ダメサーの王子達”会長のアナリティクス”

●どんな話よ●


 東京、八王子の山奥にある八王子山の上大学にて、勝手に作られた”ダベるメンズ・サークル”通称ダメサーの面々が、毎度テキトーにダベったり学生生活をして行く話をテキトーにザッピングで。



●登場人物●


■王子・総志:男。二年。リーダー。王子グループの次期頭首。製紙関係。世界の中心系。


■白川・鳳凰:男。二年。ゴダイゴ。ホーちゃん。元ヒッキー。情報収集系。泊と付き合ってる。


■四方山・隆:男。二年。ヨモ、サル。修理工場。チンピラ系スポーツマン。長身イケメンだが残念系。


■女王・桜子:女。二年。花子。女王グループの次期頭首。レジャー系。泊の後輩。学連副長。名字は”めのう”。


■泊・寬美 :女。三年。カンミ。会長。イッパク。やるときゃやる元会長。白川と付き合ってる。名字の読み方は”とまり”。


■郷里・祐理:女。二年。ゴリ。ユリ。スポーツ特待生枠。桜子の友人。意外とまとめ役。今回不出場。


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         ●

 春は山の麓から訪れる。

 東京の西、八王子。


 日本百名山に連なり、標高も低いことから観光客も多く、しかしたびたびに遭難者も出る日帰り可能な秘境、高尾山。西は山梨と隣接し、古くは武田家の侵攻を防ぐ防壁となったこの山間の土地にも、今、春の色が訪れつつあった。


 桜の白だ。

 それが多く見えるのは、高尾の入り口の並木を始めとして、山側にまた進んだ場所だった。


 山奥、谷となっている地域や、山を造成して作られた平地に、学校があるのだ。

 大学だった。


 四月。授業は新年度の履修説明が始まっている。新入生も入学式を終え、学生達はそろそろ散ろうかという桜の下、履修案内の冊子と、それらをまとめた学内ネットにつないだスマホやタブレットを手に行き来している。


 響く声は雑談。そして、


「おーい、桜子ちゃん、ボーっとしてないで、座る? ヤキソバ食う?」




        ●

 泊の視界の中、桜子がようやく我に返った。

 いろいろ不慣れだなー、と思うこちらに対し、彼女は慌てて頭を下げる。


「あ、い、いえ、大丈夫です会長! ヤキソバは後で」


「あー、元会長だって。目黒時代だし、昔は一緒にいろいろ悪さしたけどね!」


「何をしたのかね?」


「ちょっと、話の割り込みは……」



 まあまあ、といつものようにやりかねない二人を、とりあえず手で制す。

 ヨモも彼も、何となく興味を持っているようだ。さっきは男衆が自分達の強さ自慢を子供っぽくやっていたのだから、まあ次は自分でも良いだろう。



「目黒の生徒総会の時にね? ほら、月一の朝集会で、いろいろとアンケートとかのデータを利用して、これからどうしようかっていうのを話すのね?」


「ああ、目黒伝統の礼拝集会か」


「あら、礼拝は無くなりましたのよ? 会長の前の代で」


「前の代の会長が”高尾暗黒大天狗教”とかいう地名の入ったダイレクトなのにハマってて”人は信仰の自由を取り戻すべきです!”って礼拝無くしたんだっけ」


「暗黒教が正論かよ」


「私その会長の下で副会長やったけど、意外とまともな人だった」


「地名が入るとやはり違うのかね。あと何かソレ知ってる気がするが」


「あー、高尾の観光看板で天狗の絵があったとき、それが左見てるのを追ってくと本山に行っちゃうから気をつけてね泊ちゃん、とか言われた」


「言われたのかよ」


「カンミそれ遠回しに誘ってたんじゃないかな」


「言われてみると山間集会の話とかチラッチラッってやってたかな」



 ヨモと王子が顔を見合わせたから、何かやったなこの子ら、とは思う。

 まあ詮索しないのも身内の礼儀だ。

 ともあれ話を戻す。目黒時代は権力者だったなあ、と内心で自嘲しつつ、



「それでまあ、朝集会だけど、私、朝が超弱いから、とりあえず前夜の内に文面作ってメールで回して、そんで最終的な採決したら、朝集会で副会長の桜子ちゃんに読んで貰う、ってのやってたのね?」


