第12話 「新たな契約」
俺達は、街に戻りながらワイバーンベビィを探すことにした。
その結果は……ルシアの言っていた第六感が的中したのか、目の前にモンスターが現れる。
だがワイバーンと違って身体は黒く、全体的に鋭利なデザインをしている。某カードゲームアニメの黒竜を彷彿とさせるモンスターだ。
「何とぉぉぉ!? あれは滅多にお目に掛かれないレアモンスター《ブラックドラゴン》の幼体ですぞ。攻撃力は実にワイバーンベビィの3倍と言われ、ここで出現するモンスターでは最強レベルです。これは運が良い、実に……実に実に実に実に実に! 運が良い!」
アイゼン、うるさい。レアモンスターが出てテンションが上がるのは分かるけど、それでも言わせて。うるさい!
まったく、あのルシアでさえ大人しくしているというのに……第六感とか言ってたけど、適当に言ってただけみたいだな。そうじゃないと「信じられん!?」みたいな顔を浮かべるわけがないし。
「ちなみに! 何故このような場所に黒竜の幼体が出現するかというと、一部の見解ではワイバーンの巣に黒竜が自分の卵を一緒に産み落としておいたという説が……!」
「そういう設定はあとで聞いてやるから今は黙ってろ」
お前はいったいどこからそういう情報を手に入れてくるんだ。
というか、他人の巣に自分の卵を産んで子育て任せるとか黒竜って案外卑怯だな。
アイゼンの情報がガセである可能性はあるけど、お前はカッコウとかの鳥と同じかと言いたい。
さて……そんなことよりどうしたものでしょう。
まともにダメージを与えられるのは俺とアイゼンだけ。
しかし、相手はワイバーンベビィよりも格段に高い攻撃力を持っている。つまりアイゼン以外は、まとも攻撃をもらえば大ダメージは間違いないということだ。
即効で逃げ出させば事なきを得そうだけど……アリスはともかく、アイゼンは戦う気満々だし、ルシアは中二病をくすぐられたのか目を輝かせてる。
うん、逃げようって言っても却下されるだけだね。
「ナグモ、言いたいことがあるなら言った方がいいんじゃない?」
「言ったところで無視されるだけだろうさ。それに……レアモンスターに出会ったら戦いたい気持ちは俺もある」
「ふふ、割とあなたって好戦的だものね」
ワタシは分かってるわよ、みたいな顔するのやめてくれない? 何か地味に恥ずかしくなってくるから。
それと別にそこまで好戦的じゃないよ。
一般人と同じくらいだと思います。強敵を創意工夫して倒せたときは誰でも嬉しいと思うだろうしさ。
まあもしかするとちょっとだけ人よりも好戦的なところがあるかもしれないけども……
「そっちのおふたりさん、あいつはワイバーンよりもやばそうだけど……バトるってことでオーケイ?」
「「オーケイ!」」
「普通に全滅もあり得るかもしれないし、死んだらアイテムやら失うけどもオーケイ?」
「私は大したもの持ってないから問題ない!」
「うん、それ堂々と言うことじゃない」
「私は地味に失いたくないものもありますが……だがしかし! レアモンスターとの戦闘できる機会があるのに逃げて良いだろうか、いや逃げてはいけない!」
「反語で言わんでいい」
あと顔まで何かうるさくなってるからもう少し主張抑えて。
顔がうるさいのは一部の声優さんとかだけで十分だから。それにあの手の人は良い意味でうるさいから良いのであって、あなたのは悪い意味でうるさい。
そんなのが身近に居ても疲れるというか、現実のあなたがすると人に良い印象持たれないからやめなさい。
「やれやれ……それじゃ文字通り、命懸けで挑んでみますか」
右手を背中に伸ばして剣の柄を掴み、一気に引き抜く。
それが開幕の合図となったのか、黒竜の幼体は鋭い視線をこちらへと向ける。
一瞬の静止。
直後、未発達の翼を羽ばたかせながら突進を仕掛けてきた。鋭利な甲殻で覆われていることもあってまるで黒い槍である。
ブラックドラゴン《幼体》とは初めて戦闘。
今分かっていることは、アイゼンの言っていたワイバーンベビィよりも攻撃力が3倍ほどあるということだけ。まずは情報収集が必要だろう。
