第30話 「真の友人達」

「ぷはぁ~……いや~クエスト終わりの1杯は格別やな!」


 うむ、実に若さの欠片もない発言だ。

 リアルでは高校生のはずなのだが、どうしてこうも仕事帰りのOL感が漂うのだろう。仕事だけに生きそうだな、と内心思ってしまっているのだろうか。

 まあこの話は置いておこう。

 口に出しても突っかかってくるだけだ。年齢にも関係する話なだけに殴りかかってくる恐れもある。クエスト終わりで疲れもあるのだから無用な騒動は避けるべきだろう。

 それ以上に楽しそうな雰囲気に水を差すのも無粋だ。

 今俺達が居るのはノーズライナにある飲食店。ここまでの雰囲気だ察している人も居るだろうが、軽い撃ち上げを行っているところだ。


 ゲーム内で何か食べたところで現実の胃袋が膨れるわけではないが、あちらで急に集まるのも無理な話だろう。住んでいる場所も違えば、店の予約などの手間も必要になるかもしれないのだから。

 あとこれだけは言っておく。

 ムラマサの発言から酒でも飲んでるのかと思うかもしれないが、俺達の手元にあるのはジュースだ。

 正確にはジュースの味を再現したデータの塊であるが、まあこれこそツッコむは無粋だろう。


 俺達の中で成人しているのはエルダだけだ。見た目だけなら誰よりも幼いが現実ではどうか分からない。これまでの発言を振り返ると、現実でも似たような姿だと予想は出来るが。


「む? 何じゃ黒いの、わしばかり見よって……もしやおぬし」

「違う」

「まだ何も言っておらぬではないか」


 ニヤニヤした顔をしてれば何を言おうとしているのか予想くらい出来るだろ。

 というか、最後まで言えなかっただけで唇を尖らせるな。容姿的には問題ないが年齢的には問題あるだろ。

 人に大人だと言うのなら大人らしく振る舞ってくれ。尊敬できる大人になってくれ。そしたら俺も優しくなれるから。


「ナグモ、たまにはちゃんと相手してあげたら?」

「なあアリスよ、いつもの俺はお前からどう見えてるんだ?」


 個人的になんだかんだ相手してると思うんですけどね。面倒臭くなったり、先に進まなくなったら打ち切るけど。


「どうって……そうね、一言で言えば保護者系主人公かしら?」

「質問したのはこっちだから」


 それと保護者はともかく主人公まで必要?

 俺を起点に考えれば俺は俺の人生を歩んでるわけだし主人公だけど、アリスが起点になればアリスが主人公になるんですよ。

 つまり誰もが主人公なのです。出来れば主人公って言葉は使わないでくれるかな。


「不服そうな顔してるわね。なら変人集団のまとめ役ってのはどう?」

「見事なまでに俺が嫌だと思う言葉を選んでくるね」

「でも事実よ? このグループの中心というか重心はあなただもの」


 ノリと勢いで突っ走る奴らが多いから必然的に俺が制止を掛ける係になってるだけなのでは? それで俺が真ん中に居るように見えるだけなのでは?


「ねぇアイゼン?」

「そうですな。こちらでもあちらでも場を落ち着かせたい場合にはナグモ殿に振ればよいですし……辛辣な言葉が返ってきてこちらの元気もなくなりますから。最近私に対して一段と冷たくなってません?」

