第7話 「見た目は子供、頭脳は大人、でもやることは幼稚」

 アリスと素材集めを始めて早数日。

 今のところ、明日葉や撫子にバレた様子はない。アリスの根回しが素晴らしかったのも理由だとは思うが、俺が直接アリスに確認するから待ってろ、と彼女達に伝えたことも理由だろう。

 そうした理由は、ゲーム内ではフレンドサーチなどをされたら1発で怪しまれるからだ。サーチをオフにしてても怪しまれるだけに素直にアリスと行動するということは伝えておいた方が良いだろう。

 最初は自分達も、と言っていたが男だけの方が話しやすいことを説明すると理解してくれた。普段からそれくらい物分かりが良いと俺も楽なのだが。

 まあそういうわけで、今のところ事は順調に運んでいると言っていいだろう。

 この世界のどこかに明日葉や撫子、もといルシアとアイゼンが居るかもしれないが、特に心配することはない。俺はアリスの手伝いをするだけだ。必要な素材も残りはわずかなのだから……。


「……はぁ」

「おい黒いの、わしの顔を見るなりため息を吐くのは失礼じゃろ」


 いやいや、吐きたくもなるでしょ。

 だって俺はエルダのこと、そこまで好きじゃないんだもん。人にちょっかいは出してくるし、二次元にも熱い想いを持っているみたいだから。アイゼン達を相手にするより疲れる時は疲れますよ。

 でも……今日はグリフォンの素材を集めに行くんだよな。

 グリフォンは空も飛べるだけに普通のモンスターと比べると、俺とアリスだけでは攻撃できる機会が少なくなってしまう。そのため優秀な魔法使いなどが必要になるのだ。

 エルダはその点でとても俺達が求める条件を満たしている。

 ここに居るということは、グリフォン狩りに手伝ってくれるということなので邪険にしてはいけない。そう頭では理解しているのだが、心まではすんなりと納得してくれない。

 でも仕方ないだろ。俺はこのロリさんとふたりっきりでワイバーン狩りをしたことがあるし、そのときに嫌というほど精神を削られたのだから。人にちょっかいを出さないとお前は死ぬのか、って思った気もするよ。

 故にこう言いたい。

 人間ってのは早々割り切れるものじゃない、と。まあだからって帰れとか言うつもりはないけどね。


「ならお詫びに頭でも撫でようか?」

「わたしはおぬしより年上じゃぞ。子供扱いするでない」


 見た目は完全に子供じゃないですか。背も胸のサイズも。

 む……何やらエルダの視線の鋭さが増したぞ。男の視線は意外と物事を語ると聞いた覚えがあるが、まさか俺の視線もそうなのだろうか。

 身長はともかく胸部はほぼ見てないんですがね。エルダさんの胸部には、つい目が行ってしまう要素がないから。

 残念美人さんクラスになると意識してなくても一度は見ちゃうけど。

 このことはあの子には内緒にしてね。知られたら多分罵倒されるから。前にエルダとの言い合いで大きさを気にしてるみたいなことを言ってたし、下手したら泣くかもしれない。

 罵倒はともかく泣かれるのは嫌ですね。友人の泣き顔とか見たくないものランキング上位に入るものだし。まあ人によるんだろうけど。


「大体……おぬしと美丈夫だけでは心許ない。そう思ったからわしに協力を求めてきたのじゃろ。もう少し敬意を払っても罰は当たらんぞ」

「それはそうですが……というか、美丈夫?」

「そこで爽やかな笑みを浮かべとる女男のことじゃ」


 いやそれは分かるよ。だって俺以外にはアリスしかいないわけだし。

 でもさ……確か美丈夫って美しく立派な男みたいな意味だよね。アリスが美しいのは認めるよ。ゲームの中じゃ髪伸びてるからパッと見たら女にしか見えないし。でも立派な部分ってあります?


「アリスのどこが美丈夫なんだ? 美しいという部分は認めるが」

「ふふ、ありがと」

「ここで礼は言わんでいい。話が進まんし、俺達の関係が誤解される可能性が高くなるだろ。だからもう少し黙ってて……答えろエルダ、アリスのどこが立派だと言うんだ?」

「その流れで聞いてくるんじゃな……まあ良いが」


 良いと言うのなら呆れたような目でこっちを見るんじゃない。


「そやつは黒竜使いと親しくなろうと服のプレゼントを考えておるのじゃろ? しかも黒竜使いが少しでも喜ぶようにファッションのリサーチなどまでして。そのようなことをする男が立派でないということがあろうか、いやない。故に美丈夫と称したのじゃ」


 そう言われると……まあ美丈夫に当てはまるかもしれないけど。だけど何で反語で言ったの?

