ダメサーの王子達“書店でカッパ”

●どんな話よ●

 東京、八王子の山奥にある八王子山の上大学にて、勝手に作られた”ダベるメンズ・サークル”通称ダメサーの面々が、毎度テキトーにダベったり学生生活をして行く話をテキトーにザッピングで。


●登場人物●


■王子・総志:男。二年。リーダー。王子グループの次期頭首。製紙関係。世界の中心系。


■白川・鳳凰:男。二年。ゴダイゴ。ホーちゃん。元ヒッキー。情報収集系。泊と付き合ってる。


■四方山・隆:男。二年。ヨモ、サル。修理工場。チンピラ系スポーツマン。長身イケメンだが残念系。


■女王・桜子:女。二年。花子。女王グループの次期頭首。レジャー系。泊の後輩。学連副長。名字は”めのう”。名字の読み方は”めのう”。


■泊・寬美 :女。三年。カンミ。会長。イッパク。やるときゃやる元会長。白川と付き合ってる。名字の読み方は”とまり”。


■郷里・祐理:女。二年。ゴリ。ユリ。スポーツ特待生枠。桜子の友人。意外とまとめ役。


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※今回は駅前の書店にいます。


「おや郷里君、花子、お足元悪いときにこの書店で会うとは奇遇だね。雨宿りかね? それとも君もコピー用紙の保管状況を確かめに来たのかね?」


「あ、私そっちの趣味ないんで。王子君は上の階から順にコピー機の紙舐めて来たの?」


「いや、そんなことはしていないよ? ここの紙は昨日に確認したからね。今日は本を買いに来たという訳だ」


「昨日はやらかしたんだ……」


「興味本位だけで聞きますけど、本も舐めますの?」


「何を言ってる花子。売り物にそんなことしたら一発でポリス案件ではないかね。買った後で無ければ駄目だ」


「今、変な倫理観聞いたけど、どんな本買うの? 王子君は」


「ああ、奥付を見て、関西方面のマイナー印刷所であれば合格だ。書店買い切りで置きっぱなしの資料系が特にいい紙を使っている」


「誰が舐めるための本の話をしろと」


「あのさ、王子君には難しいかもしれないんだけど、内容の話、出来る?」


「内容? どういうことかね? 版型とか糊の成分やKとかコートの話かね? それ以外の特殊用紙の話が聞きたいのかね?」


「これ重症通り越して致命症になってるんじゃないかな……」


「――あれ? リーダー、本読むの?」


「おやおや、また失礼な事を言う子が来たものだね。これでも私は読書をする方だが?」


「どんな本を読みますの?」


「ああ、奥付を見て、関西方面のマイナー印刷所であれば合格だ。書店買い切りで置きっぱなしの資料系が特にいい紙を使っている」


「同じ!! それさっきと同じ!」


「矛盾する処はなかろう。趣味と実益を兼ねていると、そういうことだよ?」


「うーん、話変えた方がいいと思うから変えるけど、ゴリさん達は何買いに来たの?」


「あ、教科書の買い直し。レシート貰って学生課で払い戻しOKって感じで」


「どういうことかね?」


「ええ。経済三階の大教室が使えなくなったの、知ってるでしょう?」


「あれ? 直ったんじゃなかったの? 天井の配線がショートして、経済棟の中に危険なアラート鳴ったアレ」


「現場いたの?」


「うん。何かリレースイッチ? だかがショートしたらしくて、経済棟の照明が激しく点滅したから、安めの変なドンパン系のPVみたいになってた」


「教授が”何だ!? 何が起きた!?”と慌てるのが、照明の点滅によってステージ系パフォーマーに見えてなかなか面白かったね」


「原因解らなくて結構引っ張ったよね。実際、軽音と映研が、点滅する経済棟背景に何か動画撮ってたし」


「外から聞こえてきた音楽はそれだったか……。しかしそのせいか、駆けつけてきた事務課の小山君が”ああ、ディスコみたいだよねコレ! 皆、知ってるよね!?”って言ったら皆首傾げたので、凄い勢いでキレていたね」


