第9話 「次の目的」
ルシア達との口論もとい普段通りのやり取りを終えた俺は、近くの店を覗き込んでいたアリスに話しかけた。
そのあと今後どうするかの話になり、それぞれのレベルやスキル構成をまず共有する。そこから各自やりたいクエストなどを順番を決めてこなせばいいのでは……というように話は移り変わって行った。
しかし、ゲームを始めたばかりのアリスはそれほど情報を持っていないこともあり、みんなのを手伝うと主張。アイゼンも装備的に見ても一段階進んだ状態なので他を優先すると口にした。
必然的に俺かルシアの意見が最優先される展開だが……
「ルシア、お前が優先でいいぞ」
「え……どうしたんだいナグモくん? 天上天下唯我独尊で傍若無人な言動が多くなってきている君らしくない発言だぞ」
「何でそんなに狼狽えた顔をするんですかね」
俺が他人を優先する発言は怒りを超えて心配するレベルのものなの?
そう思ってるなら心外ですよ。本当に俺様系自己中心型の人間ならお前の相手とかしてませんから。自分の好きな奴とだけ付き合ってますからね。
「理由が欲しいの? 理由がないと納得できないの? じゃあ言ってあげますよ。この中であなたが1番扱いに困るからです」
「ふ、我は堕天し地上に舞い降りた者。そのへんの有象無象と比較されても困る」
「いや人間性じゃなくて……人間性的にも扱いにくい方ではあるけど、今はプレイヤー的に扱いにくいって言ってるの」
「さらりと人間としてもダメだって言ってますけど! というか、何で私がダメなのかな? レベル的にはアリスさんの方が下じゃないか!」
それはそうですけど……始めたばかりのアリス相手にムキになるのはどうなのかね。
それにさ、アリスの選んでるスキルは《白魔法》と《回復強化》……つまり回復役なのですよ。後方支援なわけです。レベルが低くても多少なりとも仕事はできるのですよ。
しかし……
「アリスは回復で支援できるけど、お前これといって出来ることないじゃん。契約してるモンスターが増えてるならともかく、あれってスキル熟練度上がらないと何体も契約できない仕様だろ?」
「うぐ……それは」
「ナグモ殿、ちなみにルシア殿は何と契約しているのですかな?」
「フィーブルラビット」
「なんとぉッ!?」
「あら、その反応はもしかして凄いモンスターなの?」
「ええ、凄いですぞ。フィーブルラビットはモンスターの中で最弱系モンスターであり、少しでも情報を仕入れているプレイヤーなら誰も契約しようとはしないモンスターです!」
言ってることは事実だろうけどさ……そこまで力説する必要ってある?
ルシアがそこまで言わなくても……って凹んでるはいいとして、聞いてた俺やアリスはうるさくて仕方がなかったよ。
君はもう少し周りを気遣うことを覚えなさい。
老騎士ならば周囲への配慮だって出来るものでしょ。スキルだって怯ませやすいアーツが多い《片手棍棒》に注意を引いたり生存力を上げる《盾》、防御面を強化してくれる《防御の心得》と壁役的なものを中心にしてるんだからさ。人のために生きようとしてるんでしょ。
ちなみにどうしてアイゼンだけスキルが3つもあるかというと、彼のレベルは11。
つまりスキルスロットがひとつ増えているのさ。
単純にステータスだけで考えれば俺達の最大戦力……徹夜でやり込む人間と張り合うつもりもないが、俺も早くレベルを上げたいぜ。
「確か初期の頃に契約できるモンスターの数は2匹。フィーブルラビット以外にもすでに契約されているのであれば、フィーブルラビットを破棄して違うモンスターと契約することをオススメしますぞ!」
「い、嫌だ! あのフィーブルラビットは零次くんと一緒に初めて契約したモンスターなの。まだあの子以外契約してないし、あの子を破棄なんてできない! したくない!」
えー……そこまで思い入れあったの?
あいつって目の前に出てきたから契約してみますかって流れで契約した奴だよね?
普通に考えたら破棄して別の奴と契約した方が良いと思うんだけど。
というか……おいそこの色んな意味で中身が違う老騎士にオネェ口調な優男、ごちそうさまですって顔で見てんじゃねぇよ!
別に俺らの間には何もないからな。
ぼっちだった頃に仲良くなったのが俺だから他より懐いてるだけで。
でも……こいつの親御さんにはこいつのこと頼まれてるんだよな。更生だけならともかく……もしかして将来的なことでも頼まれてる?
