第26話 「口は災いの元」
ノーズライナから北東の方へと進んでいくと荒野がある。
その再奥地で待ち受ける巨大なゴーレムを討伐し、《ギルドストーン》というアイテムを手に入れるのが今回の目的だ。このアイテムがなければギルドを作ることができない。
ただ荒野に出現するモンスターは最低でもレベル20以上。また荒野エリアは最奥までの距離が長めで、待ち受けるゴーレムはボスだけあってステータスも高い。取り巻きも出てくるらしいので実に高難易度なクエストである。
しかし……俺達は実に和んだムードで進んでいた。
大半のメンバーが推奨レベルに達しているし、クリアのために準備をきちんとしたのも理由だが、何より集まったメンバーが濃すぎる。騒がしくなるのは当然だと言える。
またキョウカのレベル上げのために、道中の敵はサーチ&デストロイしているのが理由だろう。
「せぇの!」
気合の声と共に振られた大鎌によって亜人の首が切断される。
レベル的には俺達よりも一回りほど低いキョウカだが、俺達の余っていた装備や素材を譲渡することで、ステータスとしては実際のレベル+5の強さには到達している。
そのため道中に湧くモンスターならば十分に戦えるのだ。
だが……従妹が巨大な鎌を使って首を刈っている姿はなかなか新鮮だ。
正しくはシュールと言った方が正しいかもしれないが。銀色セミロングにフード付きマント、それに大鎌……うちの従妹はどこの死神だろうね。
二次元が好きなのは知っていたけど、ルシアさんやアイゼンさんに負けない部分もありそうだよ。
まあアイゼンに対してキモいと思うあたりまだ正常なんだろうけど。
あれに同調し始めたら俺がどうにかしなければ……じゃないと叔父さんや叔母さんに申し訳ないし。
「いやはや、キョウカ殿は実に腰の入った攻撃をしますな」
「伊達に部活で素振りしてませんから!」
こらこら、だからって大鎌で素振りしない。
バットと大鎌じゃ振り方も違うだろうけど、どちらにせよそんな鋭い振りでぶつけられたら痛いから。ゲーム内では痛覚はほぼないけど、衝撃とかはあるんだからね。精神的に来るものはあるんだよ。
「若さとは良いものじゃな」
「なあエルダはん、うちもまだ花の女子高生なんやけど。大体この中で成人してるのエルダはんだけやで」
自分で花のって言うのもどうかとは思うけどね。まあ地味にエルダの顔は歪んでくるからもっとやっても一向に構わんが。
だって竜狩りの時に散々おちょくられたからね。装備強化を手伝ってくれたのは感謝しているけど、それはそれ、これはこれだから。
エルダとはあまりにも濃い時間を過ごしたせいで、出会って日は浅いけどすっかり口が悪くなっちゃいましたよ。
でもエルダって呼べって言ってきたのはあっちだから。俺から呼び始めたわけじゃないから、そのへん勘違いしないでよね!
「ねぇナグモ、エルダちゃんにずいぶんと熱い視線を送ってるけど……もしかして惚れちゃったのかしら?」
このオネェさんは何を言ってるのかな?
俺はあのロリ姉さんに熱い視線なんて送った覚えはありませんよ。むしろ冷ややかな視線を送っていたと思いますけどね。もし本気で言ってるならしばらく目を休めた方が良いと思うよ。
「ナグモくん、君はその……ああいう古き魔女と運命を共にしたいと思うのか?」
この子も急に何を言い出すのかね。
いやまあ……そういうことに興味を持ちだしたのは良いことかもしれないけど。いつまでも二次元にしか興味がありませんってのも問題だろうし。
でも別に世の中のそういう人を否定するわけじゃないよ。この子はまだ高校生。だから親御さんが心配するじゃないですか。
「それはあのロリさんがタイプなのかって解釈でオーケー?」
「おい黒いの、誰がロリじゃ。年上なんじゃからせめて姉さんと言え」
こっちの本音としてはロリの後にババァと付けたかったんだが。大体……
「この中で最年少のキョウカよりも小さいじゃん」
「それは背か、背のことじゃろうな! 大体わしから言わせればおぬしらがデカくなりすぎなんじゃ。特にそこの老騎士!」
「そこで私なのですか? 現実とは大分違う姿をしておるのですが」
「知っておるわ」
知ってるんだ……あぁムラマサに聞いたのか。あの鍛冶師、意外と人の情報を口にする奴だな。
商売する奴がそれでいいのか、と言いたくなる。お客の情報を漏らすなんて信用に関わる行為なのに。
「何でもおぬし、リアルではずいぶんと美人で胸も大きいらしいではないか。巨乳のデカパイらしいではないか」
「美人と言われて悪い気はしませんが、それ以上に巨乳もデカパイも意味合いは一緒です! というか、そういうこと言わないでくれます? 個人的に結構気にしてるんですから!」
「それはわしに気にするほどの胸がないと言うておるのか!」
「別にそうは言ってないでしょ! あなたとは別の意味で気にすることがあるってだけです」
「そうね……最近また大きくなってるみたいだし。成長期なのも大変よね」
え、そうなの?
それ以上に……何でアリスが知ってるの?
お前男だよね。確かに異性について話すことはあるけど、変態行為に走る奴じゃなかったよね。もしかしておふたりさん、そういう関係なんですか?