「小山さん、おとなしそうに見えてバブル世代かー……」


「でもアレ、直ったんだよね? ”もりさわ”がやってきて」


「”もりさわ”?」


「あ、OBのやってる電気店。何か小さいんだけど、配線と設置関係メインでやってて、学生寮とか完全に握られてる」


「腕はいいのかね?」


「うちの先輩が天井裏の配線やって貰ったときは、けっこう早かったって」


「あら、優秀ですのね?」


「うん。先輩の処、違法建築なせいか屋根側の梁から下向きに釘が突き出しててさ。”もりさわ”のオッサン、不用意に天井裏に上がったら脳天からクイックに釘に突き刺さって真っ逆さまに落ちてきたって」


「大丈夫ですのソレ」


「聞いた話、”ぎゃあ”とか”うわ”じゃなくて”フッ”っていうヤバい声で落下してきたって」


「ヤバい声」


「うん。でも貫通はしなかったらしいって。だから何か、頭にタオル載せて、ヘッドホンみたいにガムテープで顎まで押さえつけて作業したそうなんだけど、作業後に血痕落ちまくってて、先輩が”違法建築に事故物件みがプラスだよ!”ってキレてた」


「まあ、作業をちゃんとやるあたり、プロではあるね」


「というか経済三階の大教室の話」


「えーと、また使えなくなった話でいいんだよね」


「ええ、今日、ほら、雨でしょう? それで私達、経済歴史の授業受けていたら、雨漏りがあって」


「雨漏り?」


「うん。滝みたいな水と一緒に天井板が落ちてきて教授が直撃食らった」


「それ雨漏りって言わないんじゃないかな?」


「何だか配水管が? 老朽化か何かで破断したそうですの。それで天井裏に水が溜まって、一気に落ちたみたいですのね」


「それでまあ、私と桜子は一番前で授業受けてたからさ。水がビシャアって来て。でも自分自身と荷物は避けたんだけど、机の上に置いてたノートとかが濡れちゃって」


「それで教科書買い直しかー」


「ぶっちゃけ桜子パワーで事務課に意見通った感じ」


「ほほう。権力者としていい仕事をしているな花子」


「学生として当然のことですわ。――そちらは何を?」


「ああ、本を買いに、というのは確かなことなのだが、この後、サルと合流して隣の焼き肉屋で打ち上げだね」


「打ち上げ? 何かやってたの?」


「うん。レポート提出って、データ提出でしょ。それで、当然の様にネットからコピーしてくる連中多いから、それがバレないかどうかの添削サービス開始した」


「うむ。我が王子グループの印刷デザイン用添削ソフトを流用してね。ネットにあるものとどのくらい同じデータになっているかをまず採点する。そこまでは無料だ。

 その上で、何処が危険かを判断するのだが、そこからは有料になる」


「何してますの貴方達? 大体それ、学校側に対しての妨害では?」


「いや、危険度高いのに無料添削だけで済ませようとした連中の名簿を、学生課に提出している。学生課からは非常に好評だ。我々も日々権力側について庶民から搾取する安定感を楽しんでいるね」


「タチが悪い……」


「まあ、やらかした連中も、次からは、ちゃんと有料にしてくれるだろうね」


「そんな訳で打ち上げで合流待ち」


「何かいい本は見つかりましたの?」


「焼き肉屋で確実に匂いがつくからね。小説とか、普通の紙の本は避けたいな……、っていうのはリーダー的考え方かな」


「何を言っているゴダイゴ! 本にしみついた匂いは持ち主の生活と記憶そのものだ。煙草だけのものであっても持ち主がどのような時間を過ごしていたか想像が出来る。そう、焼き肉の炭やタレの匂いがついていたならば、舐めるだけで焼き肉屋の味が再現される。飯が進むぞ!」


