第27話 「いざボス戦へ」
荒野の最奥は、多くのクエストでボスの登場するエリアに設定されていることが多く、巨大な円形で1種のコロシアムのようになっている。
その中に障害物があったりなかったりするわけだが、今回訪れている場所には適度な段差があるくらいだ。
まあただの平地と比べればアクシデントの可能性も高いのだが。
俺達が今居る場所は、最奥へと向かう細道。
ここは安全圏と一般的に呼ばれており、モンスターが湧かないエリア。故にボスに挑む前の最終準備を行ったり、休憩場所として利用される。
今回のパーティーメンバーを知っている方は分かるだろうが、ずっとだんまりなんてまずありえない。
定期的に騒ぐこともあって、ここまで何度も戦闘を繰り返した。
ただその回数は予想以上で、騒ぐ以前の前に運が悪いのでは? と真剣に思うほどだったのを追記しておこう。
「まあ……」
結果的に言えば、キョウカがクエストの推奨レベルに近づいたので悪くはない。俺を含めた残りのメンバーのスキル上げにも良い出来事だったと言えるだろう。
問題があるとすれば、装備の耐久値だ。
俺達自身の体力や精神力は休憩すれば回復する。
だが装備、特に武器に関しては戦闘すれば確実に多少なりとも耐久値が減少してしまう。ボス戦の途中で武器が壊れては戦力の低下は免れない。
鍛冶師のムラマサがパーティー内には居るが、街とダンジョンでは使えるアイテムも異なる。メンテナンスなどに使うアイテムは使用できない。
安全圏でくらい使えるようにしてほしいとも思うが、予備の準備や定期的なメンテナンスを行わせるための仕様とも言える。その方が鍛冶師などの商売が捗るのは確かなのだから。
またダンジョンでメンテナンスが出来るなら緊張感も減り、攻略難度にも影響してくる。現在の仕様が変わるにしても更なる難度の高いエリアが解放されてからだろう。
「……なんて考えてばかりいないで」
もう一度チェックしとくか。
HPやAPの回復ポーションは十分にある。戦闘が多かっただけで苦戦したわけではない。魔法主体のメンツは俺よりもAP用のポーションが不足しているかもしれないが、そのへんはあとで確認を取って足りないなら渡しておこう。
武器の方は……ブロードソードは使ってないから問題なし。
始剣【黒耀】は……現状で半分くらいか。あれだけ戦ってまだこれだけ残ってるとは、さすがは魔剣に分類される剣だな。
まあ単純に実用性特化だからというのもあるだろうが。
基本的に装飾が多くなる程、武器の攻撃力と耐久値は下がる傾向にある。
実戦用と観賞用みたいなイメージを持ってもらえると分かりやすいだろう。俺はあまり装飾の多いものを好まないので、正直今の愛剣は今後とも使い続けるはずだ。
「さて……」
ボスであるゴーレムとの戦いは、これまでのものよりハードかつ長丁場になるだろう。だが少なくとも愛剣が壊れてしまうことはあるまい。
敵の攻撃を剣で防いでばかりいるとその限りではないが。
武器で防御してしまうと耐久値が減りやすいのだ。ただ《武器防御》スキルがあると、ダメージの軽減や武器の耐久値の減少を抑えることが出来る。
俺も今後盾を使う予定はないので、このスキルは習得している。
「まだ休憩したい奴って居るか?」
居るならまだ休むけど……うちの従妹、暇すぎて素振り始めちゃってるんだよね。
その勤勉さがキョウカを不動の4番バッターたらしてめているのだろう。朝練に行く前にも家の前で素振りしてたりもするしな。
まあ大鎌で素振りするのは正直どうかと思うけど。
そんな少女を可愛いと思う奴は少ないだろうし。むしろ仕事熱心な死神にしか思えないよね。
「……見た感じ居なさそうだな。AP用のポーションが足りない奴は言ってくれ。俺のを渡すから」
「私も余っておりますから足りない方は言ってくだされ」
「はい! あまり残ってないから欲しいです!」
キョウカさん、そこで真っ先に手を上げちゃいますかそうですか。
まあ最もモンスターを倒したというか、倒させたから不足するのは分かるけどね。《大鎌》スキルは状態異常を付与するアーツや範囲の広いアーツが多いせいか、他のスキルよりも必要とするAPが多めだし。
だから気にせずにもらうがいい。アイゼンからな……別に俺のをあげたくないわけじゃないよ。アイゼンがキョウカに上げたそうだからそうするだけで。
「我が盟友よ、ここから先の戦いは苛烈を極める。ならば、我は契約獣の足枷を解き放ち全力で戦わせるだろう。故に我が力が枯渇する恐れがある。出来れば回復アイテムをもらいたいのだが」
「ここまで長い言い回しは久しぶりな気がするな。まあそれはいいとして、いくつの必要なんだ?」
「そこは我が盟友の配慮に任せよう」
要約すると……ナグモくんにも必要だからナグモくんが決めていいよ。1個でももらえたらそれだけでありがたいから、ってことね。
元のセリフよりも長いじゃん!?
