女子3人と魔王のために魔王討伐

頭野 融

第1話 1日目①

 ―キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴った。ここは楼明ろうめい中学校。俺は中三、織屋おりや なつきだ。明日からは夏休み。受験勉強で忙しくなりそうだが、やはり楽しみではある。チャイムが鳴ってもまだ先生は来ない、これをみんな知っているので誰も席には座らない。あそこで楽しそうにしゃべっているのは、クラスの女子の中では変わり者の三人だ。背が高くモデル体型のポニーテールの美少女が、御紋みもん うい、クラスで真ん中ぐらいの身長だがすらっと見える、ツインテールの女子が椎名しいな 京華きょうか、小柄でショートカットの女子が、三谷みたに 双葉ふたばだ。何やらいつも通り楽しそうに大きな声で話している。

「ねぇ、夏休みどこか行く予定ある?」と椎名さん。

「ちょっと家族と県外に旅行に。」と三谷さん。

「塾があるから、どこも行けないー。どうにかして。」と御紋さん。そうだった。大きな声なのは御紋さんだけだった。

「じゃあ、行きたいとこある?初ちゃん。」なだめるように、椎名さんが訊く。

「うーん、天国。」

「それ死んでる。」と三谷さんが冷静にコメントしている。

「じゃあ、地獄。」御紋さんがすぐに答える。

「ちょっと、天国だめなら地獄って、初ちゃん、ふふっ。」急に椎名さんが笑い出した。

「たしかに。ふふふふふ。」段々、三谷さんがつられてきた。

 見かねた、御紋さんが言う。

「もう、じゃあ、魔界に行きたい。」

「え、魔界?」椎名さんと三谷さんの二人がハモって聞き返した。

「あっ、魔界なら、織屋が詳しいよね。織屋~。」突然、御紋さんがこっちを向いて手招きしてくる。席を立つと、三谷さんが椎名さんに織屋くんって魔界に詳しいんだっけ、と訊いている。

「たしか、クラス替えの後の自己紹介で、特技を言うときに、詰まって、そしたら、『悪魔を召喚すればいいじゃん。』って言われて、本当に魔方陣、描いて、呪文を唱えたんだよね。」椎名さんが解説している。その通りだ。そのおかげで新しいクラスでは、ぼっちだけどな、と心の中でツッコむと、もう、御紋さんの席に来ていた。

「で、何。」御紋さんと話せるのが本当はうれしいのだが、無愛想に言う。

「だから、わたしは、魔界に行きたいの。」さっき聞いたけど、すごいことを言ってるなと、自分が思ってる横では、椎名さんと三谷さんが笑っている。

ピタ。

時が止まったなんて表現はもう聞き飽きたけど、本当に時が止まった。そして、僕たち四人がいる床が抜けた。ここは一階だ、床が抜けるなんてことはありえないと思っていると、三人も不思議そうに周りを見渡している。この四人だけ動けているようだ。どんどん、どんどん真下に落下している。緑色の大地が下に見えて来た。ぶつかると思って四人同時に目をつぶると、無事に着地していた。

「死ぬかと思った。何が起きたんだ。」僕がつぶやくと、

「本当だよ、何が起きたの。」椎名さんがつぶやく。

「分かんないけど、面白かった。」三谷さんがのんきに言っている。

「これなんなの。ねぇ、織屋。」と御紋さん。

「分かんない。で、ここはどこ。」答える僕。

「手荒いことをしてしまったな。やはり、私だと魔力が足りなかったな。」

「え、何の話、ですか。ていうか、あなたは誰、ですか。」何とか言葉をつないだ。

「ああ、何から話せばよいであろうか。まず私は、魔王だ。そしてここは魔界。私があなたたちを魔界に召喚したんだ。それで、あなたたちには今から、魔王討伐をしてもらう。人間界が夏休みの時は、魔界に人間が一人も来ないし、暇なんでな。私のためだと思って、引き受けてくれ。ちなみに、人間界の時間は止めといた。私を討伐したら、人間界に戻れるってことだ。心配はしなくてよい。」

「面白そうだから、OK。魔王討伐します。」御紋さんが威勢よく答える。

「えっ。」三人でハモったが、魔王がもう話を進めている。

「では、今から、自分のジョブを決めてもらう。」

「えーと。」選び始める御紋さん。なんだか、いきなりで話が飲み込めないが、御紋さんが楽しそうで何よりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る