「あれはいろいろ鍛えられましたわ……」


「例えば?」


「うん、今話す回では、その回の文章、当日学校につくまで必要だってのをすっかり忘れててね?」


「カンミ何で今ソレ落ち着いて話してられんの……」


「慣れ慣れ!」


「連絡手段無かったのかね?」


「──あらゆるトラブルは慣れで解決出来ますわ」


「完全敗北じゃねえか」



 まあそういうこともある。



「それでまあ、朝休み中にPCルームに籠もって原稿を叩きまくっていたんだけど、ああ、ネタは学園祭のソウカツね? で、書いていて、ふとド忘れした単語があったの。

 集めたデータから将来を導くことを、格好良く一言で言うとなんだっけ的な」


「アナリティクスだね?」


「あら知ってますのね」


「リーダーや女王さんトコだと、もう常道でしょ。ビッグデータからの推論」


「確かに。各所施設で提供するサービスなど、時代や季節、客層などに合わせて変化させる必要がありますもの。そういう調査と思案をアナリティクスと言いますわね」


「そうそう。でも、あの時はかなりテンパってて、何て言うんだっけー、と思って、あ、そうだ! って私思ってね?」



 言った。



「全部、──アナルスティックって書いちゃったんだコレが」



 何故か、周囲の人達が唾を飲む音が聞こえた気がするけど、何でかな。




        ●

 いやあアレは酷かった、と泊は思った。


「何かおかしいなー、とは思ったのよね」


「検索。ネットで」


「フ、それが出来る環境なら、私達から先晩に連絡ついてる筈ですのよ?」


「だよねえ。あの頃はガサ入れされてなかった”ときプラ”でエリアス軍曹出そうと思ってバッテリー切れよくやってたからね。ちなみにPCルームは三代前が海外無修正画像探りまくってウイルス感染させたから教頭の物理キー使わないとネット接続無理ね」


「勝ち誇るところかねソコ」


「いやまあそんな状態だったし、でもとにかく急務だったから、まあいいか! って、本文見ると、もう至る所に文字数稼ぎでアナルスティックアナルスティックってアナルスティック超連呼! 私そんな好きかアナルスティック!」


「先生達は内容確認しなかったのかね?」


「いえ、毎度、私が保険で、自分が先晩書いたものを先生達に提出してましたの。いざとなったらそっちで誤魔化すつもりで」


「そうそう。でもホント朝集会中に飛び込む感じで、桜子ちゃんにそれ渡してね! そうしたら桜子ちゃんが、才女だから、ぶっつけ本番で壇上に上がって言うのよ」



 マイクを構える振りをして、桜子ムーブの一つである後ろ髪を大きく払って、



「──”我が校の未来にとって大事なアナルスティックについてこれから説明します!”って」


「カンミ、それ……」



 いやまあ、うん、言いたいことは解るよホーちゃん。



「──でまあ、特に印象的だったのが、あれだね。”我が校に学園祭などで訪れた男子生徒達をアナルスティックに掛けたところ、八十パーセントが満足したとのことでした!”ってのは、凄い拍手だったよね桜子ちゃん」


「ええ、私も読むことに集中していたので、皆の歓声と拍手を聞いて、こう思いましたの。

 ──会長、名文ですわ! って。もう笑顔になって全文読みましたわ。

 学園祭で他校男子の受けが良かった喫茶店企画について──」


「アナルスティック!」


「学園祭に来る交通機関の質問として、他校男子から回答を得た上で──」


「これもアナルスティック!」


「今後、どのような学園祭を見てみたいか、他校男子から回答を得た上で──」


「どいつもこいつもアナルスティックに掛けてやったよ……!」


「万能過ぎないかねアナルスティック」


「そしたら、質疑応答の時間で、何かコーフンした一年生女子が、マイクを持ってこう問いかけてきますの。

 ──他校男子に、何処でアナルスティックを仕掛けたんですか!? って。

 それで私、会長とアイコンタクトの上で、こう答えましたの」


「こうもんでアナルスティック……!」



 両手にヤキソバの箸もってガッツポーズとるところじゃないか。まあいいや。



「で、桜子ちゃんがシメる訳。

 ──我が校の進む道を教えてくれるアナルスティックについて、これからも私達は研究していかねばなりません。泊・寛美。──以上!

 って、最後私の名前言わなくてもいいじゃん的な? あと、実は最後のそれだけ、何となく気付いててアナリティクスにしてたんだけど、桜子ちゃん訂正して読んじゃって」



 でも、



「もう大盛況でスタンディングオベーション。退場時にトマリコールはアレが最初だよね。もう手ー振った手ー振った。皆して”そうです! 私もそう思います会長!”って」



 と見渡した先。男三人が「んん──」と両手で覆った顔を外に逸らしてるけど、何かフォローしないさいって君達は。

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