第12話 2日目⑥
森を抜けた。スラムのような町が広がっている。遠くには、邪悪な雰囲気の塔が見える。
「なんか、すごい嫌な感じ。」御紋さんが言う。
「え、全然分かんない。」三谷さんが言う。
「私はなんか、力がみなぎってきた感じがする。」と椎名さん。
「私は特に。」僕も言う。
『闇の教会』そう書いた看板が町の入り口に立っている。下には、文章が小さな字で書いてある。もう慣れたのか、椎名さんが読み上げている。
「『フェミル村の闇に包まれているマリット教会の鐘の音色が鍵を秘めている。』だって。鐘を鳴らすらしいね。」
「じゃあ、多分、マリット教会ってあれだよね。」御紋さん。
「うん、そうだと思う。」三谷さん。
「じゃあ、行きますか。」僕が言う。とりあえず道を歩きながら。舗装されていない道。砂利と砂がむき出しだ。道幅は異様に広い。7メートルぐらいだろうか。道には、簡単なつくりのプレハブ小屋のような家々が所狭しと面している。扉が開いていたり、窓が割れていたり、乱れている感じだ。そんなことを思いながら歩く。
「なんか、人の気配がないね。」御紋さん。
「たしかに。でも誰もいない感じでもないね。」三谷さん。
「うん。存在が無ではない。」椎名さん。結構、教会が近づいたというぐらいだろうか。段々陽が落ちて来た。
「暗くなってきたね。」三谷さん。
「この暗さ、嫌な感じだね。不吉と言うか、不気味と言うか。」御紋さん。
「単純に暗くないってこと?」僕が訊く。
「うん。そんな感じ。」御紋さん。
「私はだんだん気分が高揚してきた。」椎名さん。なんか、ここに来てから、御紋さんと椎名さんの調子が乖離してる気がする。修道女と黒魔女の。あっ。
「この、『闇の』って、どういう意味なんですかね。ただ、暗いってだけなのかな。」僕が言う。
「そうだと思ってた。でも、あるなら、負のパワーみたいな感じかな。」三谷さん。
「あー。たしかに。それで黒魔女の、私は勢いづいてるということなのかな。」椎名さん。
「私は聖なる、修道女だから、負のパワー、邪悪なパワーに弱いと。なるほど。」御紋さんが言う。
「そういうことかもしれませんね。」前を歩いている、三人に話しかける。ぱっと上を見る。とても暗い。
「なんか、かなり暗いよ。空模様が。夜なのかも。」僕が言う。
「うん。そうかも。怖い。」御紋さん。
「じゃあ、今日はここまで?」椎名さん。
「そうしようか。」三谷さん。
「ここの家に入れますかね。誰もいなさそうだし、いいですかね。」僕が扉を開け、様子を見る。
ぎしっ。木の扉が傷む。
「だれだ。敵かぁ。」かすれた声がする。大丈夫だろうか。
「いや、敵じゃないですよ。今晩ここに泊めてもらえますか。」僕が言う。
「ああ、いいよぉ。うぅ。」どんどん弱まっている気がする。
「これ以上しゃべらないでください。四人入りますね。」御紋さんが落ち着いている。
「このパワーなんかいい感じ。」椎名さん。顔が晴れ晴れしている。
「え。てことはもしかしてこの小人みたいなのは闇の力をまとっているってこと。」三谷さんの冷静な分析。
「そうなのかも。」椎名さん。
「知らないけど、とりあえず、私、清めてみる。この方。」御紋さんが言う。
スァー。この擬音が正しいかはわからないけれど、こんな感じだ。清めてる感じがする。
「おお、ありがたい。力が戻る。どうだ、顔もより二枚目になったろう。」小人が話し出す。
「元気になられて、よかったです。」御紋さん。なんか、ナースっぽい。
「すごいんだの、おまえさん。レナさんみたいだ。」小人が懐かしがるように答える。
「だれですか、そのレナさんって。」椎名さんが質問する。
「ああ、レナさんはな、、、。」小人がよくぞ聞いてくれたといったように、話し出す。
「晩ご飯。」御紋さんが駄々をこねるように言う。人の家でそれはない、心の中で思うと、
「おお、命の恩人だからな、飯にしよう。積もる話はその時にな。」まだ、けがが治ったというわけではない。立とうとするがまだ、危なっかしい。
「あ、私が作ります。どこに何がありますかね。」僕は流しを前に言う。
「ああ、じゃあ、頼む。まず、右上にな。」この小人と一夜を明かしそうだ。
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