第8話 「美しさは罪?」
ムラマサと今後の商談を交わし、無事に長剣を購入するとタイミングを見計らったように明日葉ことルシアから連絡が入った。
手短に待ち合わせ場所を決めると、ムラマサと別れを告げて俺とアイゼンは移動を始める。
そのあとのことを掻い摘んで説明しよう。
ルシアは俺以外にも一緒の行動する友人が居て嬉しさと楽しさにワクワクしながらも、まだそれほど交流があるわけでもないので不安も抱えていたようだった。
そのため普段ならそこまで驚きはしなかったのだろうが、アイゼンと顔を合わせて中身が撫子と分かった瞬間、驚きのあまり中二病チックな言い回しのない状態がしばらく続きましたとさ……チャンチャン。
そして現在、俺達3人はアリスを待っている。
つい先ほどキャラメイクが終わったということで連絡が来たので、現在地を返信しておいた。
果たしてアリスの姿はどんなことになってるのやら。
アイゼンのように性別が逆転している可能性はすでに考慮しているので何が来ても驚きはしないとは思うが……
「あっ……居た居た。待たせてごめんなさいね」
爽やかな声と共に現れたのは見慣れた優男――ではなく、煌びやかな雰囲気を纏った長髪のプレイヤー。胸こそ平坦だがすらりとした背丈にそれに見合った長い手足、ウェーブの掛かった長い髪は歩く度にリズムを刻んでおり実に可憐だ。
これで胸があればどこぞのお嬢様!? となっていたことだろう。
俺からすれば髪が長くなったアリスでしかないのだが。まあそのへんのモデルよりも綺麗なのは甘んじなくても認めよう。
「ちょっと髪型を決めるのに時間が掛かっちゃって……どうしたの? 何だかひとりを除いて固まってるみたいだけど」
「ア……アリスさんですよね?」
「そうよ。な~に髪型を変えただけで分からなくなったの? 全く……それじゃ友達とは言えないわね。ワタシはあなたがそんないぶし銀な叔父様でも分かってるというのに」
「何ですと!? く……さすがはアリスさん。常に私の予想を超えてくる」
アイゼンさ~ん、中の人が出てきちゃってます。今すぐアイゼンさんに戻ってくださいな。
それと……アリスはお前のこと分かってるって言ったけど、俺が事前に伝えておいただけだからね。お前のことで一悶着あるのも面倒だったし。
アリスよ……ウインクしてアピールしなくても教えたことはバラさないから安心しろって。もう十分に騒いでるのにこれ以上騒がれるのも嫌だし。現実でならまだ見た目があれだから許せたけど。
「ろ、老騎士よ……彼女? 彼? ……は本当に男なのか? 我が眼は真実を見通せているのだろうか?」
「お気持ちは分かりますぞルシア殿……しかし、我らの眼は真実を映しております。髪型などは変えておりますが、間違いなく目の前に居られるのはアリス殿です。男なのです!」
このふたりは何で泣きそうな感じになってるんですかね。
そりゃあパッと見綺麗だけど、アリスは男ですよ。そしてあなた方は女。比べる必要ってありますか?
なんて口にしたら殺意を向けられそうなのでやめておきます。これはきっと多分美意識の問題でしょう。
むしろ……あの中身が一般的でないふたりがアリスを見てショックを受けているのは、ふたりにも最低限女としての自覚があるということ。それが分かっただけでもプラスなんじゃなかろうか。
「あらあら、何やら嫉妬されちゃってるみたいね。美しさは罪って本当なのね」
「こらこら、そういうこと言うと敵意が増すだろ」
「増していいじゃない。老騎士さんの中身は素材は良いのに欲望に負けてすぐ散財、自分磨きを怠るダメな子なんだし」
「ぐはぁあッ……!?」
「そっちの彼女は中二病チックな仮面がないと人と触れ合えないみたいだし。まあ中学生の頃よりは女らしくなってるみたいだけど」
「ふっ……我は時と共に成長する。過去の我と同じと思わないでもらおう」
「なら今度ナグモとデートでもしてきたら?」
「デデデデデデート!? そ、それは……その……あの……ハードルが」
いやいや、何を今更テンパってらっしゃるんですか。
俺の記憶が正しければ、これまでに何度か一緒に出掛けたことありますよね。眼帯にノンフィンガーグローブ、ロングコート……といった痛い過ぎるあの時代とか一緒に服を買いに行きましたよね。
それに……つい先日このゲームを一緒に買いに行ったばかりじゃないですか。
あれも考え方によってはデートですよ。男女が一緒に出掛けたらっていうライトな見方だけど。でも世の中にはそれだけで「ぐぬぬ……何であいつだけ」と嫉妬する輩も居るのです。
「アリス……いやアリス」
「いつもなら触れないでおくことだけど、何で言い直す必要があったのかしら?」
「ついあっちで呼ぶように呼んでしまったが、こっちの世界の名前はどうしてるのだろうか? 何だ一緒か……じゃあいつもどおりでいいや。という感情の流れがあったからだな」
「もっと簡潔に言えそうだけど、まああなたのそういう言い回し嫌いじゃないわ。ワタシを含め濃いメンツと関わるには必要なスキルのひとつかもしれないし」
さすがアリス、よく分かってる~。
でもさ……アリスもそこの中二病チックな少女と、外見と中身がふたつの意味で釣り合ってない老騎士と同じ濃いメンツなの?
