第2話 「キャラメイク」
翌日。
AMOを京華の分も含めて無事に購入。寄り道せずに家に帰ってきました。
連れはどうしたのかって? ゲーム買い終わったら即行で帰りましたが。あちらの世界でまた会おう、というキザな言動と共に。一緒に遊ぶなんて約束してないんですけどね。
「そんなことより……」
まずは京華の分のAMOを彼女の部屋に置きに行く。
従妹であっても異性の部屋に入っていいのかと思う者も居るかもしれないが、さすがに下着などが散乱しているわけではないので問題はない。俺が衣類を強奪したら問題だけどね。
次に俺の部屋に行き、VR用ヘルメット型ゲームハードである《ゲートギアV2》にAMOをセット。
V2なんて名前だが、VRゲームが出てそこそこ時間が経っているのでハードの方も何種類か存在しているだけだ。
初代のゲートギアよりも性能が上として考えてもらえばいい。無論、ハードのアップデートは定期的に行われてるので初代でもプレイは可能だ。
まあ快適さを求めるならV2の方が良いのだが。
ちなみにV2Gという更なる高性能タイプもある。まあこれはV2よりも遥かにお値段の掛かるものなのでブルジョワかゲームのためなら苦労を覚悟出来る人向けだ。一般高校生の俺には必要ない。
「京華は15時くらいには帰ってくるとか言ってた気がするが……まあよかろう」
おにぎりくらい用意しておいた方が喜びはするだろうが、友達とどこかに寄ってくる可能性もある。AMOのことを考えると真っ直ぐ帰ってきそうではあるが、その場合も食欲よりもゲーム欲だろう。
そう思った俺は意識から京華のことを消す。
ゲートギアV2を装着しベッドに横たわる。電源を入れるとすぐさま立ち上がり始め、セットされたソフトの読み込みが始める。読み込みが完了すると起動までのカウントダウンが始まる。
さっさと始めてくれ、と毎回のように思うがプレイするゲームを間違えていた場合、即行でゲーム世界に旅立ってしまってはログアウトしなければならなくなるため、ソフトを入れ替えるまでの時間が余計に掛かってしまう。甘んじて我慢するしかあるまい。
まあ……それでも失敗する時はするんだけど。
直後――。
俺の意識と感覚神経は現実世界から遮断され、ゲートギアの作り出した仮想空間へと招待される。暗闇から螺旋状の光と共に先へと進み、《アナザーマイセルフ・オンライン》とタイトルが現れる。
そこにあったゲームスタートの文字へ意識を向けると画面が先へと進み、制作した企業名などが現れた後にOPが流れ始めた。それが終わるといくつかの選択肢が出現し、その中から《最初から遊ぶ》を選択。
「さて……まずはキャラメイクか」
これまでいくつかのVRMMOはプレイしてきたが、AMOもそれは変わらないようだ。
VRゲームのキャラメイクには種類がある。
ひとつは現実の自分と変わらない容姿でしかプレイできないもの。
この設定になっているものは多くはないが、一時期現実と仮想世界の区別がつかなくなり社会を騒がせた人間が居た。そのためにこのような設定になっているものもあるのだ。
次に現実の自分の容姿をまず読み込み、そこから変更できるもの。
変身願望があまりない人はそのままプレイし、願望がある者は好きなだけ変更できる。性別や身長に関してはゲームによって現実と変更できないものもあるが、現状で最も多い設定だろう。
AMOもこの手のタイプであり、自由度の高さを謳っていることもあり、性別や身長も変更できる。ただしエルフやドワーフといった人間と異なる種族は存在していない。まあ見た目を弄ればそれっぽく出来るとは思うが。
最後は完全に違う容姿になるもの。
この手のタイプは人ではない悪魔や昆虫といった存在をメインにしているゲームで多い設定だ。俺は手を出したことはないが、聞いた話では自分で作るのも良し、お任せにするのも良しらしい。
「えっと……まずは名前か」
ここを現実と同じ名前にするプレイヤーは多くない。
その理由としては、容姿を現実とは違うものに出来るので名前が合わないことがあるからだ。
その他にも単純に自分の名前があまり好きではないとか、もしもトラブルが起きてそれがリアルにまで及ぶかもと思うと、名前にワンクッション置いておきたくなる。そのような心理もあるだろう。
俺の場合、苗字である南雲を《Nagumo》に変えればそれらしくなるし、名前が零次なのでそこから零だけ取って《Zero》や零の次である一を外国語にして《Eins》などを使うことが多い。
ただ……このゲームは明日葉や京華もプレイする。それを考えるとシンプルなものにしていた方が弄られにくい気がしてならない。
……よし、ここは最も使い慣れた《Nagumo》にしよう。
