第11話 2日目⑤
みんなで軽い昼食をとる。
御紋さんが食べ終え、さあ、どうするとみんなで話そうとしたとき、
サッ。ササッ。サササササッ。
穴から、小さな動物が勢いよく出て来た。穴の近くを駆けまわる。
サササササ。
みんなで顔を見合わす。これは、うさぎだ。しかも、耳だけ黒い。そう思って、捕まえようと判断した時だった。
「あっ、うさぎだ。つかまえよ。」御紋さんの声。大きい。
「静かに。」椎名さんもそんなことを言いながら、追いかけている。三谷さんも挟み込もうと奮闘している。僕も追いかけるがうまくいかない。
ササササ。サササ。ササ。
うさぎはまだまだ元気そうだ。
「なんか方法ないの。」椎名さんが言う。
「なんだろう。あっ、初ちゃんそっち。」三谷さん。
「うん。あっ。」こんな感じで苦労したが、あることを思いついた。
「周りから囲めばいいんじゃないですか。」僕が言う。
「OK。」三人から、息の合った返事が来た。じりじりと、しゃがんだ中学生四人が、しかも、修道女や黒魔女の姿だったり、ポンチョ姿だったり、私服だったりする人たちが、ゆっくりうさぎを追い詰める。段々とみんなの距離が縮まる。もう1メートルぐらいだ。そこから、少しづつ手を伸ばして行って。うさぎは微動だにしない。それが逃げ出す予兆の様な気がして、息が詰まる。この状態で、広い森に逃げたりされたら、見つけるのでさえ何時間かかるのやら、そんなことを考えると、より息が詰まる。
きらり。
真鍮製の様な鍵がうさぎの前足から顔を覗かせた。あっ、あれが鍵か。誰もがそう思ったであろう瞬間、うさぎが上へ飛び跳ねた。しゃがんでいる人の頭なんて優に越す高さを。ああ、逃げられた。僕はそう思った。あきらめた。どっちに逃げるか見ておこうなんてことまで考えた。しかし、跳んだうさぎを、三谷さんがポンチョで受け止めた。ふわり、ぽふ。そんな感じだった。うさぎは驚いているのか、三谷さんに警戒心がないのか、ちょこんと、ポンチョの上に佇んでいる。三谷さんは、うさぎの背中をやさしくなでている。顔も優しさであふれている。そんな中、御紋さんの視線が鍵に行った。今、鍵の存在に気づいたという感じだった。四方向から、囲んだのだから、御紋さんには見えなかったのかもしれない。その視線に気づいた三谷さんが、そっと、背中をなでていない、左手で、鍵をとった。その瞬間、鍵から光が発せられた。うさぎは驚き、穴へ帰った。僕たちも驚いた。少し後ずさりしたほどだ。三谷さんも驚いていたが、次第に、その光は三谷さんを包んでいった。数秒後、光は止んだ。
「今の光、何だったんだろうね。」椎名さんが言う。
「ね。すごいまぶしかった。」御紋さん。
「なんですかね。」僕。
「私もわかんない。辞書に載ってるかな。『超常現象』の欄かな。」三谷さんが言う。
「あー、じゃあ、
」僕が言う。
「パラノーマリズムって何。」御紋さん。
「英語で、超常現象ってことですよ。」答える。
「あー。双葉ちゃん調べられた?」御紋さんが訊く。
「もう、双葉ちゃんひかりのページめくってるよ。早いね。」椎名さんが言う。
「あっ。」三谷さんが珍しく声を上げる。
「どうしました?」僕。
「どうしたの。」御紋さん。
「ねぇ。」椎名さん。
「あのね、この辞書、日本語になってる。」三谷さんが答える。
「ほら、『鍵から発せられる光は、その鍵が何かの力を発していることを暗に示している。光なのに、暗に
「へぇー。良かったね読みやすくなって。」椎名さん。
「さっきの光が双葉ちゃんのジョブをグレードアップさせたってことかな。」御紋さん。
「ていうか。wwって言ってるし、その辞書どうなんですかね。」僕が言う。
「たしかに。」三谷さん。
「この鍵ってグレードアップ以外に意味あるのかな。」いつのまにか、鍵を持っている御紋さんが言う。
「多分、その鍵を何本集めれば魔王に会いに行けるとかなんじゃないんですかね。」僕はそう言う。森も出口に差し掛かった。
「なんか、邪悪な雰囲気がする。」一足先に『さまよえる森』を出た、御紋さんが言う。僕たちはまだ何も感じない。
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