ははは、まさかね……。
だってこいつ見た目は良いし、頭も良いわけだから俺じゃ釣り合わないっすよ。
「零次くん……」
「本名出てるからね。でもそれ以上に泣きそうな顔でこっち見ないでくれるかな? 破棄しろとか別に言わないから。そのへんはお前の意思を尊重するから」
「ヒューヒュー!」
「老騎士、てめぇ学校で会ったら覚えとけよ」
「え、そこまで怒ります!? というか、今すぐじゃなく地味に時間を置かれた方が怖いんですが。やるなら今やって欲しいんですけど」
「やれやれ、あなたのMっぷりも日に日に磨きが掛かって行くわね。そのうちナグモのことご主人様なんて呼びそうだわ」
「アリスさん、あなたは何てこと言うんですか!? 私をいったい何だと……まあ老騎士の設定的に主人が居ても問題はありませんし、あちらでメイド服を着てご奉仕するのもやぶさかではないですが」
…………Mじゃん!?
思ってた以上に生粋の服従体質じゃん!?
「うん? あの……何で皆さまそんなに引いた目をされているんですか? 言っておきますけど、別に私は零次さんからあんなことやこんなこと……そんなことまでされたいとか思ってませんからね!」
「そんなこと? ……ナグモ気を付けなさい。あれは多分あなたをオカズにしてる可能性があるわ」
「な……んだと」
「アリスさん、そういうこと言うのやめてもらえませんかね! 零次さんも真面目に受け取らないでください!」
「別にいいじゃない。想像は自由なんだし、あなたも逆にオカズにされてるんだから」
「いやいや、頭の中でなら自由ですけど言葉とかにしちゃったら色々とアウトなこともありますからね! 零次さんも何か言ってくださいよ。困るのはそちらも同じでしょ!」
えっと……ごめんなさい。
正直に言うと……あなたであれこれ考えたことあります。
だってそれなりに美人だから。そこそこに俺の好みだから。俺も思春期の男の子だから。
「え……あの……もしかして」
「いやいや、さすがに一線は超えてないぞ。あれこれ考えたことがあるのは認めるが、さすがにオカズにするのは罪悪感というか……無理だなって」
「その言い方だと私じゃ抜けないって言われてる気がするんですけど! 女として魅力ないって言われてるみたいで釈然としないんですけど!」
ならお前をオカズにやってるよ! って言えばいいですかね!
普通の奴は無理だからね。遠目で眺めてる憧れの人とかならまだあれだけど、よく話す身近な存在をオカズにするのって罪悪感とか色々湧いちゃうから。
「もう、話が変な方向にずれてるじゃない。今はこれからどうするかを話すんでしょ」
「ずらす最大の原因はあなただぁぁぁぁぁあッ! ……の、喉が」
「そういう勢いで何でもやっちゃうの直した方がいいわよ。ここではまあ見た目とのギャップくらいしか問題ないからいいけど、あっちだと異性が寄って来なくなるから」
「……零次くんの知り合いって濃い人だね」
お前も濃い人に入るんだけどね。それとこっちの世界ではナグモだから。
今はまだ俺達に興味を持つプレイヤーなんて皆無だろうからいいけど、今後はどうなるか分からないんだしその癖は直そうね。
まあ……今はお前よりもあっちの老騎士の方が若干問題としては上に思えているが。
「おいアイゼン、今度アイスでも買ってやるから今は落ち着け」
「300円のですか!」
「いーや100円のだ。高価なアイスは自分の金で買いなさい」
「ぐす……今月は色々と出費があるのに」
だったらその趣味に使うお金を少しは回しなさいよ。
趣味に金を使うなとは言わないけど、まだ学生なんだから……まあお前が手伝いとかしてお小遣い稼ぎしてるのはしてるけどね。
そのへんは偉いと思うよ。散財しまくる性格は将来を考えると不安にもなるけど。
「話が色々と逸れたが……これからやることとしてはルシアの戦力補充。新しいモンスターとの契約ってことでいいか?」
「ワタシはいいわよ」
「我にとっても新たな力を得られる機会……是非もなし」
「老騎士さんは? 出来ればオススメのモンスターとか知りたいんだけど」
「そう言われたら仕方ありませんな。このアイゼンとしましては、ワイバーンベビィがオススメですぞ。竜種なので序盤にしてはステータスは高めですし」
立ち直るの早ぇ……まあそこが良いところでもあるけど。
でも悪い奴に騙されたりしないかちょっと不安だ。正しい意味かは分からないけど、ある意味ではこいつってチョロいし。
「どこで出るんだ?」
「ここから北東に向かった先に渓谷です。出てくるモンスターは最低でもレベル6はありますが、アリス殿は後衛で回復役ですし、私やナグモ殿が頑張れば何とかなるでしょう。道中で多少レベルも上がるでしょうし……やばいと思ったら戻ればよいだけです!」
「力入れることそこじゃなくね?」
「なあ我が盟友よ、今のアイゼン殿の言い回しは私を戦力外しているように思えたのだが?」
「今のお前は戦力外だよ」
「バッサリ!? ……まあナグモくんらしいけど」
その嫌だけど少し嬉しそうな顔やめてくれませんかね。どう対応すればいいか分からないから。
それよりもさっさと出発しますよ。ゲームの中とはいえ現実世界と流れる時間は変わらないんだから。
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