これからゲーム世界ではナグモって呼んでくれよな、なんてバカなことしてないで先に進みますかね。
「次はアバターの容姿か……まずは現実の自分の読み込みをしてっと」
俺は人からイケメンだと言われキャーキャー騒がれる顔立ちはしてないが、並よりは整っていると評価されることが多い。
故にコンプレックスのようなものは特にない。髭が伸びるのが早めなのでそれだけは気にしているが。
まあそれはちゃんと剃っておけばいいだけの話なので置いておくとして、現実の自分を使うのは他にも理由がある。
それは中二病チックな存在が身近に居たせいか、キャラメイクで作り込むことに抵抗を覚えるようになってしまったからだ。
「さて……顔立ちや体型はこのままでいいとして」
髪型や瞳の色くらいは変えるべきか悩むな。しかし……金髪や銀髪の自分というのも抵抗がある。
ここは…………よし、いっそ綺麗な黒髪にして瞳の色だけ赤とかにしよう。
現実の俺は綺麗な黒髪じゃないから中学時代は染めてないかって疑われることあるし。今通ってる高校は特に頭髪に制限はないから問題ないけど……ゲームの中で知り合いに会ったら学校で会った時にからかわれるかもしれないからな。黒髪ならそういうことにもならないだろう。
遊び心がないと思われるかもしれないが、俺は髪の色とかで遊ぶつもりないから。そのへんで遊ぶだけなら現実でもできなくはないし。
「んで……次は初期スキルの選択ね」
このゲームはレベル制とスキル制の両方を採用しており、スタートした段階では誰もがレベル1だ。
スキルをセットできるスロットの数は2つであり、事前情報ではレベルが10ずつ上がるにつれてひとつ増えるらしい。
またスキルはスロットにセットした状態で使用しなければ熟練度が上がらない。そのためスキル選びはとても重要であると言える。序盤は少ないスキルで攻略しなければならないのだから。
「事前に調べて分かってたけど……スキルの数多すぎだろ」
細分化するのは個性を出すために必要なことだとは思うけど、武器スキルだけでも全部の説明を読んでたら数時間は必要な数ってのはどうなのかね。これだけスキルがあると隠しスキルとかはなさそうな気さえしてくる。
仮にそうだとしても、学生としては四六時中ゲームばかりは出来ないわけだし、廃人だけが得しないと思えるからラッキーだけど。
「まあ……取るスキルは前もって決めておいたわけだけど」
それは《長剣》と《破撃》だ。
前者に関しては特に説明は必要ないだろう。王道中の王道というかどのゲームにもありそうな武器なわけだし。《大剣》とかロマンあるし、武器を自由に装備できるわけだから他にも惹かれるものはあったけどね。
後者に関してだが……簡潔に言えば、武器を壊す代わりに強力な一撃が放てるスキルだ。スキル熟練度や武器の残り耐久力に応じてダメージボーナスが発生、使用後に対象となった武器は耐久力がゼロになって破壊される。
この説明を見た時に俺は考えたのだ。
装備制限が極めて緩いこのゲームなら複数の剣を装備し、このスキルを使って強力な一撃が放ち放題ではないのかと。
序盤の資金面を考えると非常に効率の悪そうな馬鹿げた戦術だと思いもする。が、別に俺は攻略第一でもなければトッププレイヤーになりたいわけでもない。自分のやりたいようにしてこのゲームを楽しみたいだけなのだ。
「そんなわけでこれで確定っと……次に服装?」
それなりにバリエーションはあるようだが、別に防御力に影響が出るものでもないようだ。まあ初期の防具みたいなものだから当然と言えば当然なんだろうが。
ちなみに武器に関しては先ほど武器スキルを選ぶと最初の街で買えるものが自動的に装備されるらしい。つまり俺は《長剣》の初期武器が配給されているということだ。魔法系のスキルを選んでると《杖》や《魔導書》のようなものが配給されることになっているらしい。
「ふむ……ここは普通に長袖のシャツと長ズボンでいいか。色は……黒を基調にしたのにしよう。派手な色ってあまり好きじゃないし」
よし、初期設定はこんなものだろう。あとは先に進めて……特に変更する点はなしっと。
これで確定してよろしいですか?
という問いにイエスのボタンを選択。するとキャラメイクは終了し、完成したアバターがこちらへ移動してきて俺と重なる。それによって俺の身体は霊体のような状態から仮想世界での肉体へと切り替わった。
直後、歓迎のコメントが表示され周囲が光に包まれ始める。この光が収束された時、俺はAMOの舞台である《アストライア大陸》の始まりの街に到着しているのだろう。
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