 一般とズレてる人って反語が好きなのだろうか。回りくどい言い回しが好きなのだろうか。俺が面倒だと思う奴は大体使っている気がするが……反語はある意味変人の判断材料のひとつかもしれない。


「黒いの、おぬしも少しは見習わんと女子おなごからモテんぞ」

「別にモテなくてもいいです」


 現状でモテても俺の周りにはおかしな奴しかいないわけだし。付き合うなら普通の子が良いですよ。

 本が好きで物静かな子が最高かもしれない。最初こそ言い淀んで喋ってたけど、少しずつすんなり話すようになったら心を許してくれたんだなって思えるし。何で俺の周りにはそういう子がいないんだろうね。


「仲良くしてるところ申し訳ないんだけど、そろそろ出発していいかしら?」

「ああ、ここで話してても意味ないからな。ただこれだけは言っておく。別に仲良くしてるわけじゃない」

「照れるでない、照れるでない。本当はわしと話せて嬉しいんじゃろ?」

「相変わらず憎たらしい笑い方をする奴だな……」


 何でこいつと同じギルドなんだろう。戦力としては頼れる存在だけど、俺の精神を逆撫でしてくるから敵戦力でもあるんだな。推奨レベルに達してるクエストだと戦闘でもボケたりするし……


「そんなに見つめるでない。恥ずかしくなってくるではないか……ぽっ」

「本当に恥ずかしがってる奴は『ぽっ』なんて言わねぇんだよ」

「はいはい、イチャイチャしながらいいから付いて来てね」


 イチャイチャなんてしてねぇから!

 そんな心の叫びをアリスは知るはずもなく……いや知っていても気づかぬフリをしそうなほど、アリスは颯爽と街の出口へと歩いて行く。

 何故アリスにはみんなちょっかいを掛けないんだろう。俺よりも話しやすいのはあっちだと思うんだが。

 人知れず愚痴をこぼしながらアリスの後を追う。すぐ隣を歩くロリさんは子供のような無邪気な笑顔を浮かべております。これは中身も子供なら可愛げがあるのだが……


「む……何じゃ何じゃ、やっぱりわしと話したいのか?」

「そういうところが可愛げがないんだよな」

「何じゃと! ぶりっ子だとか妹キャラでも演じろというのか!」


 あなたに演じれるの?

 まあそもそも……何かを演じろとかそういうことを言いたいんじゃないんだ。俺はただ普通にしてくれと思ってるんだけなんだ。友人と他愛のない話をするかのように気楽に話したいだけなんだよ。


「そんなことは言ってないよ。それよりも早く行こうね。アリスだって怒る時は怒るんだから。エルダちゃんだって怒られるのは嫌でしょ?」

「子供扱いするな! こら、人が話しておるのに加速するな。少しはわしの歩幅も考えろ!」


 だったらアバターを大きく設定しときなさいよ。

 大体ね、俺と君が一緒に歩くから言い争いになるの。アリスからイチャイチャしてるとは言われちゃうのよ。会話を必要最低限にした方が足取りも話も円滑に進むと思います。

 なのでここは可能な限り無視します。

 見た目はあれだけど中身は大人だろうから泣いたりはしないだろうし、きっと付いて来るでしょう。依頼主は俺じゃなくてアリスだから勝手に帰るわけにもいかないだろうし。


「美丈夫、おぬしからもこやつに何か言ってやれ!」

「そうね……じゃあエルダさんを真ん中にして、みんなで手でも繋ぎましょうか。そうすれば仲良く先に進めるわ」

「それだとわしがおぬしらの子供みたいになるじゃろうがぁぁぁぁッ!」


 アリスの提案に絶対的な否定を示すエルダ。これに限っては彼女に同意だ。

 はたから見た場合は良いだろうが、アリスは正真正銘の男である。アリスの提案に乗るということは、俺とアリスで夫婦役をやるということだ。

 さすがにそれは嫌ですよ。だって僕はノーマルだからね。

 まだ文化祭の出し物で劇をやって、その中で演じるのならまだ承認するけど……だからってキスシーンとかはダメですよ。そういうことは異性としかしないと決めてるから。

 ノリが悪いとか言われようと、俺は常識人なのです。なので今日も苦労するとは思いますが、どうにか頑張って乗り切りたいと思います。

 あぁ……早く目的地に着かないかな。敵と戦ってるときが1番気楽な時間な気がするし。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る