第19話 「いざ、次の街へ」

 ルシアやアリスと最近のことを報告し合いながら待っていると、とあるプレイヤーがこちらに歩いて来ているのが見えた。

 あの激渋の顔に新調されたと思われる鈍色の鎧。ほぼ間違いなくアイゼンだ。

 だがしかし、俺はアイゼンよりもその隣に居るプレイヤーが気になって仕方がなかった。

 そのプレイヤーは一見タンクトップと短パンというラフな格好だが、両腕や胸部にはアーマーが装備されている。背中には両手持ち用と思われる重量級武器両手斧に分類されそうな得物があり……

 いや、正直そんなことどうでもいい。問題なのは冷気を放っていそうな笑みが俺に向いていることだ。

 いったい俺が何をしたっていうんだ。俺があのプレイヤーにやったことなんて……


 ・1日に何本も剣を作らせる。

 ・俺がそれを買う。

 ・街の外に行ってすぐにぶっ壊す。

 ・街に戻って1番上に戻る。


 毎日のようにこれを何度か繰り返していただけだぞ。

 武器は消耗品だから壊れても仕方がないし、ちゃんと金は払ってたなんだから問題ないじゃないか。

 故にあんな怖い笑顔を向けられる理由はない。

 嘘です。今となっては少々やりすぎたかなって反省してる自分もいます。

 でもさ、あっちだって了承の上で俺に剣を作ってくれてたんだよ。差し入れだってしてたんだよ。正確には……ねだられてただけだけど。

 それにあの子ってアイゼンの中の人みたいにノリが良いというか、騒がしいところあるじゃないですか。なんだかんだでその相手をしたんだから精神的なダメージはお互い様じゃない?

 だから……俺はこの場を去ることにするよ。

 まずは颯爽かつ華麗に回れ右をして……


「おや……?」


 誰かに肩を掴まれてしまったぞ。

 しかも徐々に食い込む勢いで握られているのだが。いったい誰がこんなことを……まあ君以外にいないよねぇ。


「ナグモン、うちと目が合うなり逃げようとするんは失礼やないかな?」


 ううん、失礼じゃないと思う。だって俺には俺の都合があるから。


「おい小娘、人をデジタルで進化とかしそうなモンスターみたいに呼んでんじゃねぇぞ」

「ナグモンやのうてナグモンって言ったんや」


 確かにアクセント違うけど……それ音で聞かないと分からんやろ。字面だけで判断できんし。もう少しちゃんとせなあかんと思うで。

 なんて言おうものなら余計に面倒臭くなりそうだから言わないがな。今回のアクセントに関しては各々で処理しておいてくれ。


「というか、何逆ギレで乗り切ろうとしてんねん。あと小娘言うたけど、アイゼンさんの話聞いた限りあんたとうち同い年やないか」


 くそ、やはり適当な行動では結果は出ないか。

 というか~アイゼンさんは何で僕の年齢をバラしてるんですか?

 あなたの年齢を言うのは勝手ですよ。でも他人の情報まで言うのはおかしいと思いま~す。


「同い年? そこの老騎士みたいに中身偽ってんじゃないの? ノリというか醸し出す空気似てるし」

「失礼な。うちはリアルでもこんな感じやし、アイゼンさんよりもまともや」

「あの……さらりと私を巻き込んで罵倒するのはやめてもらえませんかな」


 そう思うならもっといつものように大きな声で言いなさい。

 いつからお前はそんなロールプレイを貫けるようになったんだ。少し前まですぐ撫子化してたくせに。


「俺はリアルの貴様なぞ知らん。故に信じん」

「ああ言えばこう言い寄ってからに。それなら今度リアルで会ったる。うちの美人っぷりを思い知らせたるわ」

「結構です」

「何でや!? うちはアイゼンさんの知り合いなんやで。なら別に問題ないやろ。というか、そこで即答とか乙女心を何だと思ってんねん。可愛い女の子とお近づきになれるんやから喜ばんかい!」


 いやいや、友達の友達は友達じゃなくて他人でしょ。

 共通の友達がその場に居なかったら気まずさ倍増するし。ムラマサとはゲームで何度も話してるから会ってもその手の問題はなさそうだけど。

 でもなぁ……可愛かったり綺麗な異性は俺の経験上まともじゃない可能性が高いんだよな。

 故に、こうしてゲームの中でバカなやりとりしてるだけの関係の方が良い気がする。

 だってあの本屋のお姉さんに知られると面倒なことになりかねないんだもん。

 何であの人って俺に必要以上に構うというか構って欲しいの。謎過ぎるんだけど。彼氏なんて選び放題だろうし、さっさと作って結婚すればいいのに。そうすれば俺も解放されるだろうから……多分。