「拡大解釈の酷いバージョンを見た気がしますたわ」


「ってか、隣の焼き肉屋って、”パキスタン”?」


「ああ。あのビル入り口から狭い階段昇って行って更に五階、みたいなアレだね。階段が入り口に見えるが、”非常口”と壁にプラカードあるから、アレ明らかに違法な作りだよな」


「うん。あそこ、陸部でも使うけどさ、店広いけど入り口一つだから、何かあったら逃げ場無いよね」


「大丈夫ですの?」


「いや、逃げ場が無いから逆に不穏な連中が入って来ない。または入って来ても問題を起こさない。窓からの見晴らしもいいから、違法部分を抜かせば安心安全の店だ」


「店長が元々割烹崩れで、肉を切るときに鮪包丁使うのよね……。あれかなり治安の役に立ってる気がする」


「根本的に間違ってるけどね」


「でもアレ、何で焼き肉屋なのに”パキスタン”なんだろ」


「カンミから聞いたんだけど、店主が秘伝のタレを作るときにスランプに陥ってさ、それでふと閃いたのが”香辛料強めのスナック菓子あったよな! あのイメージだ!”って作って成功して、だからそのスナック菓子の名前をつけたらしいよ」


「??? ”パキスタン”なんて御菓子、ありましたかしら?」


「うん。”エスニカン”の間違い」


「惜しい、と思ったけど、最後の”ン”しか合ってないね……」


「そうなんだけど、また変にスランプに陥られても困るから、気を遣って誰も指摘しないんだって」


「泊さん、それを我慢出来るの?」


「副店長から”エスニカン持ち込んだら出禁にするぞ”って言われたって」


「人類史初の出禁条件だね」


「うん。だからドンタコスとか持ち込んで店内に緊張感を生んでるけど、そもそも焼き肉屋で菓子食うのもどうかな……、って僕は思ってる」


「成程なあ。あ、でも、ヨモ氏とか、背ー高いから気を付けといた方がいいよ。”パキスタン”」


「何かあるのかね?」


「いや、ほら、あの狭くて長い階段あるじゃない。アレ、天井に各階の店の看板が吊されてるのよね」


「ああ、あるね。三階の”高尾易学会・”信じない人は来ないで下さい”というのは、アレ、何だねあの防御力高めの一文? 何か嫌なことでもあったのかね」


「カンミじゃなきゃいいな……、って思ってる」


「聞く度胸無いかー」


「祐理? あの、階段の何が気を付けることですの?」


「ああ、うん。あの看板にさ、頭ぶつける人がいるわけ」


「あー、ヨモ氏も、何か避けてた気がする。当たらないんだけど気になる高さなのかな、アレ」


「で? だれかやらかしたのかね?」


「うん。”パキスタン”で男女陸部の打ち上げあったんだけど、酔っ払った男子の先輩が階段降りながら”一段! 二段! 三段――!”ってジャンプしたら、すぐ上にあった看板に下から激突して」


「看板の下面かー……」


「そう。それで頭のテッペンがパックリ割れて大流血になっちゃって。駅前に救急車呼んで搬送されるし、交番からポリスメン出て来て喧嘩か何かと思われて質問始まるしで」


「それで、怪我した彼は大丈夫だったのかね?」


「うん。頭パックリ割ったから、横一直線に十八針? それでまあ、アレって、頭の毛を剃るじゃない。イエズス会のアレみたいになって」


「ああ、ザビエルハゲ」


「そうそう。――で、テッペンハゲの上に、傷跡が横一直線に入ってるから、以後その先輩、仇名が”カッパの貯金箱”ってなって」


「それカッパにとって偉い風評被害だね」


「というか祐理? 何で貴女、頭ぶつける系の話題が多いんですの?」


「そうかな? ……って思ったら、今日のアレで一個追加か……」


「まあ何だね。頭の方は気を付けるとして、何だったら合流するかね? 馴染みなので人数追加効くから」


「……教科書に焼き肉屋の匂い着いたからって、舐めるつもりじゃないでしょうね?」



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