第13話 「買う側にも都合はある」
激闘の果てにルシアが新しい召喚獣を手に入れて数日。
新たな契約を果たしてからルシアの活躍は飛躍的に向上した。
彼女が契約したブラックドラゴンは幼体ではあるが、ステータスで言えば他のモンスターを避け付けない数値を誇っている。攻撃力だけで見ればトップクラスだ。まあ序盤のモンスターの中ではだが。
しかし、召喚獣は共に戦闘したり専用のアイテムを使うことで強化されていき進化もする。
つまり、いずれはあの幼体も偉大なる竜として君臨することになるのだ。
またレアモンスターということもあって、戦闘で使っていれば他のプレイヤーからの注目を集めるのは必然。
基本的に《召喚獣》スキルを持っているプレイヤーを歓迎するパーティーは少ないと聞くが、戦力になるモンスターと契約していれば話は別だ。
またルシアの容姿も相まってか頻繁に勧誘にされているらしい。
アイゼンが一緒に行動して対応してくれているらしいが、良いプレイヤーやパーティーに出会えたならば一緒にプレイすればいいと俺は思う。
多くの人々と触れ合うことは、ルシアにとっても良いことだと思うからだ。
ふたりが別行動であることが多いこともあって、アリスも色んなパーティーとクエストに行くようになった。
何でもプレイヤースキルを磨くのはもちろん、繋がりを作っていた方が後々役に立つだろうという彼なりの目的がある。
俺にはそれを止める理由もないので今はソロで行動している。
「……なるほど。つまり今ナグモの兄さんはぼっちってことやな」
「おいおいムラマサさんよ、その言い方は俺に失礼だと思うんだがな。ぼっちっていうのはフレンドがいない奴のことを言うのだと俺は思う」
「一人ぼっちという意味では紛れもなくぼっちやん」
そう言われてしまっては否定はできない。
でもさ……予定が合わなくて一緒にプレイしてないだけですよ。
それでぼっち呼ばわりはちょっと釈然としないものがある。今はソロで行動しているだけだし、たまには俺だってひとりの時間が欲しいもん。プレイヤースキルを磨いたり、気分をリフレッシュするためにもさ。
それに某狩りゲーでもさ、友人としない間に新しい武器とか防具を作ったりするじゃん。
今はそういう時間が訪れてるだけですよ。これで今後一緒にプレイしなくなるとか……可能性はありますね。
でもまあ……そうなったらそうなっただな。
あいつらにはあいつらの付き合いや遊び方がある。何よりあいつらとは、学校で顔を合わせるわけだから繋がりがなくなるわけじゃない。
この世界においても、仮に別の道を進んだとしてもいつか交わることもあるだろう。なら悲観することではない。
「その理論で行くとそっちもぼっちだぞ」
「ぐっ……う、うちは駆け出しの鍛冶師なんやから仕方ないやろ。店を持つかどこかの店に弟子入りとかせん限りは他のプレイヤーと一緒に仕事したりせんわけやし。そ、それに素材集めに行くとき臨時でパーティー組んだりしとるし」
「それを理由にするなら俺のことぼっちって呼ぶのひどくね?」
状態だけ見れば俺と同じソロってことでしょ。
俺だって目的が合えば野良でパーティを組むことはあるだろうし、いつものメンツがいないだけでぼっち扱いはやっぱひどいよ。温和な俺でもあんまり言われると怒りまっせ。
え、お前のどこが温和?
なんて今の考えを知った人間は疑問を抱くかもしれないけど、俺は温和ですよ。
基本的に意味のない争いごとは嫌いだし。口が悪くなったりするのは癖のある人間くらいにだもん。
普通に接してくる人には普通に接しますよ。だって俺は常識人ですから。
「それよりロングソード6本欲しいんだけど」
「はいはい、6本ね。まったく……ナグモの兄さんは鍛冶師を何だと思ってるんやろうね。丹精込めて作った剣を壊すために買うとかゲスの極みやわ」
「こっちの考えに納得して売ってくれてる奴が何言ってんの?」
「それはほら、うちらなりのスキンシップや」
良い笑顔だ。実に良い笑顔だよ。
俺には営業スマイルにしか見えないけども。これは俺の心の問題だろうか?