なんて思うかもしれないけど、付き合いが長くなると察しはつくようになるじゃない。ただそれだけのことですよ。
察しが悪い方が良いときもあるけどね、と内心で独り言を漏らしながらルシアにいくつかポーションを渡す。気取った感謝の言葉の後に小声でありがとうって聞こえました。
少しずつ中二病から卒業しつつあるのかな。
それならお兄さん嬉しいです……別に少し寂しいなとか保護者の気持ちにはなってないからね。
「なあなあナグ坊、最後に役割の確認しといた方がええんやない?」
「じゃあやって」
「うちがするん?」
「だって俺、別にリーダーじゃないし」
性格的にはサブ向きだからね。ひとり突っ走るリーダーの首根っこを掴んだり、補足して説明する役割が合いそうだもの。
生徒会なら副会長さんだね。
会長がポンコツだと下からはリーダー扱いされるけど。個人的に会長は挨拶さえちゃんとしてくれたら良いと思うけどね。人前に立つのって大変なことだろうし。
「まあええけど……えっと、うちとアイゼンさんがボスに接近して注意を引きつつ攻撃。エルダはんはメイン火力、アリスさんは魔法でルシアちゃんは召喚獣で回復支援、そんでナグ坊とキョウカちゃんが取り巻きの相手やったな。……これで合っとるよな?」
合っとる合っとる。
ちなみに何でこういう役割分担になっているかというと、ゴーレムさんって硬いじゃないですか。物理攻撃にも属性がありまして、斬撃よりも打撃の方が有効なんですよ。
だから棍棒使うアイゼンは前衛です。
スキルで注意を自分に向けさせたりもできるからね。ムラマサは使う得物が両手斧なのでこれまた前衛です。
斧ってまさに『叩き斬る』って感じの武器だから斬撃でもあり打撃でもあるんすよ。運営でもなければ検証もしないから属性の比率は知らんけどね。
それにふたりと比べて俺やキョウカは機動力があります。出てくる取り巻きはウェアウルフらしいので俺達が相手した方が対応しやすいのですよ。
他のメンバーの役割に関しては特に説明も要らないはず。
しいて補足するなら、ゴーレムの胸部には核となっているコアがあります。そこが弱点です。でもゴーレムの大きいので近接武器だと狙うのは難しい。故に魔法攻撃がメインのエルダがそこを狙いやすいので火力担当なわけですよ。
「さて、確認も済んだみたいだし先に進む?」
「そうじゃな。あまりのんびりしておると、あの死神からケツバットされるかもしれぬ」
「死神ってあたしのことかな? 今日会ったばかりだからあれこれ言いたくはないですけど、あたしは理由もなく人にそんなことしません! 大体これバットじゃなくて鎌だし!」
それって理由があればするってことだよね?
お前の鋭い振りでケツバットされたら堪らんぞ。痛みに興奮を覚える奴は別の意味で堪らんだろうけど。まあさすがにMでもあの鎌でされたら興奮はできないと思うけどね。
「これからボス戦だよな? 何ていうか緊張感がない……」
「まあ緊張して硬くなってるよりはいいんじゃない?」
「アリスって何事もポジティブだよな」
「ナグモほどあの子達にストレスは感じないからね。結構みんな女の子らしいし」
中二病卒業できてない子とか老騎士になってる残念な子とか……そんな奴ばかりなのに?
女の子らしさがないとは言わんけどもお前ほど俺は感じてないよ。
ノーマルとオネェとの差かもしれないけど。女子の考えに共感できるかできないかの差かもしれないけどさ。
というか、あいつらって女子の考えしてる?
「話を続けるとグダグダして先に進まなさそうなんで……先に行くことにするか」
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