第2話 1日目②

 目の前でクラスの女子三人が「魔王討伐のジョブカタログ」を楽しそうに見ている。

「あの、言いにくいのだが、ジョブは三人分までしか準備してない。」と魔王。

「えっ。」と言いながら、御紋さんがこちらを向いた。

「はい、私はジョブ要りません。」僕が言うと、御紋さんが、

「男前。」と言ってくれた。椎名さんが笑いながら、

「でも、なんでジョブが三人分しかないんですか。魔王さん。」と訊くと、

「本当はあなたたち女子三人を魔界に召喚するつもりだったのだが、いきなりこの男が来たので、私の魔法が追い付かなかったのだ。」魔王が言うと、苦笑しながら三谷さんが

「別に織屋くんが自ら来たとういうよりは、初ちゃんが呼んだんだよね。」

「そうだね。」と御紋さん。それを聞いた椎名さんが、

「じゃあ、初ちゃんが魔王を上回ったっていうことだね。」と言って笑っている。

「もし初ちゃんが織屋くんを呼ばなかったら、私たち三人で魔界に来て魔王討伐だったんだね。」と三谷さんが言うと、

「ちょっとそれは心細かったかも。」と御紋さんが言う。

「たしかに、織屋がいた方が安心かも。」椎名さんも同意する。

「魔王さんのミスも結果オーライだったね。」と三谷さん。みんなに言われて少しうれしくなっていると、

「私のミスのおかげだな。」と魔王が一人照れている。

「でさあ、ジョブどうする。」御紋さんが唐突に話を変えた。いつものことだ。魔王だけ反応できず、うろたえている。三人がカタログをパラパラめくっていると、

「あっ、『黒魔女』のジョブがある。」と大きな声で御紋さんが言う。

「能力は高いのだが、やはり『魔法少女』の方が人気があるみたいだな。」魔王の解説。

「まあ、京華ちゃんには似合ってるよね。」御紋さんがいうと、

「ぴったりだね。」と三谷さん。たしかに、椎名さんはいつもミステリアスで冷酷そうな雰囲気をいつもまとっている。そう思い、

「たしかに、ぴったりですね、椎名さん。」と言うと、

「ちょっと、織屋まで。」と言われたがもう椎名さんに拒否権はない。

「じゃ、魔王さん京華ちゃんは『黒魔女』で。」御紋さんがそう言うと魔王が腕を一振り。パッと椎名さんの姿が黒魔女になった。

「お。割とありかも。」椎名さんも受け入れている。黒いレインコート、とか言ったら怒るだろうけど、そんな感じの上着だ。フードも似合っている。他の二人もやっぱり似合うと言っている。そんな感じでカタログをめくり、『く』のページから『ぜ』のページまで行ったとき、

「あっ。」と三谷さんが声を上げた。指でさしたのは、『全知全能の持ち主』のジョブだ。

「これがいい。」三谷さんが言う。

「双葉ちゃんちょっとこういう厨二病なところあるもんね。」すでに黒魔女の装いとなった椎名さんが言う。

「黒魔女に言われたくない。」三谷さんが反論すると、

「望んだわけじゃないし。」と椎名さん。

「じゃあ、双葉ちゃんは『全知全能の持ち主』で。」御紋さんの声でさっきと同じ流れで、三谷さんが『全知全能の持ち主』の格好になった。もともと眼鏡をかけているというのもあって、分厚い辞書とポンチョを着た姿はそれとなく全てを知っていそうだ。

「かわいい。」二人が三谷さんに言いながら、こっちを向く。

「かわいいと思いますよ。」本当に思ったことを言ったら、

「あ、かわいいって言った。」と二人にからかわれる。三谷さんは少し照れている。

「黒魔女の京華ちゃんはどうなの。」御紋さんが訊いてくるので、

「もちろん、かわいいですよ。」と答えると、黒魔女が照れている。

「じゃあ、これは。」一瞬で『修道女』姿になった、御紋さんが訊いてくる。

「かわいい。」いつのまにか、口からこぼれていたようだ。女子三人が驚きながら、こちらを見ている。だって、修道女すがた、御紋さん長身だからすごい似合ってるんだもん。そんななか、空気を読まない魔王が、

「ジョブは討伐の途中でカギをとるとグレードアップするから。いまは、ビギナー、次はマスター、そして、グランドマスターになる。」と説明した。まだ、修道女は顔を赤らめている。それがまたかわいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る