第3話 1日目③

 あのあと、魔王がマップをくれた。そのあと、

「もう戻らなければならない。では、頑張ってな。」と言ってすぐ消えた。結局僕たちは四人残された。緑色の大地に。

「最後、魔王はさあ、頑張ってなって言ったよね。でも、それって自分を殺してくれってことだよね。」三谷さんが言う。やはり、『全知全能の持ち主』は似合っている。

「そうなるね。でも、よく分かんないね。」と黒魔女な椎名さん。

「全知全能だったら、魔界のこととか分かるんじゃない。」と御紋さん。修道女姿はかわいい。

「たしかに。この辞書にあるはず。」と言って、三谷さんは10cmぐらいの辞書を開いたが、すぐに声を上げた。

「これ全部、英語だよ。ほら。」と言って僕たちに文章を見せて来る。

『This dictionary will tell you about this world.But only about the human world.』

 と最初のページに大きく書いてある。そのあとのページも三谷さんがパラパラとめくるが、すべて英語だ。

「でも、織屋くんだったら分かるかも。頭いいし。どう?」三谷さんが訊いてくる。御紋さんと椎名さんもこっちを見ている。まあ読める。

「多分、『この辞書はあなたに、この世について語る。しかし、ヒューマンワールド、おそらく、人間界のこと、のみに限る。』って書いてあるんだと思う。」

「へぇ。さすが。」御紋さんが言う。ちょっとうれしい。

「読めてよかったけど、魔王のこと、つまり魔界のことは分かんないってことだね。」三谷さん。

「そうなるね。」椎名さん。

「でさあ、ずっと思ってたんだけど、織屋くんってさあ、今も制服のままだよね。学校の。」と三谷さん。たしかにそうだ。気にしてなかった。

「まあでも、ジョブないし仕方ないよ。」というと、

「そうでもないかも。ほら、これでしょ、織屋くんの私服。」辞書の中ほどのページを開いた三谷さんが言う。

「うん。そっか、全知全能だから分かるのか。」驚きつつコメントする。

「黒ばっかりだね。あと灰色。」と椎名さん。

「ほんとだね。私服、黒づくめの人は厨二病っていうよね。」御紋さん。

「そうなの。」何とか言葉を返したものの、心に刺さる。

「あとは、黒魔術でなんとかできるよね、京華ちゃん。」と三谷さん。

「楽しみ。」と御紋さん。何が楽しみなんだろう。僕の私服。いや、黒魔術の方だろう。

「よく分かんないけど。やってみるね。織屋の服をこれと、これと、これにしてください。靴はこれ。」椎名さんも乗り気だ。まさかコーディネートまでされるとは。

 パッ。服があっという間に切り替わった。

「わぁ、成功だよ。京華ちゃん。」御紋さんがうれしそうだ。

「良かったね、織屋くん。」と三谷さん。黒の半そでと、ひざが隠れるぐらいの、灰色の、迷彩のズボン。黒い運動靴。なかなかアリだ。それに動きやすい。身軽になったこともあり、

「それで、いまからどうする。」とみんなに訊くと、

「もうすぐ夕方になりそうね。」と椎名さん。

「うん。動けるよ。まだ。」と三谷さん。

「じゃあ、次のとこ行こー。」こんなにハイテンションなのは、御紋さん。

「次は、、、。今が、『始まりの大地』で、次が、『さまよえる森』だね。」と僕。

「あの森だよね。」と前を指でさした、三谷さん。

「うん。そうだと思う。」と僕。

「で、私たちは何したらいいの。」と冷静に、椎名さん。

「多分、この『さまよえる森』とか『闇の教会』とかのエリアごとに、鍵が一つずつ隠されていて、それを全て集めれば『魔王の城』への道が開けるんだと思う。」と説明すると、

「織屋なんでしってるの。」と御紋さん。

「マップに載ってるの。はい。」と地図を渡す。

「たしか、その鍵で、個人のジョブもグレードアップするんだったよね。」と椎名さん。

「うん。魔王さんがそう言ってた。」と三谷さん。

「じゃあ、『さまよえる森』の手前まで行こうよ。とりあえず。」御紋さんが提案する。満場一致で賛成だった。

 こうして、修道女と黒魔女と全知全能の持ち主と私服の男子が『始まりの大地』から『さまよえる森』の手前まで、向かうことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る