第9話 2日目③
さらさら。川の音が聞こえる気がする。
「はい。」御紋さんが水の入った桶を僕に渡してくる。それを椎名さんに渡す。そしてその水を三谷さんが、ボトルに入れる。桶もボトルももちろん黒魔女製だ。
「これで四本目。」三谷さんの声。
「どうする、まだ汲む?」御紋さんの声。
「重くなってもいやですし、これでいいでしょう。」僕が言う。
「OK。」そう言って御紋さんがすばやく立ち上がる。修道女らしくない元気の良さだ。
「じゃあ、森の中、進むよ。」
「初ちゃん待って、こっち終わってない。」三谷さんが水を詰めつつ言う。椎名さんが手伝っている。
「うん。どうする、これから。とりあえず探す?」御紋さんが僕に尋ねる。
「そうですね。まだ森の全貌も分かりませんし。歩きましょう。」
「四人で一緒に?」どこか不満げそうだ。
「そのつもりでしたけど、どうします?」
「効率が悪くない?二人ペアとか。」
「じゃあ、そうしますか。」
「ねぇ、なにをそうするの。」椎名さんが訊いてくる。一人でボトルを二本も持っている。
「はい、持ちますよ。」
「あ、ありがとう。」
「初ちゃんもこれ持って。」三谷さんが手渡ししている。
「あ、これからペアになって行動してみる?って言ってるんです。どうですか。」
「私はいいよ。」椎名さん。
「異議なし。」三谷さん。
「うん。ペアで行こうー。」
「分け方は決まったの?」椎名さん。
「いや、まだ。」
「初ちゃんと織屋、私と双葉ちゃんでどう?」
「双葉ちゃんと織屋で、私と京華ちゃんは?」
「いや、私と、、、。」女子三人が何やら話し合っている。しばらくして、僕の存在に気づいた、椎名さんが、
「あ、別に織屋を押し付けあってるわけじゃなく、、、。」椎名さんやさしいな。明らかに押し付けあってたけど。まあ、女子同士がいいのは当然だろう。
「別に私、一人でもいいですよ。」
「それは、ちょっと心配。万が一のことがあったら困るし、織屋、方向音痴だし。」たしかに、方向音痴ではある。心配してくれるのはうれしいが。
「そうですか。」
「じゃあ、京華ちゃんと織屋。私と双葉ちゃん、でいい?」御紋さんが僕に訊いてくる。別に断る理由もない。
「いいですよ。」
「じゃあ、決定。」御紋さん。
「でも、二手に分かれてどうするの。」三谷さんのもっともな質問。
「待ち合わせとかすればいいんじゃない。」椎名さん。
「目印とかありますかね。ハチ公みたいな。」僕が言う。
「ハチ公って。面白い。まあ、目印あればね。いいね。」三谷さん。
「じゃあ、あの山を目指して二手に分かれるってことで。ちょうど、そこで右と左に分かれてるし。」御紋さんの前にはY字路がある。
「じゃあ、それで。」椎名さん。
「では。」三谷さん。いつのまにか、御紋さんと左の道に消えている。
「山まで行けますかね。」僕が言う。
「大丈夫よ。私についてきて。」頼もしい、黒魔女だ。
「そうですね。姉貴。」たしか、そんなあだ名もあったはずだ。
「きみまで姉貴って言うの止める。」怒られる。
「はい。でも、姉貴って感じですよね。頼りになりますもん。」
「そんなことないんだけどな。」
「ああ、あれは自分が作り上げたキャラクターだったといま、私に告白するんですね。はい、どうぞ。」
「なんで、分かってて言わせるの。でも、キャラではあるね。」
「素ってどんな感じなんですか。」
「いや別に。そんな、織屋に言うほどでもない。はぁー。疲れた。なんなの。魔界って。」
「魔界は魔界ですけど。」
「でも、ゲームの中だけでいいよ。チートもないし。戦力も微妙だし。」
「すみません。」
「べつに、きみを責めてるわけじゃないよ。でもさぁ、いきなりすぎるっていうか。」
「予告があればよかったんですか。」
「そうじゃないし、私で遊んでるでしょ。」
「はい。珍しく椎名さんが弱音を吐いていたんで。」
「たしかに珍しいかもね。それでもさぁ。」
シュッ。
「あっ、あれ、うさぎっぽい。」
「左右どっちかに行きましたね。右の道だと、山から離れる気がしますけど。」
「いや、右だった。行こう。」やっぱり、椎名さんは頼もしい。
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