることになった、経緯を。」グリムさんの声がする。肉じゃがを器によそっているので、会話に加われない。野菜の種類が偏らないようにしながら話を聞くので精いっぱいだ。

「ああ。そうでした。まず私は、椎名 京華です。で、お清めをしたのが御紋 初ちゃんで、この分厚い辞書を持っているのが三谷 双葉ちゃんです。あと、あそこで肉じゃがをよそっているのが、織屋 なつきです。」椎名さんがてきぱきと説明をする。

「おお、良い名前ばかりだな。」レンゴさんが言う。すかさずグリムさんが、

「わしはグリム、で飛び込んできたのがレンゴさんだ。」と紹介する。

「あなたたちのことは分かったのだが、なぜこの世界に来たのだ。好き好んでくるような場所でもなかろう。」レンゴさんが言う。

「それは、魔王の暇つぶしで呼ばれたんです。魔法で。」三谷さんが言う。

「ああ、そうなのか、、、。あの魔王がそんなことするものかな。」レンゴさんがグリムさんに話しかけている。

「たしかにそうだな。でもこの方たちが嘘をついているとも思えん。第一その必要もない。」グリムさんが言う。話し終わったところを見計らって、

「レンゴさん、肉じゃが風のおかずです。良ければ食べてみてください。」そう言って、レンゴさんの前に器を置く。

「おお、ありがとう。お気遣いなく。」そう言いつつもレンゴさんは肉じゃがに箸をつける。無論その箸もこの家のものだ。その様子をみてうれしく思いながら、食べ終わった皿を片付ける。グリムさんの器もと思って手を伸ばすと、

「よい、少年。片付けまでしなくて。わしがやる。」グリムさんが言う。

「無理なさらないで。」御紋さんも言う。しかし、

「いや、あんたたちは早く寝なさい。ここは陽が落ちるのも早いが日が昇るのも早いぞ。それに、片付けはレンゴさんとやればよい。ほら、あっちの部屋を使っていいぞ。布団もあるしな。ほら。」半ば追っ払われるようにしながら、寝室へと向かう。三人と一緒に。もう、食い下がれない。

「グリムさん、レンゴさん、おやすみなさい。」椎名さんが礼儀正しく言う。

「おやすみなさい。」僕たちも続けて言う。

 小人の家で夜を明かす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る