「俺は……美人とかじゃなくていいんだ。普通の……一緒に居て落ち着く子と仲良くなりたいんだよ」

「え、えっと……あんたも色々とあるんやな。うん、うちもそのちょっと言い過ぎた。謝るから元気だし」

「何やら和解しておりますが……ナグモ殿、さらっと私やルシア殿をディスったように思うのですが」

「確かに。我らが騒乱の申し子と言わんばかりに……まったく彼は失礼な奴だよ」

「あなた達って本当にブレないわね……」


 アリスさん、何で頭を抱えてるの?

 まさか……そのふたりに色恋させようとは思ってるんすか。そりゃあ無理ってもんでしょ。だって花より団子、団子より物欲なんだから。


「ところで……」

「ようやく私のターンですかな。いやはや、遅れてしまって申し訳……」

「あぁそれは何となく察しが付いてるから言わないていいよ」


 どうせムラマサがネチネチと俺への文句を言ってたんでしょ。顔を会わせた瞬間にあの笑顔で肩を掴まれたら察しがつきますって。

 あと……アイゼンのときに拗ねたような顔をするなよ。

 そんなことしても全く可愛くないから。というか、今のくらいで拗ねるとか俺に構って欲しかったの? 学校では毎日のように話してた覚えがあるんだけど。


「何でムラマサが一緒に居るんだ?」

「何で居ると思う?」


 質問に質問で返しますかそうですか。

 ここで質問で返しても話が進まなそうなのでお答えしてあげますよ。


「剣を7本を使うどこぞの誰かが剣を買い過ぎて鉱石不足に。買い足そうと思ったがどこも売り切れになっており、そこにアイゼンが来たので鉱石集めに付き合わせようとしている」

「……よう分かっとるやないか。さすがは今話に出たどこぞの誰かさん本人やな」

「それほどでも」

「いや褒めとらんから」


 そんなの分かってますよ。

 大体蔑むような視線を浴びてるのに褒めてるって思う奴なんていると思う?

 そんなのそこに居るM疑惑のある老騎士くらいだと思いますよ。


「まあ……それ以外にも理由はあるんやけどな」

「えー」

「そこはえーやのうて、せめてへーやろ」


 だってこの流れで他にもあるとか言われたら追撃してきそうじゃないですか。へーって言えるのは俺以外のメンツだけですよ。


「ナグモン、今あんたレベルいくつや?」

「黙秘します」

「しばくで」


 暴力反対!


「俺だけ答えるとか不公平だと思います」

「なら先に答えたる。うちは今22や」

「……鍛冶師なのに?」

「鍛冶師やから出来るクエストもあるし、βテストも経験しとるからな。それなりに効率の良い立ち回りは知っとる。βテストの頃に出会ったプレイヤーと一緒にどっか行くときもあるしな」


 え、何それずるい。

 とは思わないけど、いつも店やってるイメージしかないから実感湧かねぇ。

 俺が剣を買いに行ったらいつも居るし。場所は日によって違うけど、そこはフレンドサーチで特定できるから問題なし。

 ちなみにサーチが出来るのはフレンドかつ相手が許可を出してるときだけだからね。ブロックされたら出来ないし、ストーカーとか湧いた時に困るから当然の仕様だよね。


「そんでナグモンは?」

「答えるんでそのあだ名だけやめてもらっていい?」


 マジで字面だけ見たらデジタルなモンスターに思われるから。

 それで誰か困るのかって?

