第3話 「フレンド登録」

 周囲に広がっていた光が収まるにつれて、西洋風の光景は広がり始めた。

 この手のゲームは中世風の街が中心であることが多いが、見た限り近代的な建物や和風の屋敷も確認できる。資金さえあればマイホームも買えるらしいので、色んなデザインがありますよと暗に伝えているのかもしれない。

 和洋折衷はちょっと……、と思う者も居るかもしれないが最初の街なんて何かに特化して作られてるものでもないだろう。プレイヤー達だって初期装備とはいえ、その見た目は千差万別なのだから。

 俺はそこまでこだわらないからすぐ決めたけど、洋服だけじゃなく和服などもあったのだから迷うプレイヤーも多いだろうし。


「……にしても」


 やっぱりプレイヤーが多い。

 誰もが最初《始まりの街》の中央広場にログインするせいか、どこを見ても人、人、人……。

 数千人規模のマンモス校に通ってるわけじゃないし、住んでる地域も都心部からは離れてる方だから人口密度が高いと人酔いしそうになるんだよね。これまでに何度か似た経験があるから耐えられるけど。

 とりあえず……適当に街を見て回るか。

 俺はβテストを体験していないので最初から効率良く攻略出来るわけではない。

 ある程度のことはネットを確認すれば分かるのだろうが、百聞は一見に如かずだ。見ただけじゃ分からないこともあるし、βテストと変わっているものもあるだろう。

 故に……当分はこの街を拠点にのんびりと進めるつもりだ。自分のペースで楽しむ。それが1番だと俺は思う。

 さてと、移動しますかね。

 いつまでもここに居ても他のプレイヤーの邪魔になるし、耐えれるとはいえ人口密度の高い場所に居たくはない。

 他のプレイヤーは見える風景に感激していたり、パーティー組もうぜと声を掛けていたりするが、気にしない気にしない。

 俺は俺、彼らは彼らだ。

 パーティープレイは嫌いじゃないけど、最初はひとりで確認したいことも多いし。


「ん?」


 初期設定らしい電子音と共に視界の隅の方にメールを知らせるウィンドウが現れた。

 俺はまだ誰ともフレンドになっていない状態ではあるが、ハードであるゲートギアには過去にフレンドになった者の情報が登録されていたりする。

 そのため、フレンドになってない状態でも連絡が来ることもあるし逆に送ることも可能なのだ。

 まあ……送ってきたのは彼女なので見たくない気持ちもあるけど。

 ただこれで無視をしたらいじめかってレベルで送ってくるかもしれないし、ちゃんと見て返事しておくべきだろう。何々……。


『やあ親愛なる我が友よ。

 私は今、現実から隔離された世界……私達にとってもうひとつの現実に足を踏み入れているよ。君もすでに訪れているのかな?

 もしもこの地を訪れ、そちらに行動を制限する枷がないのならば混じり合う座標を定めないか?

 これを見たらすぐにでも返事がほしい。              

                        ~君の親愛なる友より~ 』


 ……なるほど。

 要約すると、私も今AMOプレイしてるからそっちもプレイしてるならどこかで待ち合わせしない? ってことだな。

 俺のことを親愛なる友と呼びたいのなら中二病チックな言い回しをやめろと言いたい。

 というか、何か現実よりも中二病チックな言い回しになってるんだけど。

 もしかして……ゲームのせいでまた再熱してるんじゃないだろうな。まだ理解できる言い回しだからいいけど、昔みたいに意味不明な感じになってきたら俺は友達やめるぞ。

 親御さんからあいつのことは頼まれてるけど、俺には俺の人生があるわけだから。


『未だに痛さが抜けない人へ

 さっきログインしたけど、ひとりで見て回るつもりだから俺のことは気にせず行動してください。

 あとゲームの中で中二病チックな言動をするなとは言いませんが、こういう連絡や現実ではもっとまともな言い回しをしましょう。そうしないと友達が増えません。もしかしたら今ある関係も壊れるかもしれません。

 もっと自分を大切にしましょう。         

               ~あなたの親御さんから頼まれてる人より~ 』


 ……よし、返事としてはこれでいいだろう。無視もしてないし、こっちの考えはちゃんと伝えてるわけだから。

 それじゃ送信っと。さて、見回りますか……って返事早っ。

 うーん……凄まじく打ち間違いがありますね。泣きそうになるくらい慌てて打った感がハンパない。

 心を鬼にするべきな気もするけど、落ち込まれてそれが長引くと白石家から連絡が来そうだもんな。やれやれ……そうなるのも面倒だし待ち合わせしてやるか。

 意外と甘いなって?

