第25話 「最後のひとり」

 日々の頑張りにより、ついにこの日を迎えた。

 俺はレベル31に達し装備の強化も無事に完了。またブレイカーするための剣もロングソードから2ランク上ほどの《ブロードソード》へと変更した。総合的にステータスは向上したと言える。

 ルシアは無事に目的のモンスターと契約し、アイゼンは集まった素材で装備を改修したことで更なる防御力を得た。

 元から俺よりも高かったふたりのレベルは、言うまでもなく俺より高い。

 アリスに関しては現在レベル28と俺達には一歩劣っている状態だが、クエストの適性レベルが30であることを考えると行けなくもない状態だ。

 元より彼は後方かつ支援を主体としている。それ故に危険性も俺やアイゼンのような前衛よりは低い。

 ムラマサやエルダリンデもβテスト経験者だけあって俺達以上に準備はしっかり出来ている。


 あれ、パーティーの最大人数って7人じゃなかった?


 そう疑問に思った方、良い記憶力だ。

 そう俺が今述べた人数は俺を含めても6人しかいない。助っ人に関してはムラマサに任せていたのだが、ギルドに加入していたり都合が合わなかったりとダメだったのだ。

 6人で挑むのもやぶさかではないが、もうひとり居た方が道中やボス戦での取り巻きの駆除が楽になる。

 ボスを除けばレベル20台のプレイヤーでも戦力になると聞いたからな。なので俺が助っ人を呼ぶことにしました。


「というわけで……今日はよろしくなキョウカ」


 勘の良い方はお気づきだろうが、この我が従妹である京華である。アバターネームは本名をモジったものだ。

 俺とキョウカは従兄妹という関係にあるだけに顔立ちはところどころ似ている。

 とはいえ、そのように思うのは俺達をよく知る人間か親戚くらいのものだ。一緒に歩いていれば、兄妹ではなく彼氏彼女に見られる可能性の方が高いだろう。従兄妹が兄妹に間違われるほど似てるなんて滅多にないはずだ。

 それに……キョウカは俺とは違って部活に励んでいる女子。女の子だ。オシャレにだって興味がある。

 故に俺とは比べ物にならないほど、自身の髪型や髪色などを弄っていますよ。

 それで悪くないと思える外見が出来上がるあたり、我が従妹は人から見れば努力系美少女なのかもしれない。

 まあ俺にとっては従妹なので美少女扱いにはならないんだが。関係性が実の兄妹に近いところもあるし。


「うん、よろしくナグ兄……って、何がというわけなの!? ナグ兄がクエスト行こうぜって誘ってきたからオーケイしたけどさ、皆さんの装備を見る限りあたし必要なくない? ザ・フル装備って感じだし。あたしこの街に来たばかりだからまだレベル18なんだけど!」


 若干テンパっているようにも思えるが、しっかりとした発音である。

 お前って活舌良かったのね。放送部とかに入ってもそれなりにやれるんじゃないの。まあ今はソフトボール一筋だろうけど。

 でも身近な人間のひとりとしては、色々なものに目を向けて欲しいわけですよ。

 仮に二次元が今よりも好きになって、声優やクリエイターになりたいって言っても俺は応援してあげるから。金銭的にはまだ高校生だから無理だけどね。

 あと特に理由もないのに、親の脛をかじって生きるようなダメな人間になったら見捨てちゃうかな。

 だって応援する気が起きないもん。


「大丈夫、お前にしか出来ないことはあるから」

「ないよ! そのへんに居るプレイヤー誘った方が良い決まってるじゃん!」


 そんな脊髄反射レベルで否定することじゃないですか。それにね


「あのなキョウカ、今ここに集まっているメンツをよく見てみろ?」

「……半分は知ってる顔だし、あっちの人達って多分βテスト経験者の人だよね? 赤い着物の人、確か《炎の舞姫》のエルダリンデさんみたいだし」

「お前……体育会系の割に情報通だな」

「ナグ兄、それって褒めてる? それとも貶してる?」


 うーん……6:4で褒めてるかな。

 というか、あのロリ型ババア系に通り名みたいのあったんだ。日に日に変人扱いしていってたから全く興味持ってなかった。今も興味はないけど、まあ戦い方を知っているだけに納得はするけど。


「まあいいや……話を戻すけど、何であたしなんか誘ったの? 最後の大会前でそんなに育成出来てないってナグ兄は知ってるよね? いかにも難しいクエストに挑みますよって感じの時にあたしを誘うとかいじめだよ?」


 確かにキョウカは俺達よりもレベルは低いよ。

 でもさ、最後の大会を前に毎日頑張ってる割にはレベル高すぎない?

 始まりの街に居てレベルもまだ1桁なら分かるんだけど、レベル20に迫っててこの街に来れてるってなかなかハイペースな気がするんだけど。部活してなかったら俺達を追い越しそうな気がするんだけど。

 もしかして、そこのちっちゃい大人みたいに課金とかしてるのかな?