「フェードアウトするように撫子口調になるのやめてくれる?」

「こっちが私の素ですよ!」


 何で逆ギレされないといけないんだろう。

 渋い小父様にしたのってお前じゃん。お前の意思じゃん。それが原因になってるのに他人のせいにするのはどうかと思う。

 そうこう思っている内にアイゼンはプイっと顔を背け、ジュースを飲み始めてしまう。

 お前は子供か、と心の中でツッコんだのは言うまでもない。

 大体さ、そういう積み重ねが俺の態度を悪くさせるんだよ。


「黒いの、あまりそのような態度ばかりしておるとモテんぞ。おぬしも高校生なら彼女くらい欲しかろう?」

「別に」


 居たら居たで楽しいだろうとは思うけど、ひとりで過ごすのが寂しいとか思うタイプじゃないし。

 むしろ……ひとりで過ごす時間が欲しいタイプだからなぁ。

 束縛してくる人は絶対に無理。唐突に遊びに行こうとか言ってきて、無理だと言ったらありえないんだけど! ってなる人も無理だね。

 自分のことしか考えられない人とは付き合っても長く続かないだろうし。


「おぬし……もしやその年で」

「うん?」

「いや、何でもない。何でもないからその冷たい笑みをこちらに向けるな。心臓に悪い」


 失礼な奴だな。俺よりも年上だって言ってもまだ20代でしょうに。

 そもそも、一般的な高校生がこの年で枯れてるわけないでしょ。人並みにはそういう欲求もありますよ。アリスとふたりだけの時とかエッチぃ話もしてるんだから。

 ちなみに……オネェな言動が目立つアリスさん、ああ見えて意外と肉食系だよ。さすがにこの場では言わないけどね。

 女子と堂々とそういう話をする席でもないし、平然と女体について語る女子とか見たくないだろ?

 ここに居る異性は、二次元とかならその手の話も平然と語りそうなメンツばかりだし。それにまたロリな大人が高校生にケンカ吹っ掛けるかもしれないしね。


「時にルシアさん」

「は、はい!? ……な、何かなナグモくん」

「何をそんなに緊張してんの?」


 この場に居るメンツは全員知っているでしょ。多少なりとも話したことあるでしょ。さっきまで一緒にクエストに行ってたんだしさ。

 まあ……俺がトリプルなブレイカーしたのを見てテンションが上がったのか、ゴーレムを倒した超絶な勢いで話しかけてきたところ。つまり素の自分を見られちゃったから恥ずかしいのかもしれんけど。

 本当に零次くん零次くんって凄くうるさかったよ。ゲームの中なんだから零次くん言うのダメって前に言ったのにね。

 まあそれ以上に……生温かい視線が来るから煩わしいし恥ずかしかったの。

 恥ずかしい思いをしたのはあなただけじゃないのよ。俺も同じくらい恥ずかしい思いしてるの。


「えっと、その……こういう風にみんなで打ち上げみたいなことあまりしたことなくて。凄く嬉しいんだけど……恥ずかしくもあると言いますか」


 ルシアさんの顔、ちょー真っ赤なんですけど!

 なんてからかうことは出来ませんよ。下手に突くと泣くかもしれないし、さらりと寂しい過去を語っちゃってるんですよ。周囲は完全にルシアさんの味方です。

 その証拠にキョウカ押しのアイゼンさんが抱きしめたいのかプルプルしてます。

 うん、やめとけ。確かに可愛いとは思うけど、その見た目でやるのは不味いから。やるにしても現実の方でやりなさい。そしたら見てる方も安心だし目の保養になるから。


「ナグ兄ナグ兄、今だよ今! そこで頭撫でたりしつつカッコいいセリフを言うんだよ!」

「小声で何言ってんの? というか、小声で言ってもみんなに聞こえてるよ? ルシアさん、余計に顔が赤くなったじゃない。人をいじめるような発言、お兄ちゃんは許しませんよ」


 それ以上に……何で背中に抱き着く必要があるの?

 普通にヒソヒソ話するだけで良くないですか。あなたがそういう行動されるとアイゼンさんの様子がおかしくなるんですけど。羨ましさと妬みが混じった目をこっちに向けてくるんですけど。

 もしかして……それ分かっててやってる?

 もしそうならお前って割と悪女だな。部活に打ち込んでる素直なイメージが瓦解するよ。


「そんなことより」

「ナグ兄、あたしに対してはともかくルシアさんには一言掛けてもいいんじゃないかな?」

「致しません」


 迂闊に話しかけると余計に悪化するだけですから。

 何がと言われたらルシアさんの様子……もだけど、何よりこの場の空気が悪くなる。俺にとっては、って言葉は付くだけど。

 誰だってさ、付き合ってもない状態で周りからヒューヒューなんてされたら堪らんじゃないですか。

 する方は楽しいだろうけど、もう少しされる側の気持ちも考えて欲しいね。大体甘酸っぱい話がしたいなら今日は別に女子会でも開いてください。


「さて……俺達は目的だったギルドストーンを入手し、ギルドを作れる状態になっている。だがひとつ問題がある」

「問題ですかな?」

「ああ……誰がギルドマスターになるの?」


 ギルドを作るためにはギルドストーンが必要だが、ギルドストーンを使ったプレイヤーはギルドを作ると同時にマスターになる。マスターは同ギルド内のメンバーになら移譲できるので、あとから変更も可能だ。