「アリス殿、念のために回復の準備をしておいてくだされ。ウォォォォォクライ!」
アイゼンのアーツによって、黒竜の幼体は彼へと進路を変える。
突進の速度はワイバーンベビィよりもわずかに速い。重装備のアイゼンが今から避けるのは難しいだろう。
そのため彼は盾を正面に構え、腰を落としてこれから来る衝撃に備えた。
「グオァァ!」
「――んッ!?」
アイゼンはどうにか敵の突進を耐えきった。
だが数十センチ後退させられており、彼のHPが1割ほど削られているところを見るとその威力が窺える。
盾でガードしてあの威力……俺達の中でアイゼンの装備はワンランク上だ。
となれば軽装備の俺はもちろん、剣士系よりも防御面が劣るルシアやアリスは即死も考えられる。何とも神経を使う戦いだ。
某ハンターゲームは基本的に3度死ねるが、AMOはそれと違って一度でも落ちれば《始まりの街》など自身が最後に立ち寄った街の教会に戻される。
HPがゼロになると一度だけ全快する復活アイテムもあると噂で聞いたが、序盤で手に入るほど安価なアイテムでもない。
つまり……この戦いで死ねば即行で前線離脱を意味する。誰かひとりでも欠ければ勝利を手にするのは厳しいだろう。
中二病チックな召喚師は戦力外じゃないかって?
馬鹿、今はそんなツッコミはなしだ。非常時にターゲットがばらけるという意味では十分に役に立つ。まあそんなことより……
「ふッ……!」
まずは一撃と、《長剣》スキルのアーツである《バッシュ》を発動する。
赤いライトエフェクトが発生し、それを纏った剣を上段で持って行き袈裟斬りで撃ち込む。
「――ッ……」
硬っ!?
撃ち込んだ瞬間の手応えは、まるで鈍らの剣で硬度の高い石を叩いたような感覚に等しい。まあ使っている武器が初期武器なので実際に鈍らの剣を使っているようなものだが。
とはいえ、それでもアーツによる一撃。多少なりともHPを減らせたはず……
「おいおい……」
確かに俺のレベルはまだ2桁に到達していないが、それでも《バッシュ》は使い込んでいるアーツであり、レベルアップ時のボーナスも今のところ筋力優先で振っている。
にも関わらず……今の一撃で減ったHPの量は全体の5%程度。
俺の記憶が正しければ、これまでに戦ったモンスターは最低でも10%……1割は減っていたと思うのだが。
攻撃力といい防御力といい……こいつ、そのへんのクエストで設定されているボスよりも強いだろ。レアモンスターだからと言われたらそれまでだが。
「グォォッ!」
「――っ!」
後ろに下がると見せかけて身体を回転させ、尻尾による薙ぎ払い。
どうにか反応出来て直撃こそもらわなかったが、尻尾の先が胸部を掠った。
それだけでHPが2割近く減少している。直撃すれば少なくとも半分は持って行かれると思うべきだ。
そう思った直後、身体が温かな光に包まれ減少していたHPが回復し始める。
どうやらアリスが《白魔法》のアーツである《ヒール》を使用してくれたようだ。彼は《回復強化》スキルも取っているのでみるみるHPが回復していく。
「ナグモ、大丈夫?」
「あぁ助かった。だが……」
「これは……厳しい戦いになりそうですな」
ワイバーンベビィよりも強く、硬く、速い。
見た目こそ違うが、ある意味ワイバーンベビィの上位互換だ。レアモンスターと呼ばれるだけはある。
まだ見ていない攻撃パターンもあるだろうし、HPの減少でパターンが変化するタイプかもしれない。
かといって慎重になり過ぎても精神力を削られる。
「――っ!?」
黒竜の幼体が動いたかと思うと、口から火球を放ってきた。
全員距離があったこともあって直撃はなかったが、まさかの飛び道具に驚きは隠せない。
遠距離攻撃もあるとなれば、距離を取っても安全だとは言い難い。
何よりブレスは属性攻撃であることが多いため、基本的に魔法攻撃に分類される。
俺はレベルアップボーナスを《魔力》には振っていないし、防具による抗魔力も低い。あの火球は現状で俺が最も受けてはいけない攻撃だ。
――……どうせ次が最後の1戦と決めてたんだ。出し惜しみはなしで行くか。
