第4話 「初戦闘と契約」
街を一通り回った俺は、ルシアとパーティーを組んでモンスターが出現する外に出た。その際、適当に見つけた店で回復アイテムであるポーションを可能な限り購入してる。
故に……残金はすでに雀の涙程度。
つまりモンスターを倒して資金を稼がないと街の中を楽しむことは出来ないわけだ。単純に戦闘がしたい気持ちでこの場に居るがな。ところで……
「ルシア……お前はいつまでついてくるつもりだ?」
「愚問だね。そんなの君の魂が帰るべきところに帰るまでに決まっているじゃないか」
何それ俺が死ぬまでずっと一緒に居るってこと?
やだこわーいストーカー。お巡りさん、ここにストーカーがいます。助けて~!
と、ふざけてやろうかとも思ったがやめた。付き合いが長いせいで、ログアウトするまでは一緒に居たいと言っているのが理解できてしまっているし。
「あっそう」
「なあナグモくん……もう少し興味がある返事をしてくれないかな。それかいつものように冷たい返しが来た方がまだ私としては嬉しいのだが」
「ふざけたらいつでも相手してもらえると思わないでください。甘やかすのは可愛げがある子だけです」
「突然丁寧語なのはさておき……私には可愛げがないと言いたいのかな?」
「ふ……それこそ愚問だな」
お前のどこに可愛げがあるというのだ。
やめろと言っても中二病チックな言い回しをやめないだけでなく、唐突に絡んでくるお前に可愛げなぞ感じるわけがないだろう。
まだ京華に我が侭言われる方が可愛げを感じるわ。あちらは年下+血の繋がりもあるからな!
あ、でも別にシスコンとかじゃないからね。
こいつと比べたらって話であって、可愛げだけなら京華のクラスメイトとかの方があるから。部活やってることもあって礼儀正しい子が多いし。
「ところで……」
「ところで? いやいや、まだ話は終わってな……」
「俺の中では結論出てるから。確かにお前に可愛げを感じる奴もいるだろう」
お前の両親とか、お前と話したことがなくて外見だけで良いなって思ってる奴とかね。
「だが……現状俺の中でお前に可愛げは感じん! 絶対に!」
「そこまで力強く断言しなくてもいいじゃないか! 君は私のことが嫌いなのか!」
「別に嫌いじゃないさ」
「ナグモくん……」
「今のままだとこれ以上好きにもなれんが!」
「そういうのまでは求めていないから! 一言余計というかオチまでつけなくていいから。あともう少し抑揚の幅がある声で言って。冗談に感じにくい!」
え……冗談だと思ってるの?
俺としては本音を言ってるからそう受け取られるのはかえって困るというか……もっと徹底的にやらないとダメなのかな。
でもこいつって俺以外に友達いなさそうだしなぁ。
今度学校で適当に繋がり作ってやるか。俺もそんなに友達多くはないけど、多少なりとも居るし。
「何だか急に生暖かい目で見られ始めたような……ナグモくん、君はいったい何を考えているんだい?」
「まあ気にするな。お前にとって悪いことじゃないから」
「そう言われると逆に悪いことを想像してしまうんだけど」
「それでお前ってどうやって戦うつもりなわけ?」
何やら言ってるけど強引に話を進めます。
モンスターが出現する場所で世間話ばかりしているわけにはいきませんので。死んだらアイテムやらドロップしちゃうわけだから。
「……こうして接していると、君も私とある意味では同類に思えるのは気のせいなのかな?」
「自分を完璧な善人だと言うつもりはないが、さすがに君よりは常識人だぞ」
「常識人はそんな純度の高い作り笑顔を人には向けないと思うのだが……うん、分かった答えるよ。答えるから無言の圧力を掛けるのはやめてくれ。君に迫られると恥ずかしい……眼帯がないから」
眼帯の部分がなければなかなかにキュンとしそうな言い回しだったんですけどね。
残念系美少女ってこいつみたいな奴のことを言うんだろうな。それと一緒に居る俺も残念な人間なのかもしれないが……ハハハ、こう考えると彼女とか欲しくなる。
「じゃあ答えてもらおうか。答えないとその前髪を上げてガン見してやる」
「なっ……くっ、何て卑怯な脅し方をする男なんだ。剣帝をリスペクトしている者がやることか!」
「あのね、別に難しいこと言えって言ってるわけじゃないんだからさっさと答えなさい。あとさっきも言ってたけど、お前は何を俺に重ねてるんだ?」
「それは私の愛読書である《堕天使ノ見つめるセカイ》というライトノベル出てくる7本の剣を操る最強剣士」
「あぁうん、オッケー。それ以上は言わなくていいや」
「せめて名前までは言わせてよ! 私の中でもトップを争うバイブル的ラノベなんだし、零次くんが思ってるよりも凄く面白いんだから!」
「分かった、なら今度貸してくれ。だからとりあえず落ち着こうな」
素に戻ってるし、何より俺のリアルネーム出しちゃってるから。
あと関係はないけど、多分ルシアって名前はそのラノベから持ってきてるんだろうな。
タイトル的にルシファーをモチーフにしたキャラが居そうだし。
まあプレイヤーネームなんて人を不愉快にしなければこれといって規制を受けないものだし、別に何でもいいんだけどね。
「……で、お前はスキル何を取ったの?」
「フフフ……それは《召喚獣》と《指揮》さ!」
無駄な様になっているポージングについては触れないでおくことにして、《召喚獣》と《指揮》か。
確か……《召喚獣》はモンスターに対して契約を試みることが出来るもので、成功すればそのモンスターを使役して共に戦えるスキルだったはず。
召喚やモンスターに特殊行動される際は他のスキルと同じようにアーツポイント――通称《AP》を消費したはずだ。
それで《指揮》の方はパーティー内にバフを掛けられるスキルだったかな。
この効果は召喚されたモンスターとかも含まれたような気がする。となると……
「……今のお前戦えないじゃん」
「た……戦えなくはないよ。素手でも攻撃判定はあるみたいだし、注意を引くくらいのことは」
「武器と素手、どっちの方がダメージ稼ぐと思ってるの? もう俺ひとりでやるからお前は街に帰ってなさい」
「そんなこと言わないでよ! 今の私には君しか頼る相手がいないんだ。せめて1体契約するまで手伝って。モンスターを弱らせておくれよ!」
えぇい、鬱陶しい!