 もしそうならお兄ちゃん少し心配だよ。小遣いをどう使おうとキョウカの勝手だけど、人に借りたりしてまでやるような人間にはならないでね。


「俺がキョウカをいじめるわけないじゃないか。何でお前を誘ったかというとだな、パーティーの最大人数でクエストに挑みたかったというのも理由ではある。道中でレベルは上がりそうだし、ボスの取り巻きとかなら今のお前でも相手出来そうだなって思ったのも理由ではある。だが何より……」

「何より……?」

「そのへんの見ず知らずのプレイヤーのこのパーティーに入れるわけにはいかないでしょ。だってここに居る連中、基本的にどっか普通とはずれてるんだから。犠牲にするならまず身内じゃないと」

「それいじめじゃん!? いじめないとか言った傍からいじめる気満々じゃん。犠牲とか物騒なこと言ってるじゃん!」


 だってお前くらいしかAMOやってる奴知らないだもん。

 いや本当は知ってるけど。本屋で会った女剣士を知ってるし、本屋の娘さんを経由すれば連絡も取れそうだけどさ……それは嫌なの。

 これ以上普通じゃない人が増えて欲しくないの。まともに話せる相手が俺は欲しいの。だからねキョウカを呼ぶことにしたんだ。


「下手したらあたしひとりだけ死にそうだし。デスペナとかあんまり受けたくないんだけど!」

「そう言わず困ってる兄さんを助けてくれ。妹だろ?」

「確かにあたしは妹みたいな感じではあるけど従妹だから! それと普通は兄が妹を助けるものだから。妹として扱うならいじめるのやめてくれるかな!」

「そうか。なら仕方ないな……協力してくれるなら、みんなお前に合いそうな装備をタダで渡そうかなって話してたんだけど。ここまで拒否するのに無理強いするのも悪いしな……残念だが他を探すか」

「ナグ兄ナグ兄、ここに暇な人間が居るじゃないですか。足手まといになるかもしれないけど、死ぬ気で頑張る所存ですよ。荷物持ちだってしちゃいますよ。可愛い妹として愛想振り撒いちゃいますよ~♪」


 うんうん、凄く愛くるしい笑顔だね。

 うちの親が見たら即行でお前の頭を撫でたりしそうだよ。俺からすれば現金な奴だけど。

 まったくお前という奴は……こういうときノリが良いというか、扱いやすくて実に可愛いよ。お兄さんとして嬉しい限りだね。物をあげたりしないと友好的じゃない関係になるのはご免だけど。


「ナグモ殿」

「どうしたアイゼ……お前のその顔、嫌な予感しかしないな。それでも一応聞いてはやるけど……何だよ?」

「私も……あんな妹が欲しいです。なので結婚しましょう」


 これ殴っていいやつかな?

 そもそも渋い小父様が真顔で何言ってるの。本性出してくるのやめてほしいんだけど。出すにしても本当のお前の姿で出してほしいんだけど。その方が幾分かマシに思えるから。というか……


「あいつは俺の従妹であって妹じゃないから。俺と結婚したところでお前の妹にはならねぇよ」

「くっ……ならば私の妹分に!」

「なら俺じゃなくて本人に頼め」

「キョウカ殿!」

「アイゼンさんの本性にそれなりに理解はあるつもりだけど、それでも言わせて。今のアイゼンさん、キモい」

「ぐふぇあッ……!?」


 おー凄まじいダメージ受けてるな。

 まあリアルの自分を知っている女子中学生からキモいなんて言われたら当然だろうけど。

 しかもキモいってところがきついよね。

 大嫌いって言われるより嫌いって言われる方が本音みたいな感じで精神的に来るように、超キモいって言われるよりもただ素直にキモいって言われる方が来るものがあるし。

 ま、完全に自業自得だから同情はしない。するにしてもそれは軽蔑だけだ。


「ムラマサよ、今日改めて思ったがおぬしは面白い連中に知り合ったの」

「その中心に居る人は、うちらにもその面白い連中に向けるのと同じ目を向けとるけどな」

「まあまあ、それも良いんじゃない。つまらない人間って思われるよりワタシはマシだと思うわ」

「つまらない人間なんて集まるわけないさ。何故なら我が盟友の前には流れを変える者ばかり集まる。そう……彼にはそんな不思議な因果があるのだから」


 ルシアさん、暗に俺が集めてるみたいな言い方やめてもらっていいですか。類は友を呼ぶというなら呼んでるのはあなたでしょ。

 俺が許容出来ているのはアリスまでです。アイゼンとかからは許容範囲外なのですよ。俺が呼んでいるというならもっとマシな連中が集まってるはずでしょ?

 そう言いたくなるくらいそうあってほしい。そうあって欲しかった……でも現実は。


「まあこれで最後のひとりも確保したし、最終的な準備をしてクエストに行くとするか」

「ナグ兄、癒しを求めてるのかもしれないけどさ。そういうこと言いながらあたしの頭を撫でるのはやめて欲しいんだけど。さすがに人前でやられるのは恥ずかしいし」

「くそぅ! これが従兄とその友人の差か……人前でないなら撫でても良いなんて、何て出来た妹なんだ。私もこんな妹が欲しかった……!」


 四つん這いになるほど悔しがることか。

 大体妹じゃなくて従妹だから。妹と従妹には大きな違いがあるからな。それ以上にアイゼンの状態で撫子として振る舞うのやめて。凄く違和感だし、見ててキモいから。


「とりあえず……そこのおかしな老騎士は無視するとして、キョウカに装備やらを渡すことにするか。まず誰から貢ぐ?」

「ナグ兄、その言い方だとあたしが悪い女みたいだから何か嫌」

「では、まず私から!」

「今日のアイゼンさんは一段とキモいから悪い女扱いされるより何か嫌」

「ゴフッ……!?」

「今日のアイゼンさんは散々やな」

「まあ自業自得じゃろうて」

「はぁ……その子の友人として謝っておくわ。ごめんなさい。話を先に進めましょう」



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