「アイゼン、もう一度注意引けるか?」
「問題ありませんぞ。それが私の役割でもありますからな」
「じゃあ頼む。アリス」
「オッケー、ワタシはワタシの仕事をさせてもらうわ」
「えっと……私は?」
「死なないように注意。万が一の時はポーションとかで回復。以上」
アイゼンが動き出すのを見計らって俺も敵の側面へと回り込む。
――現状での最大火力は《ブレイカー》だ。
ただ今抜刀しているロングソードは、さっきの一撃で耐久力が多少なりとも減っているだろう。与えられるダメージの最大値を知るためには、最大耐久値で《ブレイカー》を放つ必要がある。
それならばと俺は、右手に持っていたロングソードを背中の鞘に納める。それに平行して左手で腰にあるロングソードを引き抜き、利き手である右手に持ち直した。
「来るがいい悪しき竜よ! このアイゼンが成敗してくれ……うぐっ!?」
……締まらん奴だな。
何かやろうとするとギャグっぽくなるのは、あいつの隠しスキルか何かなのか。
ま、動きを止めてくれたことには変わりない。俺はやることをやるだけだ。
接近しながら剣を構えると刀身が白い輝き始める。
その輝きは刹那の光。この一撃は直撃させなくても剣は砕けてしまう。それだけに確実に直撃させなければ。
問題はどこに直撃させるかだ。
攻撃する箇所によってダメージの通りやすさは異なる。
スライムやゴーレムといったものを除いたモンスターは生物に分類され、生物であるモンスターは頭や首、胸といった場所は弱点であることが多い。
しかし、物理攻撃にも属性はある。
俺の使う長剣ならば《斬撃》、アイゼンの使う棍棒ならば《打撃》、細剣や槍ならば《刺突》だ。
とはいえ、これは実際に攻撃を撃ち込んで確認するしかない。
またVRMMOの多くは、戦闘が長引けば相手もこちらの動きを学習して行動を変化させる。序盤ではボスくらいかもしれないが、このモンスターに限ればその手のことが起きてもおかしくない。
なら……最も狙いにくい頭部を狙ってみるか!
「アイゼンッ!」
「承知!」
走り込んでくる方向から俺の目的を察したアイゼンは、楯を上向きに振り上げ黒竜の体勢を崩す。
俺はふたりの間に出来たわずかな隙間目掛けて跳躍し、最上段から黒竜の頭へ《ブレイカー》を叩き込んだ。
一瞬の静寂――。
確かな手応えと共に白光が飛び散り黒竜が体勢を崩す。
漏れた悲鳴と共にHPが減って行き、先ほどの位置から1割強ほど削り取った。その確認と同時に手にしていた剣は砕け散る。
「そこッ!」
黒竜の幼体が怯んだ隙にアイゼンが《ヘッドストライク》を敢行。その一撃は頭部を的確に捉え、1割ほど削る。ダメージの入り方から予想するに頭部は肉質が柔らかいのだろう。
さっきの《バッシュ》を含めればこれで約3割。
ロングソードは残り6本。これを全て《ブレイカー》で撃ち込めれば倒しきれるだろうが、怯みから回復した黒竜から発せられる圧迫感からしてそう簡単には行きそうにない。
モンスターはAIで動いている。故に心なんてものがあるかは不確かだが、それでも今こちらに向けられている血のような瞳には、怒りのような感情を感じる。
あくまで俺の主観ではあるが。
「やれやれ……ここからが本番って感じだな」
「そうですな。……ですがご安心を。皆様はこのアイゼンが守り切って見せます」
「それフラグっぽいからやめとけ」
お前に死なれたら多分戦闘続行は無理だ。
俺だと黒竜の攻撃は受けきれないし、アリス達を囮にして攻撃するのも人として悪手だ。
同意の上なら問題ないが、それで負けてしまっては顔を合わせにくくなる。
「全員生きて帰る。それが最低条件だ」
「……何だか主人公っぽいですな。若干ときめいた私が居ます!」
ときめくのは勝手だが、その姿でそういうこと言うのはやめてくれ。渋い小父様に言われても俺はときめかないから。
「そういうのはいいから行くぞ」
「承知!」
「グオァァァアッ!」
接近する俺達を威嚇するかのように敵は咆哮を上げる。
その姿は勇者を歓迎している魔王のようにも思えた。幼体とはいえ、さすがは竜だと言える。