 だがしかし、俺のような人間はマスターなんて立場にはなりたくないのである。

 だって人を引っ張るタイプじゃないもん。むしろ振り回される方だもん。

 それに……あいつがギルド○○のマスター!? みたいな展開を想像すると恥ずかしいじゃん。

 ギルドメンバーって俺の近くに居る癖のあるメンツばかりだし。責任者よりもその一員って扱い方がマシですよ。


「先に言っとくけど、あたしはパスね。部活の方も忙しいし、友達と別のギルド作るかもしれないから。場合によってはナグ兄達のところに入れさせてもらうかもしれないけど」

「それなら仕方ありませんな。いつでも大歓迎ですので気軽にいらしてくだされ……デュフフフ」


 アイゼン、気持ち悪い。

 その悪い方は気持ち悪すぎるから今すぐやめなさい。じゃないと友達無くすよ? 友達にだって友達を選ぶ権利はあるんだから。


「ワタシも出来ればパスしたいわね。ギルドストーンが取れたらしばらく別行動しようと思ってたし」

「唐突の別れ宣言!?」

「アイゼンさんはちょーと黙っとこうな。話が進まんから」


 あのムラマサが制止を掛けただと!? これは明日雨かな……。


「別に大した話じゃないんだけど、このゲームって服をデザインしたり出来るじゃない? 将来的にそういう道に進むのもありかな~って思ってるから試しにやってみることにしたの」

「なるほど……ちなみに私も無理ですぞ。夏コミに向けて同人を描いたりしなければなりませんので!」


 渋い小父様が何を言ってるんだろうね。中身が中身だから仕方ないけど……本当にこの子、欲望に忠実だよね。ある意味尊敬する生き方してるよ。


「というわけで、ここはβテスト経験者のおふたりに」

「わしはやらんぞ」

「え……ここまで共に冒険したのに入ってくださらないのですか?」

「いや、別に入らんとは言っておらんじゃろ。今後のことを考えればギルドに入っておって損はないからな。それに……まあおぬしらと一緒に居るのはそこそこ楽しいからの」


 エルダさん、顔赤くなってる~。照れてるんだ~可愛い!

 なんて言ったら熱線が飛んできそうだからやめておこう。ここで撃たれなくても、今度一緒にプレイした時に背後から焼かれるかもしれんし。


「ムラマサ殿、これは……」

「うん、間違いない。顔を赤くなっとるし、間違いなく照れとる」

「な……か、勘違いするでないぞ! 他にも理由はあるのじゃからな。おぬしらと来たら色んなネタを使うくせに再現度が低すぎる。わしがそれが許せんから訂正するために一緒に居るだけじゃ!」


 エルダさんエルダさん、それは弁解になってない。むしろ墓穴を掘ってるだけ。

 にしても……小柄な大人が高校生ふたりにおちょくられているのはある意味新鮮だな。現実の姿で考えると妹が可愛くてちょっかいを出している姉達のようにしか思えんが。

 というか、今更だけどムラマサって本当にリアルでも女なの?

 アイゼンの中の人の話だと女らしいけど、やっぱり自分の目で確認しないことには信じられないよね。普段から信用に足る言動をしているなら別だけど、ムラマサもアイゼンの如くノリと勢いのところあるし。


「ムラマサがやればよいではないか! おぬし、高校で生徒会に入っておるのじゃろ? その手の立場になるのも抵抗ないのではないか」

「さらりと人の情報を出さんとしてほしいんやけど……まあ確かに抵抗はないで」

「なら」

「でも……学校行事の準備やらアイゼンさんの手伝いもあるしな。特にアイゼンさんの手伝いは大変や。毎回途中で設定や流れを変えてきよるし」

「そそそそれは仕方ないじゃないですか! わ、私としては少しでも良いものを世の中の人に届けようとですね……!」


 え、お前らの繋がりってそこなの?