絡みつくように引っ付いてくるな。お前がまな板ならともかく、それなりに女性らしい体つきなんだからドキッとしちゃうだろ。
「分かった、分かったから離れてくれ。重たくて敵わん」
「し、失礼だな君は。私はそんなに重くないぞ」
いやいや、俺はアスリートじゃないから。部活動すらしてない高校生だから。
人並みの力はあるとは思うけど、女子高生に思いっきり体重掛けられたら普通に重いと感じちゃいますって。幼稚園……小学生の低学年までくらいならどうにかなるかもしれないけど。
「そんなことよりモンスター探すぞ……何でそんなに睨んでるんですかね?」
「言う必要ある?」
「ないな」
女子にとっての体重はそんなことって言葉で片付けていい話じゃない。
なんてことで怒ってるんだろうし。さすがに俺もそれに気が付かない鈍感さんじゃありませんから。だからって対応は変えないけどね。だって話進みそうにないんだもん。
というわけでモンスターを探して移動を開始した。
他のプレイヤーが周辺のモンスターを狩ってしまったのか、なかなか遭遇できない。若干拗ねて少し後ろを歩いていたルシアも隣に並んで話しかけてくる始末だ。
「なあナグモくん、いつになったら我が最初の契約獣と出会えるのだろう?」
「そんなこと俺が知るわけないし、最初になるとは限らないぞ。倒す可能性もあるんだから」
「え……我が契約に協力してくれると言ったではないか!」
「するけど、失敗したら倒すしかないでしょ?」
君は1発で成功すると思ってるの?
それはちょっと甘く見過ぎじゃないかな。いくらこのへんに居るモンスターが弱いといっても、こっちだってスキル熟練度は上がってないんだよ。1発で成功する確率はどう考えても低いでしょ。
故に……ポジティブ思考は良いことだけど、こういうのは悪い方向に考えておいた方がダメージが少ないと私は思う。
「というわけで……運良く目の前に現れたウサギ型モンスター《フィーブルラビット》とは倒すつもりで戦います」
「いやいや、そこはまず契約を……!」
「お前はモンスターを捕まえて育成しながら進めるRPGでいきなり捕獲アイテムを使う愚かものなのか。アドバイザーが毎度の如く弱らせたり状態異常にしろと言ってるだろ!」
「でも君は殺すつもりなんだろ! HPをギリギリ残すような技を持ってない相手を信用できるわけないじゃないか!」
そりゃあまだレベル1ですし、その手のスキルも取ってませんからね。
そもそも……峰で打ち込もうがHPは残らんと思うのですよ。現実で考えたら普通に骨とか折れるし。まあゲームの中の話にそんなの言っても仕方ないんだけどね。
というか……そういう仲間が欲しいならテスターさん達を見つけてパーティー組んでください。俺はあなたに優しくもなければ都合の良い仲間になるつもりはありませんので。
「では……抜刀」
「まだ話は終わってない!」
終わりそうにない話を続けても時間の無駄じゃないか。
それにモンスターは時間さえあればいくらでも湧いてくる。倒して何が問題あるのだ、いやない。むしろ経験値やアイテムが手に入るだろうから良い行いだ。
まあ……このモンスターはこっちから襲い掛からなければ攻撃してこないし、見た目もリアルなウサギに近いから抵抗は覚えるけど。
だがここは心を鬼にして……斬ッ!