ここからの戦いは実に精神をすり減らすものになった。
黒竜の幼体は完全に俺達を敵だと認めたのか、一段と凶暴さを増しアイゼンが攻撃を受け止めてもすぐに回転したりと暴れるようになったのだ。
それ故にこれまでのようには攻撃を撃ち込む隙がなく、かといって何もしなければジリ貧。
そのため俺はどうにか隙を見つけては《ブレイカー》を叩き込んで行った。
ただ頭部に撃ち込んだ時ほどダメージは入らず、残る剣の数は2本。敵の残りHPは約4割……
「これは……頭部にクリティカルでも入らない限り無理かもな」
「諦めたらそこで試合終了ですぞ!」
「けど、ワタシの回復ももうすぐできなくなるわよ。そんなにAP回復用のアイテムは買ってなかったし」
それが最も痛いところだ。
攻撃パターンにも大分慣れてきた今、時間を掛ければ通常攻撃で地道に削りきれそうではある。
だが前線を張っている俺やアイゼンは、どうしてもダメージが入っている。特にアイゼンは攻撃を受け止めているだけにそれが顕著だ。
APは自然回復もするが、さすがに連続でアーツを使用する場面では回復量が足りない。
アイゼンが後退しポーションなどを使って回復する手もあるが、それをすれば前線が俺だけになってしまう。
敏捷の高い仕様にしていたならば問題ないだろうが、今の俺は筋力寄りのステータス。ターゲットが自分ひとりになった場合、連続で攻撃されると生き残れるかどうかは黒竜の気分次第になりかねない。
となると……
「仕方ない……ここは特攻覚悟で頭狙ってみるか」
「ナグモ殿、それはいけません! 全員で生きて帰る。それが最低条件だとご自身で言ったではありませぬか!」
「じゃあどうしろと? 長引いても厳しくなるだけだし、ここまで削ったのに逃走なんてしたくないだろ」
「それは……そうですが」
アイゼンの顔越しに「う~ん……う~~ん……」と悩んでいる姿が見える。
ゲーマーとしての効率か、演じている騎士としての魂の間で揺れているのだろうか。まあ何にせよ俺の選択は変わらないのだが。
「そういうわけで覚悟を決めろ」
「特攻する人から言われるセリフじゃないのですが……仕方ありません。全力でお手伝いしま……!」
「グォッ! グォッ! グォッ!」
アイゼンのセリフを黒竜の火球が遮る。やはり締まらない。
3発の火球の内、2発は前衛に居た俺とアイゼンに向かってきた。回避こそ間に合ったが体勢を大きく崩されてしまう。
残り1発は、回復することで地道にヘイトが高まっていたアリスの元へ。距離があったこともあって直撃はなかったが、次の行動は遅れるだろう。
「グオァァァア……!」
方向を上げながらの突進。その狙いはアイゼンではなく俺だ。
体勢を崩されていたこともあって避けるのは間に合わないと踏んだ俺は、長剣の側面に左手を添えて正面に構える。武器で攻撃を防ぐと耐久力が大きく減ってしまうが、何もせずに攻撃をもらうよりはマシだ。《武器防御》スキルがあれば更に軽減できるのだが、今考えても仕方がない。
黒竜の開かれた顎を受け止める形で突進を受けた俺の身体は、衝撃で少し浮き上がる。
そこから更に押し込まれたこともあり、わずかな時間ではあるが空中を移動。黒竜が自身の身体に制止を掛けるのと同時に、俺は押されていた勢いのまま吹き飛ばされる。
俺は盛大に背中を打ち付け、何度も転がった末にようやく停止することが出来た。状態異常になったわけではないが、頭が揺らされたことで少しふらつく。
「ナグモ殿!」
「今すぐ回復するわ!」
仲間達の声に導かれるように自分のHPを確認してみると、9割近くあったHPバーが3割近くまで減っていた。
それに伴ってHPバーの色が安全ラインを示す緑から、危険を知らせるオレンジに変化している。あと少しでもダメージを受ければデッドラインを知らせる赤色に変わるだろう。
実に……馬鹿げた攻撃だ。
自身の防御力のなさも問題ではあるが、さすが今はそれは考えたくない。
何より無駄なことに思考を費やしている場合ではないのだ。もしも更なる突進や火球ブレスで追撃されれば間違いなく死ぬ。それだけは絶対に避けなければならない。