 なるほどね……何で別の学校の奴と知り合いなんだって思ってたけど、そこでの繋がりですか。

 いや~アイゼンのあの手の趣味の手伝いとかムラマサも人が良いね。俺なら頼まれても断ると思うよ。だって……


「お前の価値観はあまり信用にならんと思うが? 毎回完成品もらってるというか買ってやってるけど、話の流れとか微妙だし。絵は描く度に上手くなってるけど」

「それ今言います!? 微妙なら微妙って読んだ次の日にでも言ってくれてもいいじゃないですか。こっちから感想聞いても答えてくれないのに! 絵のことはありがとうございます!」


 まくし立てるな、まくし立てるな。

 あとまた撫子になってるから。このペースで撫子になられると、撫子って言葉が俺の中でお前をディスる言葉として定着しかねないぞ。


「え……アイゼンさん、あれをナグ坊に渡しとるん?」

「何でそんな引いた目をされるんですかね!」

「だって……」


 撫子の同人、なかなかに際どい絵を描いてるもんね。それを同じ趣味を持っているわけでもない男子に渡してるなんて知ったらそりゃ引きもしますよ。

 俺だって最初は「何で俺に渡すの?」とか「これをオカズしろって暗に言ってる?」とか考えたし。まあ最終的に考えるのはやめたけどな。

 だって深みに嵌るだけだし……それに同人を渡しに来た時の撫子って実に良い笑顔をしてるんだよね。凄く良いものが出来たんです! ってさ。その顔見てたら何も言えなくなるじゃないですか。


「まあええわ。話が逸れたけど、うちもマスターは無理や。名前を貸す分には構わんけど、ギルドの名前とかは他が考えてや。というか……ナグ坊がすればええんやない? うちらの中心に居るんやし」

「嫌ですよ。マスターなんかになったら今以上にあなた方の面倒を見ないといけないんでしょ?」


 今でも十分に苦労してるんだから勘弁してください……


「大体ね、俺みたいな奴は補佐的な立場に居る人だと思うの。だから……ルシアさんに任せます」

「えっ……な、何でそこで私に振るの!? 私がそういう立場になったこともないの知ってるくせに。零次くんの意地悪!」


 だから零次くんって言わないの。

 というか、ギルドを作るって目的の発端はあなたにあるんでしょ。ギルドマスターになっていたら普通にギルドに入ってるより勧誘は受けにくいだろうし、試しになればいいじゃない。


「意地悪で結構。俺はお前も少しずつでもまともな人間にするって決めてるんです。ゲームの中でくらい責任のある立場になってみなさい」

「君は私の何なんだ!」

「保護者代理ですが?」


 最近はルシアの家には行ってないけど、中学時代は何度ルシアのご両親に娘のことを頼んだよと言われたことか。

 まああの頃のルシアさんは俺以外とはまともに話してなかったからね。中二病節が強すぎてご両親は理解できてなかったし。


「うぅ……」

「泣きそうになってもダメです」

「いじわる……」

「文句を言ってもダメです」


 お兄さん、あなたが引き受けるまで引き下がるつもりありませんからね。

 あと……周囲でこそこそ話してるお前ら。今はルシア優先だから放っておいてやるけど、何かしら爆弾発言したら容赦なく噛みつくからな。


「いいかルシア、別にマスターとしてみんなをまとめろとは言わん。というか無理だ。お前だけでも大変なのに、ここには癖のある奴ばかりだ。いや、癖のある奴しかいない」

「ねぇ、私は励まされてる? 貶されてる? あと何で2度言ったの?」


 大切なことだからだよ。それ以外に理由はない。


「でもな」

「答えてくれないんだ」

「黙りなさい。話が進まないから。……いいか、少なくともここに居る奴はお前を仲間外れにはしない。お前がよほど鬱陶しい真似をしない限りは普通に話を聞いてくれる」


 さらりと余計なことを入れてる……。

 みたいな視線を感じるけど気にしません。だって人に絶対なんてないんだし、前もって注意しておくことは必要なことでしょう。


「だからもっと気軽に交流しろ。俺だけじゃお前の悩み全てを聞けるわけでもなければ、解決してやることは出来ん。でもこいつらが居れば全部じゃなくても解決できることも出てくるはずだ。困った時は背負い込まずに頼れ。みんな、お前のことを助けてやるから……多分」


 最後のは要らん!

 そういう心の叫びが響いてきた気がするけど、やはり気にしません。

 だってさ、いつでもどこでも助けに行けるとは限らないじゃないですか。ずっと自宅にいるわけじゃないんだし、電話とかに出れない時もあるんだから。


「そういうわけでマスターになりなさい。そんで好きな名前付けなさい」

「……本当に私の好きな名前付けていいの?」

「いい。俺が許可する」


 どうせ他の奴に任せても大差がない気がするし。

 それに現実ならアウトだけど、ゲームの中でなら中二病チックな名前でも案外合うからね。漆黒の○○とか、流星××とかね。


「じゃあ…………ンズ」

「ん? 聞こえん、せめて聞こえるように言ってくれ」

「一度で聞き取ってよね、そういうところが意地悪って言ってるんだから!」


 え……俺が悪いの?

