第10話 2日目④

「さあっ。」椎名さんの声が森に響く。何とかついていくのに必死だ。うさぎの姿が見えたのだろう。分かれ道を迷わず走り進む。

「ああ、逃げられた。」そういう椎名さんの目の前には、山がそびえている。ふもとには穴がたくさん開いている。

「この穴は全部うさぎの住処だったりするのかな。」

「だろうね。」椎名さんの答え。

「じゃあ、見つけるのもどうしようもないね。」

「うん。でも、、、。」椎名さん。

「でも?」

「この山って、多分、初ちゃんが待ち合わせに指定した山だよね。」

「ああ、そういわれれば。」

「分かんない?」

「うん。」

「これからどうする。」

「変に動いて、すれ違っても困りますしね。」

「そうなんだよね。」

「じゃあ、休みますか。今もだけど。」

「そうしようか。」椎名さんの一言で二人の緊張の糸が切れた。

「椎名さんって、体力ありますね。全然走っても息切れしませんね。」

「うーん。そうかもね。きみも着いて来てたよ。ちゃんと。」

「ありがとうございます。はぁ、でも疲れた。」

「私も。」

「あのうさぎって、真っ白でしたよね。」

「うん。うさぎだ!と思って走っちゃった。」

「でも、すごい楽しそうでしたね。」

「楽しかったよ。全力で走るの久しぶりだったし。」

「久しぶりであれはすごいですね。運動できるんですね。」

「ありがとう。そういえばさ、、、。」

「京華ちゃーん。織屋ー。」御紋さんの大きな声が森に響く。小鳥が驚いて木から飛び立っている。

「初ちゃんー。双葉ちゃんー。」椎名さんが答える。イメージより子供っぽい答え方だ。かわいい。そういえば、「そういえばさ、、、。」の続きは何だったのだろう。

「二人来るの早かったね。」三谷さんが言ってくる。

「走ったからね。」椎名さんが簡潔に答える。

「なんで。ずるい。」御紋さんが言ってくる。

「私がうさぎを追いかけちゃってね。」椎名さんが恥ずかしげに言う。

「へぇ。私たちも。」三谷さんが言う。

「うさぎっぽいのが、さっと通ったから、追いかけたんだけどね。見失っちゃった。」御紋さん。

「多分そのうさぎの、家もここですよ。」僕が言う。

「穴の中ってこと?」御紋さん。

「辞書にあるかな。」三谷さんが、辞書を開く。

『A rabbit makes a nest.』

「これなんて読むの、織屋。」椎名さんが僕に訊く。

「うさぎはネストをつくるって書いてあるんですよ。」すこし意地悪して答える。

「だから、ネストって何。」椎名さんが言う。

「ネストは巣穴ですよ。」答えた。

「じゃあ、うさぎは巣穴を作るってことだね。そのあとの一文は。」御紋さん。

『Even though the varieties are different, they sometimes live in the same place.』「待ってくださいよ。ちょっと長い。バライティがもし違っても、同じところに住むときもあります。で、バライティが品種とかを表すから。」

「品種が違っても、同じところに住んでるかもってことだね。」御紋さん。

「Exactly.」ついつい英語で言う。

「ありがと。」御紋さんから言われる。

「イグザクトリィってなんだっけ。」三谷さん。

「その通りって意味ですよ。」僕が言う。

「何で英語で会話してんのよ。」椎名さん。さらに続ける。

「辞書が正しければ、この巣穴に例えば、真っ白のうさぎの巣穴にも目的のうさぎがいるかもってことだよね。」

「そうなりますね。」僕。

「でも、どうするの。巣穴に入る?」御紋さん。

「それは難しいよね。どうしよう。」三谷さん。

「食べ物で釣るとか?」御紋さんの提案。

「釣るってどうよ。」椎名さん。

「でもさぁ。」三谷さんが、控えめに言う。

「なんですか。」僕が訊く。

「織屋くんに尋ねられるといいづらいんだけど、おなか空いたんだよね。」

「そうですか。みなさんは。」

「そういわれると空いてきた。」御紋さん。

「私も時間わかんないし、考えてなかった。」椎名さん。

「でも、陽も高いですしね。お昼にしますか。」僕が言う。

「イエーイ。」三人の声が鳴り響く。

 うさぎが、巣穴から顔を出す。

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