「というか、6本でええの? 前まで7本買ってくれてたやん」
「少しでも買わせようとするのやめてくれない? 俺にも都合があるの」
「都合って何なん? まさかうち以外の鍛冶師に浮気してるんやなかろうね」
何でそんな険しい顔で迫ってくるんですかね。
別に浮気なんてしてませんよ。というか、あなたは俺の彼女か何かですか。別にどこで何しようが俺の勝手だと思うんですが……近いんで離れて割とマジで。
「違う違う。この前良い長剣がドロップしたから普段用にそれを使おうと思ってるだけ」
「良い長剣……ねぇねぇナグモの兄さ~ん、何がドロップしたん? うち~見てみたい~」
ぶりっ子みたいにすり寄ってくるのやめてもらっていいですか。
あまりそういうことされると、うちのクラスメイトと重なって見えてくるから扱いが雑になるよ。それでいいなら別に続けてもらって構わんが。
とはいえ、俺以外に客もいないだけに見せるまでしつこく聞いてきそうだ。
武器には耐久値があるため、長く使用するには定期的にメンテナンスをする必要がある。ここを紹介してくれた顔を立てる意味でも、メンテナンスはムラマサの店でするつもりだ。故に……ここは素直に見せるべきか。
そう判断した俺は、アイテムウィンドウを開いて目的の剣を装備し、鞘ごとムラマサに手渡す。
「これだよ」
「どれどれ……お、結構重めやな」
冷静は装っているが鍛冶師なだけあって武器が好きなのか、ムラマサの声は上ずっている。彼女は剣の柄に手を掛けると、ゆっくり鞘から引き抜いて行く。
姿を現した剣は、一言で言ってしまえば飾りっ気のない直剣だ。
ただそれはそのへんの安価な直剣とは訳が違う。見た目の優雅さをかなぐり捨て、愚直なまでに武器としての性能を突き詰めている。
名は《始剣【黒耀】》
幼体とはいえ、高い戦闘能力を誇っていた黒竜の力を具現した剣だ。柄は漆黒に煌き、鋼色の刀身は竜の牙のような鋭い輝きを放っている。
先日のブラックドラゴン(幼体)との戦闘でドロップしたレアアイテムだ。それを装備できるようになったのはつい先ほど。レベル13になってから。装備に必要な要求《筋力》が高めだったこともあり、手に入れてすぐは装備できなかったのだ。
ちなみにレベルが11を超えたことで新たなスキルスロットを手に入れているわけだが、そこには剣による攻撃威力を上げる《剣技の心得》を装備している。
「おぉ……! ずいぶんええ剣手に入れたんやな。確かこの剣、分類的には魔剣やで。レベル20台で戦うエリアでも十分通用するやろうし」
「だろうな。まあそれを使うために手に入れてからのレベルアップボーナスは全部筋力に入れ込むことになったわけだが」
「そのへんは仕方ないやろ。この手の武器は普通のもんより要求されるステータスが高めやから。でもそのぶん性能は折り紙つきや。強化していけば終盤まで使えると思うで……そのぶん強化素材集めるの大変やけど」
上げてから落とすのやめて。しかも大変さを物語るような何とも言えない顔で言われたら少し心が折れそうになるじゃん。
でも……せっかく手に入れたんだから最終強化まで目指してみるか。
AMOの良いところは、同じ名前にプラス数字のような強化ではなく、強化を重ねれば派生して別のものなったりするところだ。
そのため最初から最後までひとつの武器を愛用することが出来る。このへんは国民的狩りゲーなどを参考にしたのかもしれない。
「ま、地道に頑張ってや。強化素材集めてきたらうちが強化したるから。うっかりブレイカーしたってなったら笑うかもしれんけど」
「そんなことするわけないだろ。すでに祝福してもらってるんだから」
祝福とは、死んだときに強制的に飛ばされる教会で行えることのひとつ。効果は死んだ際にドロップしなくなるというもの。祝福してもらうのに必要な費用はアイテムによって異なる。
この剣の費用はというと……5800Gでした。ロングソードが130Gだったこと考えると、レアリティや性能の違いを数値以外でも実感するよね。
何でロングソードの値段まで知ってるかって?
そんなの祝福しに行ったときに所持していたからに決まってるじゃないですか。今は全部ブレイカーしちゃったからないけど。
「というか……いい加減ロングソードを欲しいんだが」
「やれやれ、急かす男は嫌われるで。今すぐ打つからちょい待ち」
「今打つのかよ」
「仕方ないやろ。毎日のように何本も買われたら準備出来てない時も出てくるもんや。うちはロングソード専門の鍛冶師やないんやから」
「それはまあ……ん?」
不意にこちらに近づいてくる足音が聞こえたので意識を向けてみると、白を基調とした羽織袴姿の女性プレイヤーの姿が見えた。
青みを帯びた黒髪をひとつにまとめており、凛とした顔立ちをしている。
身長はざっと見て170センチほど。左肩越しには刀の柄が見えており、刀身の先は足元近くまで伸びている。AMOの分類では《太刀》カテゴリに入る武器だろう。
長刀を背負った女性プレイヤーは、俺と視線が重なると思わず足を止めた。
「……これは珍しい。ムラマサ殿の店に客が居るとは」
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