オネェ口調なだけで常識人の範囲に居る人じゃないの? もしかしてまだ本性隠してる?
もしそうだったら……俺は一度自分の交流関係を考え直すべきかもしれない。
異常な空間を異常だと思わなくなったらそれは俺が進化したのではなく、俺までも異常になってしまったということだ。
俺は濃いメンツと絡めるが常識人のはず……そのはずだ。
「時に我が盟友よ」
「…………」
「我が盟友よ」
「…………」
「我が……盟友…………ナグモくん」
あぁーさっきから呼んでたの俺だったのね。
盟友ってフレンドのことかと思ったからアイゼン達に話しかけてるのかなって思っちゃったよ。
なんて嘘です。
俺の隣に来て話しかけてきたら、そりゃ話しかけられてるのが自分だって気づきますよ。
でもさ……俺にだってひとりでゆっくり考えたい時間が欲しいのです。
ならログアウトしろ?
おバカ、そんなことしたら一緒の居るメンツに失礼でしょ。ログアウトするにしても一言断りは入れるべきです。
礼儀は大切だよ礼儀は……ならルシアの相手もちゃんとしろってね。
言われなくても分かってますよ。現実逃避はここまでします。さて、切り替えていきますかね……
「どうしたんだいルシアちゃん?」
「その君は……ちゃん? ルシアちゃん? ど、どうしたんだナグモくん。君はそんな爽やかな笑顔で私に話しかけてくる人じゃないだろ!?」
「ひどい言われようだな。これからは気持ちを入れ替えて君と接しようとしているのに……やっぱごめん、これ以上は無理」
「逆に怖かったから終わってくれたのは嬉しいけども! でもせめてもう少し頑張って私がやめてって言ってから終わらせようよ。今のだとまるで私に笑顔を向けるのが苦痛みたいじゃないか!」
すまない。
向ける理由があるなら問題ないんだが、理由もなくお前やアイゼンに笑顔を向けるのは凄まじいエネルギーを消耗するんだ。
何で俺こいつに笑いかけてるんだろうって冷静な自分が邪魔をするんだ。すまない、本当にすまない……。
「……それでこれからどうする?」
「それで、じゃない! 日に日に君の傍若無人さが増しているように思えるのは私の気のせいかな。それで常識人だって言えるのかな!」
「毎度こんなやりとりだし、俺としては話を進めてるだけなんですがね。……で、ルシアくんは何を聞きたいの?」
こーら、そんな反抗的な目で見ない。そんな子に育てた覚えはありませんよ。
え、私以上にキャラがブレブレ?
はっはっは……こうやって息抜きしないと俺の精神が持たないんです。
俺も中二病チックだったり、欲望に素直な人間になれたら楽なんだけどね。そうなるには君達よりも強い理性が邪魔なのですよ。
「我が盟友ルシアよ、聞きたいことがあるならば臆せずに言ってみるがいい! ……ルシアは何が聞きたいの?」
「何で言い直すの!? 良いよ、今の感じ凄く良い。私と一緒に居る時はずっとそれでやってほしい!」
「あっ、ルシアさんだけずるいです!? 私にもそういうテンションで接してほしいです!」
何なのこの子達……僕と同じ境界線に生きてる?
アリスさん、そんな温かい目でこっち見ないでください。別に大人気とかじゃないですから。人気にしたって恋愛絡みで人気になりたいよ。創作の中ならともかく現実であまりドロドロした関係になるのは嫌だけど。
「うん、しない。今後はもうしない。そういうわけで話を進めましょう。ではルシアくん、質問をどうぞ」
「む……いつもそうやって」
「ですよねー。少しくらい私達にデレ多めで接してくれても罰は当たらないでしょうに」
「だよね。まあそんなだから彼女が出来ないんだろうけど」
「あ、それ言っちゃいます? もうルシアさんも悪ですね~」
……何だろうね。
この胸の奥から沸々と沸き上がってくる感情は。右手が剣に伸びそうになっちゃうよ。
「愛想のない男ですみませんね。彼氏いない歴=年齢のお姉さん方」
「ぐぬぁわ……!?」
「うぐ……!? わ、我が盟友よ。いくら盟友とはいえ言って良いことと悪いことがあるのだぞ」
「先にその手の話をしたのはそっちじゃないですか~……つまり白黒はっきり付けたいんでしょ?」
「やれやれ……これは少し長くなりそうね。そのへんのお店でも見てこようかしら」
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