「黒竜よ、私が相手だ!」
アイゼンが《ウォークライ》を発動したようで、黒竜の幼体はアイゼンの方へと振り向く。
それと同時に俺の身体が光に包まれHPが回復し始める。アリスが《ヒール》を使用してくれたのだろう。
しかし、アリスと視線が合った瞬間に首を横に振られた。APが底を着いてしまったようだ。
これまでの《ヒール》の回復量は平均して3割ほど。
つまり俺のHPは6割ほどまで回復する。ポーションを飲めば全快近くになるだろう。
だが……そうすれば前線への復帰が遅れる。
アイゼンの防御力は優れているが、あの黒竜相手には長くは持たない。直撃をもらわなくても、黒竜がアクションを起こす度に微々たるが確かなダメージが入るのだから。
――なら。
どうせ特攻するつもりだったのだ。回復なんてせずにこの機会は攻撃に使うべきだろう。
右手の長剣を握り直しながら黒竜に向けて走り出す。
制止を掛けるような声が聞こえた気もするが足を止めるつもりはない。
敵の後方に回り込むように接近しながら跳躍。その間に右手に持つ長剣は星屑の煌きのように力強く白く発光する。
「はぁぁッ!」
背中を更に踏みつけて頭部の方へと跳び、空中で1回転しながら黒竜の頭部へと白光する長剣を叩き込んだ。
黒竜は悲鳴を上げ、それに伴ってHPが減少する。
着地と同時に硬直時間が課せられるが、それが解けるのと同時に残っている剣を引き抜き
「アイゼン、そこを退け!」
振り返ると横へと動きつつあるアイゼンと、怯みから回復した黒竜の姿が見えた。
こちらに噛みつこうとする黒竜。
それにカウンターで合わせられるかは、タイミング的に紙一重だ。だがここで止まれば攻撃をもらうだけ。
ここで少しでも早く届くように意識的に身体を動かして《ブレイカー》のモーションを加速させるしかない。
「せあぁぁッ……!」
体感にしてほんの数コンマの違いだっただろう。
そのわずかな差で俺の長剣が先に直撃し、ずしりとした手応えを感じた直後、白光の煌きと共に黒竜の頭が弾け飛んだ。
――これで終わってくれ。
その願いと共に手にしていた長剣はひび割れ、崩壊していく。それに平行して敵のHPバーが減少していく。残り2割……1割……
「……グルル」
低い唸り声と共に怒りに満ちた視線が俺を射抜く。
あとほんのわずか。数ドット分ほどHPが残ってしまった。
ここまでくれば倒せるのは間違いないだろうが、すでに黒竜は俺に反撃しようと動き出している。この攻撃が直撃すれば、俺は間違いなく死ぬ――
「――《
気合の入った声と共に鎖状の光が黒竜を束縛する。
契約するにしてもだが、この状態になれば一時的にしろ敵は拘束状態になる。俺にとって体勢を立て直すチャンスだ。
黒竜の幼体が激しく抵抗する中、残りHPがわずかなせいか順調に魔法陣の生成は進む。
だがいつ壊れるか分からないだけに仕留める準備はしておくべきだ。
と言っても俺に残っている武器は、耐久値が残り少ないアイアンソードのみ。黒竜の硬さを考えれば次の一撃で壊れてしまうだろう。
だがそれで構わない。
今は武器のことよりもこの戦闘を無事に終わらせることが先決だ。
急いでアイテム欄を開いてアイアンソードを装備。出現したそれを引き抜きながら構え直すと……黒竜が光に包まれ、その光は空へと駆け上がった。
無事に契約が完了したのだ。
これまでのモンスターと違って大量の経験値やゴールド、レア度の高いドロップ品が手に入る。
「……やった……やったよ! 少しでも拘束出来ればと思った契約を試みたけど、契約出来ちゃった!」
ルシアは中二病チックな言い回しの全くない素の状態ではしゃぎまわる。
苦労しての契約、しかもレアモンスターとの契約なのだから当然と言えば当然か。
何というか……確率は収束するというが、まさかこういう展開になるとはね。
まあ……あの笑顔を見られたと思えば苦労した甲斐があるってもんか。
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