第5話 1日目⑤

「リンゴみたいなやつもあるよ。何個とる?」御紋さんに訊かれたので、

「今日の晩御飯と備蓄の分も考えて四つにしよう。」と答えた。野菜などは、黒魔術で椎名さんがつくってくれた、ナイフのようなものでとり、これまた黒魔女製のかごに入れた。

「あと、何とる?」

「山菜もとったし、野菜もとったし、果物もとったね。こんなものかな。」

「あっ、あそこにジャガイモみたいなやつもあるよ。」

「じゃあ、それもとろう。主食にもなるし。」

「いくつ?」

「五、六個かな。かご、重い?大丈夫?」

「大丈夫。織屋より、握力あるし、どれくらい?」力を握力だけで測るのはどうかと思うが、

「二十超えるか超えないか。」と言うと、

「えっ。私35くらいあるよ。」と返ってきた。荷物は持ってもらおうかしら。

「あとさぁ、さっきジャガイモで主食って言ったけど、主菜がないんだよね。」

「主菜って何。」おい、家庭科で習ったよ、と思いつつ、

「主に肉とか魚とかで、たんぱく質を含む、メインのおかずになるもの、だね。」と答えた。

「あ、なるほどね。肉はよくわかんないけど、あそこに川あるから、魚はいると思う。捕まえようか。」と提案された。

「いいね。行こうか。」御紋さんとふたりで、野菜とったり、川に行ったり、魔界って楽しいな、なんて思ってたら、魚がかごの中でぴちゃぴちゃと跳ねている。

「じゃあ、いまから鎮魂するね。」と御紋さんが言った。三谷さんと辞書で調べたらしい。そうか、御紋さんは修道女だから、鎮魂ができるのか。感心してたら、鎮魂が終わったようで、二人と合流しようと言われた。もう少し二人を楽しみたかった気持ちがないと言えばうそになるが、御紋さんがそう言っているのだから、行くことにしよう。

「うん。そうしましょう。」と言うと、

「そういえば、織屋って、私たちに敬語使ったりタメ口だったりするよね。」そう言われたら、そんな気もする。

「そうかもね。よくわかんない。」

「ほら、いまはタメ口だよ。」こんなことを言いながら、二人のところに向かった。

 遠くに、机と椅子っぽいものと台所らしきものが見える。

「すごーい、京華ちゃん、双葉ちゃん。これ作ったの。」御紋さんが言う。控えめにでも誇らしげに椎名さんが、

「うん、とりあえず、台所と、食べるための家具だけ作ったよ。あとは、寝る場所かな、どうする。」僕は何でも良かったので、

「私は何でもいいですよ。」と言った。そうならば、と言うように、御紋さんが、

「じゃあ、ベットがいい。二段ベッド。」と言った。

「いや、四人だから、それだと足りてない。」と三谷さん。

「じゃあ、残りの二人は雑魚寝。」

「それは、さすがにひどいよ。」

「それなら、二つ作ろう。二段ベッドを。」

「それだと、場所が足りないんだよね。」

「うーん。そうだね。どうしよっか。」

「どうすればいいかな。」こんな感じで、御紋さんと三谷さんの会話が続いていく。間に入るのも難しそうだから、訊きたかったことを訊こうと思い、椎名さんに話しかけた。

「椎名さん、食材も台所も水もそろったんだけどさ、」水は川のものを汲んできておいたのだ。

「塩がないんだよね。」と言うと、

「あっ、それ僕も言おうと思ってた。」と椎名さん。椎名さんと二人で話すことが久しぶりだったからなのか、椎名さんの一人称が「僕」であったことを改めて思い出した。

「塩いるよねって双葉ちゃんと話してて、でも海ないしねとか言ってたら、『ソルトル』っていう、魔術初心者でも召喚できる悪魔がいたの。だから、前、織屋くんが描いてた魔法陣を思い出して描いて、呼んだんだよ。そしたら、もらえたよ。ほら、あれ。」椎名さんの指の先には、入れ物に入れられた、白い粉末があった。塩なのであろう。

「塩、ありがとうね。これで料理も心配ないよ。」と僕が言うと、

「いやいや、大したことじゃないよ。」と謙遜された。魔界に慣れたのか、悪魔の召喚が大したことじゃなくなっている。

 御紋さんの大きな声が聞こえる。

「じゃあ、四段ベッドにしよう。」面白いことになりそうだ。

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