「な……んだと」
まさか武器を使った攻撃で10分の1も減らないとは。
ちょっと駆け出しプレイヤーに厳し過ぎませんか。それにこのウサギ、斬ったら可哀想な悲鳴を漏らしたし、あまり何度も斬りたいと思えないんだけど。
というわけで、ここはアーツを使って一気に片を付けましょう。
今俺に使えるアーツは《長剣》スキルの《バッシュ》。それと《破撃》スキルの《ブレイカー》だ。
威力だけなら武器を犠牲に放つ《ブレイカー》の方が高いだろうけど、下手をしたら殺す可能性があるからなぁ。
「やれやれ……」
ギリギリを狙って死んだのならともかく全力で殺しに行ったらルシアさんがうるさそうだし、ここは《バッシュ》を使うことにしましょう。
ちなみにこの《バッシュ》というアーツ、色んな武器スキルの初期アーツとして使える。
だがいくつもの構えがあり、それによって相手に与える効果が変わったりするのだ。使用するAPも少ないし、発動後の硬直も短い。初期アーツとはいえ馬鹿にできない技だと言える。
スキル熟練度以外にもアーツごとの熟練度もあるこのゲームでは、極めればとても使い勝手の良いアーツになるだろう。
そんなことを脳内の端の方で考えながら無数にある《バッシュ》の構えの内、上段から叩き込むスタイルの構えを取る。
それに伴って手にしていた剣が赤い色を放ち始め……
次の瞬間――。
「ふ……!」
システムのアシストを受けて加速し、ライトエフェクトを纏った剣がフィーブルラビットの頭蓋に叩き込まれた。
直撃したフィーブルラビットは、飛びように転がりながら後退していく。
「ふむ……減少したのは6割くらい。最初の攻撃を考えると1発で半分くらい削れる感じか」
となると……《ブレイカー》を使わなくて正解だったと言える。
近接武器汎用スキルである《バッシュ》、しかも初めての使用であれだけのダメージが入ったのだ。もしも《ブレイカー》を使っていれば殺してしまっていてもおかしくなかった。
それにしても……やっぱりVRは良い。
こういう必殺技をぶち込んだ時に感じられる手ごたえが堪らん。もう1発ぶち込みたくなってくる。
「おーいナグモくん、君の顔が少し戦闘狂じみてきてるように思えるのは私の気のせいかな? 私との約束忘れてないよね?」
「覚えてる覚えてる。あのHPで良いならさっさとやってくれ。失敗したらその瞬間にアーツ撃ち込むから」
というか、たかがアーツ1発撃っただけで戦闘狂ってひどくない?
今の発言だって失敗したらすぐにこの戦闘を終わらせるって言ってるだけなのに……何で若干引いた目で見られてるんだろうね。
などと思っていると、ルシアはこちらから意識をフィーブルラビットに向け直し両手を正面に構える。すると空中に青色の魔法陣が形成され始めた。
「我が名はルシア、人と魔を繋ぐ者為り! 汝が我が声に応えるならば、その証として汝の魂の楔を我が元に――《
魔法陣から鎖状の光が複数放たれ、フィーブルラビットに絡まっていく。
フィーブルラビットが抵抗する中、鎖は地面へと突き刺さり新たな魔法陣を形成。その形成が完了するの当時に光の柱が空へと走り、フィーブルラビットの姿は消えた。
戦闘終了を告げるウィンドウが現れ、経験値などが手に入る。
そこにルシアがフィーブルラビットと契約したという一文があったので、契約は無事に成功したようだ。
「やった……やったよナグモくん、記念すべき召喚獣第1号だ!」
「そうだな。全モンスターの中で最弱を争うであろうモンスターだが」
「そういうのは言わなくていいから。えへへ……名前何にしようかな? ナグモくんと一緒に契約したから……」
「うん、俺がどうこうってのは考慮しなくていいからね。あと大分素に戻ってるよ。俺の記憶が正しければ、別に契約する際に詠唱とかなかったよね? 素に戻って恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいと思うのなら突っ込まないでくれるかな!」
だって普段と違う方向で暴走されても困るし。
俺が対応できるのは中二病チックな言い回しをするお前くらいだから。普通の女子みたいな言動で暴走されたら何もできまへんって。
「まあ……これでそっちも戦えるようになったし、ここからはモンスター狩りしますかね。休日くらいしか思いっきり遊べないんだし」
「確かに平日は学校に拘束されてしまうからね」
「そうそう……」
部活をやっている従妹よりは時間はあるんだろうけど、あっちは集中力が凄いからな。気が付いたら俺よりもレベル上なんてことにもなりかねない……そうなったら
『レイ兄、まだそんなレベルなの? こっちよりもする時間あるよね?』
なんて言われるに違いない。逆に俺のレベルが高くなりすぎると
『そんなにゲームばっかやってていいの……』
そのような冷たい言葉が飛んでくる。
別にええやん俺の人生だもの。というか、俺に張り合うのやめて。俺はお前と張り合うつもりないから!
「ふぅ……年下の面倒を見るのは大変だ」
「どうしてそんな話になったんだい? 私は君とは同い年なんだが」
「……手間がかかるという意味では年下感はあるぞ」
「君は本当に失礼な奴だな! 並の高校生よりは育っているというのに!」
「そんなことを異性に堂々と言ったり、すぐにムキになるところがお子様なのですよ」
「ぐぬぬ……って、こら! ひとりで先に行こうとするな。まだ話は終わってないだろう!」
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