 いや、困るかもしれないじゃん。誰とは言えないけどさ。大体俺がそういう呼ばれ方嫌って思ってるの。それだけで理由としては十分でしょ。


「じゃあナグ坊」

「何で同い年から坊や呼ばわりされるの?」

「ナグモくん、私は君からそういう扱いされていると思うんだが?」

「そっちは言動に問題があるの。というか、話が進まなくなるから今は黙ってて」

「む……」


 そうやってすぐにむくれない。

 アイゼンと違って可愛くはあるけど、そんなことしても撤回とかしませんからね。


「前みたいにナグモの兄さんでいいんだけど」

「それやと呼ぶ時に地味に長いやん。それに……気を遣うような相手でもなくなっとるし」


 おいこら、俺はあんたからしたら客だぞ。

 頻繁にお店に通っている常連客に等しい1人だぞ。それなのに気を遣う必要がないたぁどないな教育受けてんねん。

 そっちが遣わないなら俺も遣わないからな。その方が俺も楽で良いし。


「分かった……もうムラムラの好きに呼べ」

「ちょっ、 別に愛称とかで呼ぶなとは言わんけどその呼び方はないやろ。別にうちは欲求不満やないで!」

「じゃあムーちゃんでいいか?」

「何かこそばゆいから出来ればやめてください」

「それで他の理由って何?」


 やめてって言われたから話を変えたのに厳しい目が俺を射抜いているぞ。

 やれやれ……こっちとしては話を進めようとしているだけのに。大体先に変な呼び方してきたのそっちじゃないですか。人にやられて嫌なら自分もしないでください。


「俺のレベルは今18だ。これで話が進む条件は整っただろ?」

「そうやな! ちなみにアイゼンさんのレベルは23や!」

「何故ここで私に飛び火!? ならばルシア殿は確か20ですぞ!」

「何でそうなるのかな!? でも残念、今日集まる前に1上がったから21なのさ」


 え、お前そんなに上がってんの!?

 いやまあ……色んなパーティーとやってたならそれだけクエストこなしてるし、モンスターも狩ってるか。差が出来るのは当然と言えば当然。

 でも良いなぁ。レベル21ということはスキルスロットが増えて4つになったんだよな。俺も早く新しいスキルを装備したいぜ。


「そんでそっちのお姉……さんは?」

「ふふ、まだ15になったばかりよ。ちなみにワタシは男だから。別にお姉さん扱いでも構わないけれど」


 ナグ坊……あんたの周りって濃いメンツ多すぎやない?

 みたいな目で見るのやめてもらっていいですかね。俺からすればあんたもそのひとりに入ってるから。そこにあと男らしい女剣士と本屋の怖いお姉さんも居るの。

 俺の周りってさ、冷静に考えると変な奴多すぎない? それともこれが普通なの?


「……まあそっちの兄さんは少しあれやけど、うちらのレベルは正直次の街に移ってもええところに来てる。やからみんなで拠点を移さへん? って話をアイゼンさんとしとったんや」

「なるほど……新たなステージへと進む時が来たということか。私には異存はないよ。我が契約獣と共に先へ進むとしよう!」


 唐突に中二病チックに入ってきたな。まあ別にいいけど……いいんだけど


「本音は?」

「……少しの間はみんなと一緒に遊びたい。ここに居ると声掛けられること多いから」

「なかなかに大変でしたからな……パーティーに正式に加入しないかとしつこい者やリアルのことを聞き出そうとする者もおりましたし」


 遠い目をしながら言わないでもらえますかね。そういうことされると反対意見とか出せなくなるから。


「まあ……そういう理由なら拠点を移してもいいんじゃないか。俺も先に進まないと取れない素材があるし」

「せやろな。このへんの竜種は幼体しか出らへんし……ちなみにここから北に進んだところにある《ノーズライナ》って街に行くのがオススメや。あのへんの適正レベルは20くらいなものが多いし、何より竜種の成長期も出るしな」

「あのさ……成長期とか言ってるけど、その上ってあるの?」

「あるらしいで。噂では成長期の上は完全体とか言っとったかな」


 なるほど……その上に究極体とかあったら分け方がデジタルなモンスターだね。

 せめて完全体で止めて欲しいな。愛剣の強化が果てしない道のり過ぎると俺の心が折れるかもしれないから。

 というか、完全って不足とかが何もないって意味だよね?

 なら完全体で終わるべきじゃないかな。究極体とかが出るにしても大きなイベントとかでやって。1パーティーで挑むようなクエストにはレベルが高すぎると思うから。


「見たところ反対意見も特にないようやし、さっそく出発しよか」

「そうですな。まずは北門の方に行きましょう」

「まだ見ぬ敵達よ、待っているがいい!」

「はぁ……今日は何か疲れそう。一段とテンション高い気がするし」

「ふふ、今日くらい見逃してやりなさい。ナグモみたいにひとりで好き勝手してたわけじゃないんだから」


 お前ってこういう時身内に甘いというか、俺にだけ厳しいよな。まあそれがお前の役割なのかもしれんけど。

 ま、気楽に行くとしよう。あれこれ考えても疲れるだけだし。



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