 そりゃそうですよ。女子に泣かれて平気な男なんてそうそういないっすから。相手の見た目が良いと余計に罪悪感を感じたりするし。

 あいつが美少女じゃなければもっとぞんざいに扱えてた気はしてるよ。

 本気で泣かれると困るから限度は考えるけどね。俺、あいつの相手するのは面倒ではあるけど嫌いではないの。嫌いと思ってる相手と仕事でもないのに付き合えるほど人間出来てないから。


「さて……待ち合わせ場所どうするかな。……あそこでいいか」


 それはふと視界にあったNPCの武器屋。

 何人かプレイヤーの姿があるが、あいつが来るまでにそれは変動するだろう。それに俺の見た目は現実とそれほど変わっていないのだから見つけられないということはないはずだ。

 返事を返してっと……うん、返信早いね。

 俺としては買い物する時間欲しいんだけど……さすがに次の瞬間に現れてるなんてことはないか。

 転移アイテムなんて課金してない限りは序盤からあるはずないし、ステータス的に馬鹿げた速度も出ないだろうから。

 そう結論を出した俺は歩いて武器屋の方へ向かう。

 プレイヤーと大差のない外見をしているNPCに話しかけると、ウィンドウが開いて買い物が出来るようになる。

 ちなみにNPCと判断できる理由は、プレイヤーやNPCの上には小さいがカーソルが表示されている。そこの色で判断することが可能なのだ。プレイヤーなら青、NPCは翠、敵なら赤といった感じになる。


「支度金として支給されてるのは1500G……」


 それに対して買うことが出来る《長剣》カテゴリの武器はロングソードのみ。

 お値段は1本200G。他のカテゴリが150~250Gであることを考えると妥当な値段ではあるのだろう。

 問題は何本買うかだ。

 レベルを上げるにはモンスターと戦闘をするか、クエストをこなすのが一般的。採集系のクエストならば戦闘がなくてもクエストはこなせるが、敵から発見されにくくなるスキル構成にしてるわけじゃないし、何より戦ってレベルが上がる方が楽しい。

 そう考えると防具を買って防御力を補ったり、回復用にポーションを買うのが定石だろう。

 だがしかし……別に効率を求めたパーティーで攻略するわけでもないんだ。ここは自分の心に従うのが正解のような気がする。後悔はするかもしれないけど、立ち直れなくなるほどの後悔はしないだろうし。


「……よし」


 そんなわけでロングソードを6本購入しました。

 これで俺の残金は300Gですね。ポーションを買えばほとんどゼロになること間違いなしです。

 あと1本買わないのか、と思う方もいるかもしれないが……すでに俺は1本持っていたんだ。

 6本買えばトータルで7本。

 やっぱり7って数字は惹かれるものがあるじゃないですか。

 まあ全部破撃用にすると武器がなくなるから普通に戦うように1本って意味で奇数にしたところもあるけどね。

 では、さっそく装備していきましょう。

 いやはや、装備制限が緩いというのはロマンがあって良いですな。

 装備できる場所を色々と選べるから見た目にも気を遣えるし。というわけで……左腰に3本、右腰に3本、背中に1本装備しました。うん――


「――……凄く重い」


 特に下半身に掛かる重圧がハンパない。

 レベルが上がってステータスが成長すれば楽になるんだろうけど、今の俺はレベル1ですからね。予想していたことではあるけど、なかなかに苦行ですよ。まあやり通すけどな!


「やあ待たせたね! き……君は何をしているんだ?」


 颯爽と現れた中二病な知り合いは、俺の姿を見るや表情を一変させた。変なものを見るような目はぜひともやめてもらいのだが。

 これは余談になるかもしれないが、彼女のアバターは俺と同じようにそこまで現実と差はない。

 髪型も左目を隠すように変わってる部分を除けば変化はないし、髪色も銀色のままだ。瞳の色は片方隠れてるから見えにくいけど、どうやら青と金色のオッドアイにしているらしい。うんうん、実に彼女らしいですな。

 にしても……海外の血が混じってる人ってずるいよね。

 純粋な日本人だったら絶対こういう髪色合わなかったりするもん。まあこいつも日本人寄りの骨格になってたら違ったのかもしれないけど。


「何って……剣を7本装備してるだけだが?」

「……カ」

「か?」

「カッコいい! いやはや、さすがは私の認めた友だよ。7本の剣を装備しようなんてどこの剣帝だ。でもそこが良い、痺れる憧れるぅ♪ 何よりステータス不足で凄く重そうに思えて不便そうに、最初からそれを貫こうとするその姿勢にも感服した!」 


 早い早い早い、普段の倍速以上に口が回ってる。

 慣れてる俺はいいけど、誰にでもそういうのやっちゃダメだよマジで。テンションの上がったオタクって相手のこと考えずにしゃべったりするから。

 一方的に言葉を投げつけるのは会話とは言わないからね。人と話す時はちゃんと目を見て言葉のキャッチボールをしましょう。


「というわけで、さっそくフレンド登録をしよう」


 何がというわけなのか分からないが……まあいい。

 気持ちを切り替えるために小さく息を吐くと、目の前にウィンドウが表示される。その内容は《ルシア》からフレンド登録が来ているというもの。

 ここで俺が選べるのはイエスかノー。

 一瞬無意識にノーの方に指が行きそうになったが、さすがに本人の目の前でそれを押すのは俺でも躊躇われる。

 意外と繊細というか打たれ弱い部分もある奴だし。なのでイエスを選択しておいた。


「ふ……これでこの世界でも我々は契りを交わした盟友となった」

「そうですね……ところで何で髪型変えたの?」

「え……それは、その」

「まあ普段眼帯してるから普通に晒すのは恥ずかしいんだろうけど」

「分かってるなら言わないでくれるかな!」


 だって俺の予想であって真偽は分からなかったんだもの。

 まあそういうところを突けば、素が出て中二病チックな言い回しが増えないようになるかなって思いもあったりするが。


「よし、じゃあ俺はポーション買いに行くから。それじゃ」

「いやいやいや、何で別れようとしているんだ君は! それでは待ち合わせをした意味がないじゃないか……って、置いていかないで~!」



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