 周りの様子を見た限り、俺以外も聞き取れた感じじゃないんだけど。聞き取れた奴が多いのなら俺が悪いって言われても仕方ないと思うけどさ。ルシアさんは素が出てくると少し横暴だと思う。


「トゥルーフレンズって言ったの!」


 トゥルーフレンズ?

 英語に直すと《True Friends》になるかな。

 まあゲーム内では《True×Friends》みたいにした方が見栄えは良いかもしれんが。まあそれは置いておくとして……。

 トゥルーは『真の』とかそういう意味で、フレンズはフレンドの複数形だから『友人達』って意味になるよね。

 英語に自信はないけど、多分訳として間違ってないだろう。言われてる単語は同音の別の言葉だったらアウトだけど。


「真の友人達ですか?」

「恥ずかしいからあまり言わないでよ……うん、ここに居る人達とは仲良くなれる気がするから。こんな私でもみんなの本当の友達になれるかなって」


 ぐすっ……ルシアの、いや明日葉のお父さんお母さん。

 あなた方の娘は今日新たな1歩を踏み出してくれたよ! 今後も少しずつ成長して……成長して……

 成長するかな?

 友人になれる奴らと知り合いはしたけど、人間として成長出来るかと聞かれると……むしろ更なる深淵へと連れて行かれるのではなかろうか。

 そうなれば今以上にダメな人間に……ううん、気にしない。

 まずは人との触れ合いに慣れることが大切。そういうことにしておこう。


「ルシアさん……このアイゼン、いつでもどこでもあなたの味方ですぞ」

「アイゼン、少し泣き過ぎよ。これで顔を拭いて」

「何やエルダはん、泣いとるんか?」

「別に泣いてなぞおらん。泣いておるのはそっちじゃろうて……しかし、若いって素晴らしいの」

「うんうん、この調子で行けばあたしにもお姉さん的存在が……」


 そこまで感想する話ですか?

 いやまあ、確かに気持ちは分かるよ。俺にも似たような感情は芽生えてるし。でも君達、俺よりもこの子と接した時間は短いよね?

 時間は関係ない? 大切なのは心だ!

 なんて言われたら……はいそうですかとしか言えないし、言えないけども。でもこれだけは言わせて。

 最後の奴だけ言ってることおかしくなかった?


「お前、本当にあれが友達でいいの?」

「あれがいいんだよ……あの人達は本心を出してくれるから。上辺だけじゃない……本当の……真の友達になれると思うから」

「そうか。まあそうなるように手伝いはしてやるさ」

「ありがと……でも」


 何やら俺の方を見ているようだが……もしかして


「このタイミングで告白?」

「――っ、そんなことするわけないだろ! するなら二人っきりのときにするよ!」


 乙女心が分かってないんだから。そんなんだから君って奴は……!

 なんて言いたげな鋭い目をしてますな。まあ今回ばかりは俺が悪いけどね。でも流れ的にそうかなって思うじゃないですか。

 それに僕はね、ここで鈍感ぶって確認しないのもどうかと思うのですよ。


「あぁそうですか、それはごめんね。で、何が言いたかったの?」

「よくこの流れで平然と聞けるね……まあ君らしいけどさ。その……保護者みたいな感じじゃなくて、もう少し友達として接してって思っただけ」


 うん、なかなかに頑固そうな意思を感じる。

 これは今まで良くね? なんて返してもダメと言われるだけだな。仕方がない……


「それはお前の頑張り次第だな」

「そうやってまた子ども扱いする……そういうのを直してって言ってるのに」

「気長に待て……善処はするさ」


 拗ねた子供をあやすようにルシアの頭を軽く何度か叩く。

 抗議の眼差しは向けられたままだが、まあ何も言ってこないだけ少しは機嫌が直ったのかもしれない。

 問題なのは……ニヤニヤしてるあの連中だよな。

 本当にあいつらで良いのかね。交流が深くなっても振り回されるだけな気もするが。

 とはいえ、ルシアとこいつらの関係は、今はまだ始まったばかりだ。今後どうなっていくのかなんて誰にも分からない。

 ならせめて、祈ることにしよう。

 ルシアとこいつらが、ギルド名のように《True Friends》になれることを。



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