「何でアリスさんが知ってるんですか!? あとそこ! 変な勘違いしてそうだから言っておきますけど、私とアリスさんの間には何もないですからね!」
「あぁそう。でも別に何かあっても俺は困らないよ」
「自分よりも女子力も乙女力も高い男子と付き合えるかぁぁぁッ!」
渋い低音ボイスで何てことを叫んでいるんだろうね。魂からの叫びなんだろうけど……見た目的にね。
でも周囲の様子を見た限り、女性陣の心には意外と突き刺さっているように見える。ふとしたことで「私って女だよね? なのに……ハハハ」みたいになるのは嫌ってことなのだろうか。
だとすればゲームではなくリアルで自分を高めるしかない。それが出来ないからゲームをやっているのかもしれないが。それよりも……
「ルシアさん、いくらゲームの中とはいえ自分の胸を触るのはやめなさい」
「――っ!?」
付き合いが長くても俺は男なの。アリスもあんな成りしてるけど男なの。
女性らしさを意識するのは悪いことじゃないけど、そういうのは女子だけでお泊り会でもした時だけにして。大体指摘されて恥ずかしがるならそんなことするんじゃありません。
「あのねナグ兄、ナグ兄が思ってる以上に女の子は自分の戦闘力を気にするものなのですよ」
そういうものですか。
でもさ、普通こういう場合って今みたいな発言はセクハラだよ……みたいなことを言う流れじゃないのかな。まあ言われても保護者代わりに注意しただけって返すけど。
うちの従妹、もしかしてこの短時間で毒され始めてる? それとも俺が知らなかっただけでこれがこいつの素なのか。う~ん……
「あと、場合によってはセクハラ案件なので注意するように……何であたし頭撫でられてるの?」
「お前は良き従妹だと思って」
だからこれからも俺にとって良き癒しであってくれ。
お前まであいつらのような人間になったら、俺は間違いなくストレスが減りません。
「ある程度良い従妹してる自覚はあるけど……ナグ兄ってゲームの中だと性格違うよね?」
「そうか?」
「うん。あっちじゃこういうことしてこないし」
だってあっちじゃ食事の時くらいしか顔を合わせないでしょ。
そっちは基本的に部活で家にいないことが多いし、俺も基本的に家に居る時は自室だし。漫画やラノベの貸し借りするときくらいしか互いの部屋にも来ないしね。
「ナグ兄は頭撫でるの好きなの?」
「うーん……まあ」
「ならあたし以外にしたら? 別にされるの嫌いじゃないし、むしろ嬉しいけど恥ずかしくもあるし。知り合いにも女の人多いみたいだし」
お前ほど気軽に触れれる奴なんていないですが。
それに……お前以外の知り合いはまともじゃないんですけど。どこかしら欠点があるというか、頭撫でたいなって気持ちにはならんのです。
「そうだな、シスコンだとか思われても面倒だし。別の方法でストレス発散するわ」
「そんなんだと春が来ないよ?」
「突風しか吹かない春なら要りません」
よし、決めた。
今度ソロの時に思いっきりモンスター狩ろう。何体も斬って斬って斬りまくろう。多分それが1番ストレス発散というか気分転換できる。
でも今は……。
周囲を見渡せば得物を持ったウェアウルフが数体こちらを睨んでいる。
ウェアウルフは他の亜人種よりも聴力による索敵範囲が広いので、先ほどの慎みのない女子トークで寄ってきたのだろう。
「よし、行けキョウカ。君に決めた」
「ちょっとナグ兄!? あたしはナグ兄のポケットな相棒じゃないんだけど。というか、さすがにあの数相手に突っ込むのは無謀だよ。それはナグ兄も分かるよね? ナグ兄はあたしに死ねと……って、どんどん増えてる!?」
そりゃあ、そんだけ大声を出せば寄ってくるでしょ。
いや~体育会系だけあって声が響くね。ざっと見ても10体は居ますよ。まあ普通にどうにかなるとは思うけど。
キョウカの育成目的で獲物を譲ってばかりだったこともあり、正直に言うと若干戦いたくてウズウズしていた。
このゲームを始めてから少し戦闘狂になりつつある気がするがそこは気にしない。背中にある愛剣に右手を伸ばし、一気に引き抜く。
「キョウカ、お前も人の背中に隠れてないで構えろ。あの内の何体かはお前が呼んだんだから」
「その原因作ったのはナグ兄では? まあ戦うけど。自分のケツを人に拭いてもらう年でもないし」
うんうん、キョウカも成長したね。
女の子がケツって言うのは少しどうかと思うけど。せめて尻とかにして欲しいな。間違ってもアイゼンの中の人みたいになって欲しくないし。
「先にまだまだ長いし、さっさと片付けますか」
「我が盟友よ、共に戦場を駆けることにしよう」
「一緒に駆けてもお前じゃなくて召喚獣とだけどな」
「そういうことは言わなくていいの! ほら、さっさと突っ込む!」
一緒に戦場を駆けるなんて口にしたのに何て切り替えの早さだろうね。まあ行きますけども。
地面を思い切り踏み抜いて加速し、愛剣を構えながらウェアウルフの集団に向かって行く。
これまでならばここで突っ込むことを躊躇していたかもしれないだけに、なんだかんだで俺はあいつらのことを信頼しているのだろう。
唯一気がかりがあるとすれば、ボス戦の時に緊張感がなかったらどうしようという疑問だけだ。
さすがにボス戦のこのノリで行くのは危険に思えるし、この手のゲームは真剣に遊ぶからこそ楽しいものだ。それが強者との戦いならなおさら……。
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